あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

東京国立博物館 本館 (9月6日訪問)

2013-09-16 12:29:00 | 日本美術
 
 相変わらず、暑い日々と思いきやホッとするほど涼しい風が吹いてきたり、
 秋は近いのだと思いつつ、
 今日は上陸した最大級の台風の脅威に怯えます。
 日本列島がこの天災に振り回されながらも最小の被害で済みますように。

 台風ニュースを片目にあわててブログ記事にします。

 6日、東博に行ってきました。
 「和様の書」の後期を見なければと勇んで行ってきたのでした。
 典雅な琳派を育んだ上流社会の文化密度が濃密すぎて
 ガツガツした日々を猛省します。
 お香を焚いてしずしずと時の揺らぎを感じたくなりました。
 自然の移ろいと人々の心模様を写し、中国からの書を
 和様と変化させていった昔の日本人の美しき心意気。
 柔和に和をもって尊しです。

 その日は金曜日だったので、閉館8時までいられるという
 めぐまれた鑑賞時間を手に入れることができたのでした。
 たまたま我が家の男子共が晩ご飯がいらない日でしたので
 思い切っておやつ時から東博入りしたものの、
 結局は6時半には退館して帰途につき
 夕方から外にいることが不慣れになっていることに
 がっくりもしました。
 それでも、美しいものとの遭遇は脳内血流を活性化させてくれます。

 特別展の記事はあまりにも壮大で優雅の極みだったので
 本展のサイトで復習します。

 それで、本館の素晴らしいところ、ピックアップして
 記事にしようと思います。

 9月6日のことですので、あしからずです。

 *国宝室では和様の書と並んだ国宝の書の逸品
  和歌体十種 和歌体十種断簡
  紫に滲んだ雲が飛んだ料紙が温かな微笑ましい気持ちにさせてくれます。
  掛け軸になった断簡は様々な席で披露されてきたことで
  色が濃く変色したのだろうという解説がありました。
 
 *仏教の美術
  断簡がたくさん展示されていてその軸装の美しさもあって
  華やかな気配がありました。
  伝道真やら、伝嵯峨天皇やら、畏れ多い方々の登場でした。
 
  また、太秦切という法華経断簡には愛らしい聖徳太子が富士山に向かって
  飛んでいく姿が見返しに描かれています。
  解説によると見返しの絵だけは後補だそうで、聖徳太子絵伝の伝説を
  描いている、とのことでした。


  そこに珍しい彩色のある華鬘が展示されていました。
  木製彩色婦人乗馬図華鬘 


  木製彩色胡蝶舞図華鬘

  
 *宮廷の美術
  仏教の美術で断簡の紹介が数点ありましたが、
  ここは歌仙たちの断簡です。
  壬生忠峯、源順、藤原元真、などのやんごとないご面相が並びます。

 *禅と水墨画
  雪舟(伝)の大画面、四季花鳥図屏風
  その中で墨書がいぶし銀に光ります。
  夢窓疎石筆の二行書、この人の文字は墨跡展で幾度となく
  お目に掛かります。
  ゆるっとした力の抜け具合が美しい文字です。
  他にも和様の書展に相応しい美しい歌の書が展示されていました。

 *茶の美術
  秋の茶会のようなしつらいに。
  志野茶碗 銘 振袖 
  白い肌に薄がうっすらと。
  濃い緑のお茶が入ったらどんなに映えるだろうと思います。
  丁度三井記念美術館で桃山の名茶碗が勢揃いするとか。
  楽しみです。



  熊川茶碗 銘 田子月
  茶碗の口が外側に反っていてぽっこりとした形が特長なのですが
  それがお茶席に穏やかな気配をつくってくれそうです。



  仁清作の土肌の黒い陶器による建水。まるで金属で出来たような質感。
  仁清のろくろの凄さを破綻のないキリッとした形状に感嘆します。



 *屏風と襖絵
  屏風という大画面の夢の世界です。
  美術工芸品が室内を甘美な物語世界に導きます。
  堂々と扇面散屏風が現れてため息です。
  そこには60枚の扇面が貼り交ぜてあり、
  宗達の絵所、俵屋の製品も含まれているとか。
  屏風仕立ての金具の金工もウットリするほどの
  花文様の透かし彫りが見えます。





  扇、屏風、絵が室内を飾り集う人々の心が踊る思いが伝わります。
  酒井鶯浦の軽やかな屏風も艶やか。



 *書画の展開
  ここにも扇面散図屏風が登場です。
  伝、俵屋宗達筆、二曲一隻。
  重厚感ある配色と散らされた扇にリズム感があります。
  単純な富士山や、波頭、朝顔などが見えます。



  今回の目玉は抱一の四季花鳥図巻下巻。
  抱一の色使いはその人の趣味全開で、名家出身らしく
  品の良さ、目線の確かさ、優しさがにじみ出ていて
  光琳に捧げた画業もさることながら、
  日本の叙情をおしげもなく表現した殿なのではないかと
  つくづく思って眺めたのでした。







  サントリー美術館でみた文晁の息子、文二の仕事と出合いましたし、
  文晁が仕えた松平定信のマジメな一行書にも遭遇しました。


 *浮世絵ー人びとの絵姿
  前回は国芳オンパレードでしたが、
  今回は春信がぎっちり、34件!
  恋の矢文は
  若いお兄さんが茄子を持っていて、那須与一をイメージさせます。
  綺麗なお姉さんを射止めるのだと、恋路の始まりをみせてくれるわけです。


  素直な色気となだらかな姿やらでとろんとした気持ちにさせられます。
  その春信の作品が一同に会して圧巻の展示となっていました。
  16日までの展示だそうです。
  これだけを観ることができて実に豊かな気分となりました。
  「見立菊慈童」は重要美術品。
  何年か前の松濤美術館でみた春信作品が本当に綺麗な刷りだったことを思い出します。





 
 今後は鳥居清長、広重を特集していくそうです。
 どんな作品と出会えるのか、ワクワクします。


 他、一階の展示から画像を紹介します。

 漆工は本当に日本を代表する工芸だとつくづく思います。
 海外でジャパンといわれ、憧れ、コレクションされてきたことも
 うなずけます。
 これは木、漆、植物で出来ているのですから、本当に驚きの芸術品です。
 やきものと並んで興味がつきない工芸品です。

 
 この単純な千鳥の動きをよく見るととても愛らしい姿、表情があることに
 驚きました。鳥たちが漆器を彩ってきた原形を観るようです。


 
 伝、光悦の硯箱ですが、今回の展示で蓋裏の表現を観るチャンスに恵まれました。
 蓋裏にも手抜きが一切ありません。流石としかいいようがありませんでした。

 また、「運慶と快慶周辺とその後の彫刻」
 特集陳列も見応え充分です。11月17日までの展示なので
 改めてじっくり見に来たいと思います。
 あの、真如苑所有の大日如来様もお出ましです。
 
 東博らしい特集があります。
 博物図譜の特集です。
 ここには珍しい奇獣図譜のありえない動物たちがまことしやかに描かれています。
 また、植物の可憐な図譜もありました。




 こうして、特別展を平成館で開催中の本館のこれまた
 ものすごい充実振りにほとほと呆れつつその奥深さに畏れをなした
 金曜鑑賞でした。

 これから、10月1日からは東洋館で「上海博物館、中国絵画の至宝展」
 10月8日からは「京都」展が開催されます。
 芸術の秋、庭園解放もあり、すぎゆく季節の移ろいを感じつつ、
 名宝の素晴らしさをこの目で確かめたいと期待しているところです。

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