あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

澁澤龍彦ー幻想美術館 ・埼玉県立近代美術館

2007-05-09 23:18:18 | 美術展
去年、ダリを見た。
エッシャーも見た。
細江英公の写真展を横目で見た。
友人の横尾忠則のポスターに改めて、うぉーと唸った。
その時代に宇野亜喜良がいるし、三島も当然。
武井武雄の本が神保町の古本屋で可愛らしく売られていた。
今年の初め、千葉で、中村宏を見ている。
その中村宏の現美の企画展が見に行なかったのが残念。

江戸の絵師達も沢山見た。
北斎、若冲、暁斎、抱一、などなど。

これはなんだか、仕組まれたかのようにここ一年の間、
今回の澁澤龍彦展を見るための下勉強だったのではないか?

ともかくは、今朝、埼玉に行くことを決めた。
暑い初夏のような日差しの中、北浦和で下車し、
緑深い公園の一角にある、近代的なデザインの埼玉県立近代美術館に入った。
鑑賞者数は、GW明けの水曜日、まばらで、若干女性のほうが多かった。

彼の収集の絵は、エロティックな画面が沢山だから、まじまじと見るのに、
殿方の視線を気にしなくても良いことに、安堵した。
だって、彼の執着は秘密の部屋で見るものだから。

展覧会は、年代を追って、眼の過程で区切られていたから、
展示品と一緒に年代を追うことができ、
彼のドキュメンタリーを見ているような気がする。
時々、証拠写真があって、楽しい。

展覧会全体と図録を巌谷國士氏が愛情溢れる眼で監修していることがわかる。
みんな、彼が好きだったのだ。
彼に認められると言うことの至福を、心から感謝しているのだと思う。
並み居るアーティスト達が、溢れる愛情でこの展覧会を
盛り上げていることもわかる。
そのころ、きっと、この人たちの異端ぶりが想像に難くない。
状況劇場と、美輪明弘、寺山修二、三島由紀夫、横尾忠則、
サド裁判もあったし、赤瀬川源平の偽札裁判もあったっけ。
昭和が混沌としていて、
何でもやった時代。
しかし、人々は何でも許していたのかと思えば、
出る釘は打たれたのだと思う。
人々にとって、決してお行儀のいいものじゃ無かったのだ。

美術学校を始めようと言う時、澁澤氏は、エロティックを担当する講師だった。
そんなポスターも面白かった。

私にとって、唯一解けないのは、大野一雄と、土方巽の踊りの世界。
細江英公が異郷の人の姿として、モノクロで見せてはくれるのだが。

池田満寿夫のコラージュがいい。「聖澁澤龍彦の誘惑」と言う題もやってくれる。
ねっとり悪徳の画面にちゃっかりシブサハ氏が登場しているのだ。

そして、彼の愛した作品たちが壁を黒く染める。
デューラーは、あきれるほど綿密な線の数。
ゴヤも空恐ろしい、暗澹たる空気。
ルドンも何を見ているのかわからない。
モローは豪奢で恐ろしいほどの美。
ビアズレーの陶酔。
エルンストのシュール全開。
ダリはシュールの帝王。
シュールなピカソもいた。
マグリットは、ダリから少しポップになった感じ。
不思議なデルボー。

個室で見たい、ベルメール。
奥さんまで縛ってしまう。

サドを紹介して、日本でもエロスを描いてもいいことになったのだ。
横尾龍彦の「隠された真珠」は圧巻。
金子國義、四谷シモンたちとの深い交友は有名。
驚いたのは、加山又造との関係。
藤田嗣冶のような裸婦があったのだ。
また、二人の虫好きが高じて、澁澤氏の本の装丁にもかかわっていたのだ!!

それよりも驚いたのは、島谷晃「自転車」
ふくろうが人の顔の羽で覆われていること。
その数たるや・・・・!!!
脚の爪の際まで!!
西洋美術にばかり加担しているのではなかった。
日本の絵師達にもきちんと眼をむけている。

映画好きの一面も。
カトリーヌ・ドゥヌーブの若い頃の写真。
シャーロット・ランプリングの「デカダンな女」
「アンダルシアの犬」は、ダリ展で、しっかり見た。
私も大好き。あのシュール振りはなかなか他ではお目にかかれない。
彼のお気に入り第2位なのだそうだ。
あぁ、ちゃんと5位まで、覚えておきたかった!!
「メトロポリス」が入っていたようだった。
メモをする、ということを私はなぜしないのだ??
最後のセクションは、
彼へのオマージュ。
ただただ切なくなる。
病室での筆談。ありがとうの文字。
シモンの天使。
奈良原一高のレクイエムーシブサハ。サングラス、パイプ、羽。
中西夏之のコンパクトオブジェ。(これください!!)
野中ユリのコラージュ、高丘親王の最後の一文付き。

線の細かったお家柄もいい美男子が追い続けた自身の探求が、
アートを探る熱情の人々をぐるぐるにして、
そして、真珠を飲み込んで、
天竺に旅立っていった。

彼の見た様々なものが残っていて、本当によかった。
書いたものが残っていて、本当に幸せだ。
これからも、彼の遺産をゆっくり眺めていることができるのだから。
まだまだ書き足りないけれど、この辺にしておく。
ビロード張りの宝石箱にしまっておこう。

