あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

2015年アート鑑賞ベストテン番外追記

2016-01-13 21:43:10 | アート鑑賞記録

 前回、2015年の展覧会ベストテンなどを挙げてみましたが、
 番外、というにはもったいない展覧会もありましたので、
 感想を残しておこうと思います。

 2015年全体に流れていた、女流作家の展覧会が健闘していました。

 破格のパワフルな絵では 片岡球子展(国立近代美術館)が挙げられると思います。
 持ち前の描きたいという情熱の裏には
 おびただしいデッサン、スケッチが見つかったことによって
 本作までに至るプロセスが容易なものではなかったことを知らされます。
 球子さんでさえも、日々の鍛錬がやはり力となっていることを痛感させられました。
 それにしても何の作為もなく、ひたすら絵を描くことに邁進している姿に、
 ともかく、今やること、それが大事だと背中を押してもらいました。
 
 破格のパワー、といえば、リキ・ド・サンファル展(国立新美術館)
 こちらもオブジェそのものの大きさも、カラフルなところも、
 女流として戦ってきたこともなんとなく片岡球子さんと共鳴するところが
 おおいにあったように思いました。
 どんと肝を据えて堂々と突き進めば、
 なんとかなるものよ、と勇気もらったのでした。





 その流れは暮れの横浜にも届いたようで、
 鴻池朋子さんの個展が開催されていたのですが、
 残念ながら情報をたぐることしかできませんでした。
 鑑賞した方々の感想やら、新作の画像などをみても、
 新たな鴻池朋子ワールドが展開されたようで、大変嬉しく、心強く思ったのでした。

 女流繫がりで、山種美術館では上村松園生誕140年記念としての
 「松園と華麗なる女性画家たち」という展覧を
 ご近所の実践女子学園と協力しあって、新鮮な形で開催しました。
 会場を二カ所にしたような充実の展覧でした。
 実践女子学園の香雪記念資料館の会場では
 女子大生の丁寧なアシスタントに好意を持ったことを思い出します。
 松園が女性初の帝室技芸員となったのかと思いきや、
 実は彼女の40年前に任命されていた野口小蘋(のぐちしょうひん)がいたのでした。
 また、以前松岡美術館のどの展覧会か失念してしまったけれど、
 断髪で強面の奥原清湖という南画を描く女流画家がいたことを
 強烈に覚えていて、この展覧で再見し、小躍りしました。
 ほか、伊藤小坡、片岡球子、小倉遊亀、木谷千種、島成園、ラグーザ玉
 などの作品が並び、女流画家の活躍を知る良い機会となりました。
 山種美術館は根津美術館から頑張れば歩いて行かれます。
 また、企画展ごとのコンパクトな図録もお気に入りです。
 もちろん、その企画にあせて生まれる食べるのがもったいない
 愛らしい和菓子も楽しみの一つです。
 夜のイベントになかなか参加できないのが残念ですが、
 若い方の参加で盛況なこと、嬉しい事です。




 その後、夏のオークラホテル、恒例の「アートコレクション展」
 において、木谷千種、片岡球子、上村松園の作品と巡り会うのでした。
 そのオークラホテル、いよいよ解体の時が迫り、
 大倉集古館も閉館したままで、工事が迫るような残念な姿を見てしまいました。
 内外の著名人から惜しむ声が沢山寄せられていました。
 ホテル美術館としてのニューオータニも既に閉まってしまいました。
 ゆったりとした空間で楽しむ、その環境の中で優雅なダイニングを楽しむ、
 そこにステキなアート鑑賞に贅沢な付加価値が生まれるのです。
 今後、東京五輪まで、という期間なのだそうですが、
 建設当初のこまやかな日本の伝統技術をぜひぜひ継承していってもらいたいものです。
 「アートコレクション展」では、日本の絵画としての代表作家たちが
 勢揃いした豪華なものでした。
 そこに共鳴するかのようにマチス作品が並んだことも展覧に
 リズムが生まれ、幅が広がったものになっていました。
 今村紫紅の「護花鈴」が雅な屏風にミステリアスな緊張感がある印象的な作品でした。
 また、岡本神草「仮面を持てる女」に甲斐庄楠音を感じると思ったら、
 やはり、入賞候補に二人が挙げられて悶着があったそうです。


