あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

須田悦弘展・須田悦弘による江戸の美 ・千葉市美術館

2012-12-03 22:12:52 | 美術展
 須田悦弘作品を初めて見たのはいつだったでしょう?
 何年か前に東京美術倶楽部で開催された「正木美術館展」
 その意表を突かれた登場にいまでも驚きを忘れません。
 茶室しつらいの場所に多分、蹲というやきものの掛花に白い椿が
 生花の代わりに何事もなかったかのように挿してあったのです。
 衝撃でした。
 お茶の世界で茶花はたった一つ外界との接点で
 お茶室に瑞々しい空気を吹き込む使者であるとの認識が崩れます。
 未来永劫枯れない花を入れて良いのかと驚きました。
 しかし、それは諧謔趣味だし、お客様との間を取り持つ
 花という見立てになるし、死後の形である復活かも知れないし、
 充分素晴らしく茶花として通用するかもしれない、
 などと思い巡らせ、得心したのでした。
 
 そして大倉集古館での「根来展」
 一階の二月堂しつらいのケースの中で拝見しました。
 そこには二月堂の焼経が掛けられ、
 その下に根来のお水取り用の丸盆。
 その横だったか、やはり椿がふわりと置いてあったのでした。
 紅だったと思うのですが、のりこぼしだったかもしれません。
 以来、美術雑誌などで度々作品やインタビューなどをよく拝見するようになりました。

 なんという繊細な生々しい仕事をされる作家さんだろうと
 注目してきました。

 今年、会員になっている千葉市美術館の展覧予定に
 須田悦弘展の案内を見つけて千葉市美の企画に大喝采です。
 よくぞやってくれました。
 会期が始まってしばらくでして、従妹の赤ちゃんの美術館デビューをかねて
 月曜日開館に行くこととなりました。

 現地で旧友も合流しました。

 会場は薄暗く、なにやらブースが点在しているような不思議なアトラクションのよう。
 靴を脱いで緊張感ある狭い入り口から入ります。
 まるで祭壇に向かうようで、一人作品と向かうシステムです。
 隣に誰も入り込めません。
 つまり、作品を見せる器、小屋、それも須田悦弘作品だということでした。
 いけばなが飾る場所を大事にするように、
 お茶器を茶会にどう映るかを思案するように、
 場と作品との関係を大切にする作家さんだということが
 それだけで伝わります。
 立体掛軸、そんな様相もあるのではないでしょうか。

 今まで通った千葉市美術館の会場が全く違うもののように見えたのは
 須田悦弘マジックによるものでした。

 会場ではどこに作品が展示されているのか、
 それを見る人にゆだねています。
 リストを頂いても展示場所を記されていません。
 見つけたあなたとの関係を大事にするのでしょう。

 途中、作品探しに難航している小学生の男の子とおばぁちゃんと
 一緒に発見できたときは、同士のつながりが芽生えたりしました。

 会場は8階と1階。
 1階のさや堂はもと銀行だったという天井の高い明治の香りのするステキな建築物です。
 須田さんの遊び心にもてあそばれた感もじれて楽しい思いをしました。

 関連展覧として、7階で「須田悦弘による江戸の美」という千葉市美の所蔵品との
 コラボレーション展示です。
 この展示がまたとてもすばらしく、特に浮世絵の展示には
 今まで見た浮世絵展示の最高ではないでしょうか。
 ゾクゾクしました。
 薄暗い部屋にぼうっと浮世絵だけがひらひらと光って浮かんで見える仕組みに息をのみました。
 浮世絵サイズのケースが林立し、覗く混むように展示されているのです。

 後のケースでは須田悦弘作品とのコラボレーションです。
 いったいどこに作品が隠れているのか、
 かくれんぼの鬼の気分です。
 屏風からは描かれた花房から一つこぼれたようにそのもとにぽっと
 落ちていたり、
 ほんの隙間に朝顔が乱れ咲いていたり、
 風で飛ばされた木の葉が吹きだまりに落ち着いていたり、
 どこまでも見る人を遊ばせてくれます。
 ただ美しい花、草花に目を向けるのではなく、
 見ているものの虚実性に遊ぶ、そんなしゃれっ気と
 つい嵌まってしまう罠にわざわざ引っかかり行くような可笑し味、
 そんな楽しい仕掛けに出会えます。

 この展覧に作られた図録がまた素晴らしく、
 漆への拘り、作品への愛着に心惹かれたのですが、
 このシャープな写真は誰が撮ったのだろうと思ったら、
 ご本人、須田悦弘さんなので、またまたビックリさせられたのでした。
 麗しい作品集と、制作の足跡、インタビュー記事など満載です。

 会期は12月16日までです。案外早く終わってしまいます。
 これは本当に素晴らしい展覧でした。
 
 会場はカメラ撮影OKという素晴らしい特典があります。
 存分に須田悦弘作品を堪能できます。

 記事が長くなってしまったので、
 現地会場での拙写真画像は,次のブログにアップします。

 美しい千葉市美のサイトはこちらから

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« いつか見た風景 北井一夫展... | トップ | 須田悦弘展・須田悦弘による... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。