追記:焦って記事にした後、良く読んだら、恥ずかしいマツガイが見つかり、
   こっそり直していますが、まだ見つかりそう・・・
   毎度ながら、校正の仕事はできないと反省かつ、年齢を感じております。    浅学をお許し下さいマシ。





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14 コメント

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気になっています、澁澤龍彦 (菊花)
2007-05-10 00:01:58
4月に渋谷の松濤地区をウロウロして、
その時に立ち寄ったギャラリーTOMで
『澁澤龍彦展』をやっていたのです。
オーナーさんが「埼玉県立近代美術館でも
澁澤龍彦展をやっているんですよ」と教えてくれて、
おお!それは行かねば!と思ったのですが・・・
ほかの道楽にかまけていて北浦和まで足を運べていません。
20日まで、ですよね・・・。時間がない。
映画『大野一雄 ひとりごとのように』も、
時間のやり繰りが着かずに見損ねたのです。ふう・・・。
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澁澤龍彦展 (supika)
2007-05-10 00:26:23
澁澤龍彦展すばらしいですね。あべまつさんのブログよみながら、カタログ見ながら行ったときのこと思い出していました。
あまりにいっぱいでどこから切り出していいものやら。とにかく私の澁澤龍彦の入口は池田満寿夫でした。良く澁澤さんの話を書いてましたから、そのなかで野中ゆりとか加納光於、数え上げたらきりがない、デルヴォーもダリもモロオもと。池袋西武で澁澤展があったとき流していた、サド裁判での澁澤さんの声、ちょっと甲高いような声、聞こえてきそうです。私も引越しのたびに本を大分処分したこと後悔してます。もっともまだ20冊以上はあるので、ゆっくり読むことにしましょう。また北鎌倉の澁澤詣でがしたくなりました。
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澁澤龍彦展 (とら)
2007-05-10 09:12:24
熱のこもった記事を読ませていただきました。彼とその周囲の人たちの強烈な個性に半ば反発しながら、それでも不思議に惹かれる部分を熱心に鑑賞したことを思い出しました。
そろそろ本屋で図録を買って幻想美術館の空気を吸いなおしてみようかと思っています。
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菊花 さま (あべまつ)
2007-05-10 17:24:00
こんにちは。
ギャラリーTOMにお出かけされたのですね。
なんともそそる覗き玉手箱のような世界で、
そそられます。
見たい物とのタイミング、ありますよねぇ。
泣く泣くっていう体験は、またいずれ見る時が来るだろうと、未来志向でやっつけましょう~~
そういえば、この展覧会巡回するそうです。
札幌に8月から9月末まで、その後、横須賀美術館に10月6日~11月11日まで。
横須賀美術館はオープンしたばかりですよね?
そこもまた一興かも。
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supika さま (あべまつ)
2007-05-10 17:31:39
そうなんですかぁ。
池田満寿夫から、リアルタイムなんですね。
羨ましい限りです。
正しい美術をお勉強する人達には、なんともな存在だったことでしょう。
でも、こういう事から目を背けず、エロスを受容して解放されなければ、きれい事じゃ済まされないんだし、とか思ったり。
つい裏返ししたくなる私の好みにはまったのは、
そんなところでしょうか?(笑)
北鎌倉には、合田佐和子さんもいらっしゃいますね。
ぜひ私も行きたいところです。
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とら さま (あべまつ)
2007-05-10 17:39:20
つい熱が入ってしまいました。
たぶん、見ちゃいけないことの世界を彼が代弁してくれたのだと思います。
いけないことって、魅力溢れていますもの。
とても自力じゃ覗けない世界をこそこそ覗き見したような、幸せ感もあります。
彼の凄さは、やはり著書に溢れています。
あの美術展は、著書の図録だと思ったのでした。
私のアート鑑賞の壺は、悪徳の匂いがなければ、つまらないっていうところです。
とらさんもぜひ、思いっきり吸い込んで欲しいです!
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舞踏 (Tak)
2007-05-10 23:59:57
こんばんは。

アクの強い、そして今の時代からするととてもとても濃厚な時代を写し出すような展覧会でしたね。

あべまつさんの熱のこもった文章にただただ感心。
もっと澁澤若い時に読んでおきたかったです。
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Tak さま (あべまつ)
2007-05-11 11:10:20
おはようございます。
Takさんに感心して頂いて、恐縮、感激です!!
アクの強さと言ったら絶後ですよね。
花鳥風月とは真反対でも、実は花鳥風月の奥底にはこれが鈍く光っているに違いないと思っているんです。
具体的に表現されてしまったから、ひるんでも、
花の下には、地獄絵が、ってな具合に。
何でも裏返ししたくなる私の眼の壺なのです。
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Unknown (遊行七恵)
2007-05-11 12:47:16
TBありがとこございました。
売り払って再度、というのは死と再生を思わせて、ときめきます。
再生してからの方が何事も濃密な楽しみを得られるものですから、とてもいいなと思います。

ぜひTOMゆかれてください~
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遊行 さま (あべまつ)
2007-05-11 21:11:01
遊行さんの所の記事をTBできて良かったです。
以前はなんか失敗してしまって、できなくで、残念だったのです。よかった。

流行病に冒されて集めた30代より、今の方がぎゅっとときめきます。
小説のめくるめく展開は、大正文学の香もします。
石川淳氏を尊敬したこともしみじみします。
TOM行ってきますね♪
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