あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

石田徹也 悲しみのキャンパス展 静岡県立美術館

2007-08-12 12:57:11 | 日本美術
去年、NHKの新日曜美術館で、衝撃的な絵が紹介された。
31歳で亡くなった、石田徹也という画家の絵。

その番組ナビゲーターがかの美術探検隊の口ひげ山下裕二先生。
かねてから、山下裕二先生の眼の付け所に私の心は喜ぶ。

人間くささを大切にする見方、表現の力の裏に人間力があることを
力説する見方。時代の絡み、流れ、しくみを通したその絵の位置。
生きた人の作ったものとして、魂力、を感じるのだ。

その山下先生が静岡県立美術館で、石田徹也展の講演会で講師をされたようだ。
石田徹也の絵を縁ある方から、彼の絵を見てほしいといわれ、
そのまま彼の絵を紹介するミッションを背負ってしまった。
その成り行きを今回のための小冊子に掲載している。

その石田徹也展が今静岡県立美術館で、19日まで開催されている。
なんと、150点余りある作品を無料で公開中だ。
静岡鉄道に乗るのなら、
県立美術館に行ってみようと思って、HPを開いて驚いた。
こんなタイミングがあるものなのだ。

さて、新幹線から、静岡鉄道に乗り継ぎ、バスに揺られ日本平の懐にその美術館は建っている。
それだけで、静岡県の豊かさを感じた。
館内に入り、そのずっと奥まったところが会場だ。
わくわくする気を沈ませながら、受付に近づく。
 
受付横にはTVが置かれ、
過日放映された新日曜美術館の石田徹也特集が映し出されていた。
何人かが座って見ている。
受付に立ち寄ると、
この展覧会のためのパンフレットはもうなくなってしまったそうだ。
そのかわり、一枚のハガキを頂く。
「1996 おやじ」
コタツがひっくり返り、晩御飯が飛び散る。
ひっくり返ったコタツに憤懣の親父顔。
コタツの脚が手足になり、コケティッシュな哀愁さえ滲む。
親父とは、こんなものよ、という理不尽な条件が満たされている。

ハガキを受け取り、気をよくして会場内に入る。
無料なのだから、紹介程度の作品数なのだろうと思いきや、
いったいどこで終わるのか、出口が見えない。
鑑賞者は、平日のこの地の利の割には入っているようだ。
同時にNHKの日曜美術館30年展が回ってきている。
そのせいもあろうか?

目の前に戦闘機に顔を出した絵が見えた。
彼の代表作。
これからが大変だ。
ずんずん押し寄せてくる。
これでもかと、ずんずん。

作品リストはないのだそうだ。

でも、彼の絵を見ていて、リストはいらないのだと思った。
彼の世界全体が一つとなって、迫ってくる。

驚いたことに息子が一人で様々を見入っている。
私に声もかけない。

彼の世界と息子の世界が今までの美術館で見てきたどんな絵より
近くて、理解できるものだったのだろう。
時代を同じくしている人たちの共通のツール、そんなものが存在しているようだ。

実際生活して、人生を続けることは、
こんなことだろうと、誰も表現しなかった、現代の超現実シュール。
男性ならではの、内在するえもいわれない不可思議な力。
憤懣やるかたない、しようのなさ。
切ないけれど、
本当はどう思っていたのだろう?
生きることに対して、絵としか会話しなかったのだろうか?

感情表現を押し殺して、無表情な自画像に何を語ってもらっているのだろう?

生き難く、競争社会で髪振り乱して、前に行かなければならないこと。
ベルトコンベアーに乗ってしまったら最後。
機械、オートマチックに悲しい表情をさせようとしているのだろうか?

様々なシチュエーションに遭遇して、実はみんな気が付いてないだけで、
日々、こんな生活していることを教えてくれた、それだけなのかもしれない。

溢れるやりきれなさに気づかせるメッセージ性の強さ、
その思いが充満している魂力の凄さに、しばし呆然とするしかないのだ。

図録はなく、彼の作品集があるのだが、
ショップでぱらぱらめくっただけで、買わなかった。
彼の絵と対面した直後に、本になった作品集を持って帰る気にならなかったからだ。

幸い、彼の作品のHPがあることを知る。
現代の若い人たちと共有できる、今の時代の生き様を理解してくれる
得難い画家の急逝にただ、残念な気持ちでいっぱいだ。
それさえも彼の絵を生かす力となっているのだろう。

綺麗事じゃないってこと、しってるけどさ、
そんなもんじゃん?
でもこの絵、ヤバイことになってるって。
これ、まじキモクない?

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6 コメント

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お見事です。 (meme)
2007-08-13 19:44:59
さすがに、あべまつ様は見事に彼の展覧会を表現
されてますね。
はぁ~(ちょっと溜息)。

私のは明日アップされます。
上記の溜息はそれと比べて出てきました。

やっぱり上手く気持ちを伝えられそうにありません。
返信する
meme さま (あべまつ)
2007-08-13 23:13:58
去年から気になっている作家、石田徹也と対面でき、熱くなってしまいました。
こうきたかぁ、と、やられてしまいました。

見たくもない醜悪なところをひねってすねた所、
きれい事じゃすまされないって事、
心の袋を裏返しにされた感じです。

お見事との賞賛、嬉しくも恥ずかしくもあり、
memeさんにはいつも励まされます。感謝
返信する
Unknown (一村雨)
2007-08-19 07:48:49
私もさっそく出かけてきました。
本当に見ていると、胸が痛くなるような絵でした。
でも、それは、この画家が夭逝したことを知って
いるからではないかとも思いました。
もし、存命で活躍中ならば、ブラックテイストな
アーチストだなぁと、にやりと笑って、眺めて
いたかもしれません。
返信する
一村雨 さま (あべまつ)
2007-08-21 17:34:42
一村雨さまもお出かけでしたか~!
あの画面から溢れる不思議なパワーに引き寄せられて、静岡まで行ってしまった気がしてます。
病気がちな体と戦い続けつつも、
反骨精神あふれ、優しい真面目人が、
絶望を味わったのでは?と思うのです。
日本テイストのシュールですよね。
返信する
明日発売の「アエラ」に (oki)
2007-09-14 21:58:57
連休の関係で明日発売される「アエラ」に「あなたの中にも石田徹也がいる」という四ページの記事が掲載されています。
僕はもう読みましたがアマゾン一位の遺作集とか。
しかし「新日曜美術館」の影響って大きいんですね。
返信する
oki さま (あべまつ)
2007-09-14 23:03:27
こんばんは。
昨日、本屋さんの美術コーナーで、彼の画集があって、これは相当メジャーになってきたなぁと実感しました。
たっぷりナマ体験したので、買わずに帰りました。
でも、ショックな経験を絵で感じる珍しい絵だと
思っています。アエラ立ち読み、します!
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