 
 こうして、近代女流画家の活躍を彼方此方の展覧で互いに引き合うように
 鑑賞しながら、同時代の巡り合わせを興味深く感じた年でした。

 他に、岩佐又兵衛の超大作、「山中常盤絵巻」をMOA美術館まで出向いたことも
 記憶に残る鑑賞でした。
 MOA美術館では岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」「浄瑠璃物語絵巻」
 「堀江物語絵巻」それぞれ12巻を所蔵している、希有な美術館で
 岩佐又兵衛ファンならばこの目で見てみたい、と思うところでしょう。
 その好機が転がり込んできましたので、
 ワクワクイソイソ新幹線に乗り込んで出かけました。
 さすがの本物絵巻が12巻並ぶ姿は壮観圧倒で、それだけで見る力が吸い取られ
 所蔵の名だたる名宝が霞んでしまいました。
 それにしても絵の具の発色の鮮やかさ、本当に江戸時代のものなのでしょうか。
 細部の表現にも手抜かりなく、牛若丸のめくるめく活躍に目を奪われてきたのでした。
 辻惟雄先生ご執心の名場面、常盤御前が暴徒に襲われ、瀕死の状態に
 宿の主人が最期を看取るシーンは血なまぐささがありながらも
 陶酔のエクスタシーの美が盛り込まれます。
 また機会をねらって「浄瑠璃物語絵巻」「堀江物語絵巻」をこの目で確かめたいと
 願ったのでした。
 それらの作品をまとめた「岩佐又兵衛作品集」矢代勝也著 この本が大変役に立ちます。
 何しろ極彩色。超絶技巧。目眩がします。



 その興奮冷めやらぬ夏の暑い頃、「絵巻を愉しむ」という企画展が
 大手町皇居、三の丸尚蔵館で開催されました。
 それもまた、岩佐又兵衛作と言われる「をくり」絵巻を中心に、とありました。
 これはいかずにはいられません。
 前期、後期とも楽しみました。
 「小栗判官絵巻」15巻のうちから部分でしたが、相変わらず賑々しく濃厚な色使いです。
 会場には全体の縮図が掲示され物語のあらすじを追いかけることができました。
 しかし、それではわからない事だらけでしたので、
 「小栗判官と照手姫」という鑑賞ガイド本を手に入れて
 破天荒な物語を辿ることにしましたが、
 なぜここでこれがでるのか?という無茶が満載なので、
 そんなことも含めて楽しめばいいのだと奇妙な展開と弾ける絵の具を
 図版からも楽しみました。
 ここでも以前、出光美術館で小栗判官がぼろぼろの老人となって
 車椅子に乗せられ、橋のたもとを移動している場面を見たことを思い出しました。
 それはどういう場面へと繋がっていくのか、ようやく知ったのでした。
 そういえば、東博でも部分の展示があったように思います。
 それにしても長大な奇想天外な物語。見る人は瞬間瞬間胸ときめかせ、
 次はどうなってしまうのか、胸を痛めながらもドキドキして楽しんだことでしょう。
 最後判官は沢山の神々に囲まれての大往生となってしあわせなハッピーエンドとなるわけです。
 めでたし、めでたし。
 この三の丸尚蔵館もいずれ改築し展示総面積を増やす計画があるそうで、
 楽しみにしたいところです。






 こうして、2015年は見逃した残念な展覧会だらけの一年でしたが、
 面白い発見、実見が叶って有意義な時間をつかむことができました。
 大展覧会の陰で、小規模な展覧が印象に残ることもあります。
 その時のタイミング、巡り合わせ、ということも大きいかも知れません。

 さて今年はどんな展覧、美の発見がありますか、ワクワクします。
 年初から東博、サントリー美、三井記念美、銀座松屋の着物展などに
 行くことができましたので、まずますなスタートとなりました。

 急に寒くなり、冬らしくなりました。
 体調管理に気をつけて、ステキな発見がありますように。 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2015年 アート展覧会ベスト10 | トップ | 流 麻二果『角ぐむ』 ギャ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。