8月も終わる頃、今更ながら、7月の記録メモです。
鉄斎展 出光美術館
没後90年を記念して、鉄斎の若き日の作品から最晩年の作品まで一望することができました。
それにしても80才を越えてからの迫力ある画面に脱帽するばかりでした。
何にもとらわれない、心象絵画はもはや前衛絵画。
最晩年の蓬莱山図の大迫力には恐れ入りました。
文人画が生き残るには厳しい時代だったように思いますが、
孤高の存在感。
そういえば、鉄斎の印章コレクションもなかなかのものだったことを
思い出し、それらもあればよかったのですが、
翡翠の瓢箪をあしらった可憐な筆洗や、やきものなどが
花を添えていました。
ヴァロットン展 三菱一合館美術館
パリで31万人もの人が熱狂したという、ヴァロットン展に行ってきました。
版画はここの三菱で、もしくは近代西洋美術館で、見たことがあったかもしれませんが、
日本初の回顧展、とあるだけに、沢山の油彩画が展示されていました。
プロテスタントの真面目な青年がスイスからパリに来て
その退廃の臭気にまみれていく様子が痛々しくも感じ取れます。
彼もまた、浮世絵からの影響を受けたのだそうです。
肉体から放たれる芳香は彼を虜にし、物語を作り、見る人にそのジャッジを迫ってくるようにも
思え、まんまと罠にはまるような怪しさも感じました。
同時に突然、静嘉堂の東洋陶磁コレクションから中国のやきものが
展示されて驚きました。
玉蟲敏子先生講座 ロンドンギャラリー
友人を介して、有り難くも琳派の研究で著名な玉蟲先生の講演を
拝聴してきました。
来年、光悦寺400年の時を迎え、琳派の展覧会が目白押しとか。
講義メモを放置したままでもったいないことですが、
絵所土佐派が武士として但馬攻めで継承がたたれたあと、
光悦、宗達が代表し、「みんなの大和絵」となった、
というお話が印象的でした。
ロンドンギャラリーという古美術品が並んだ環境で、
実に優雅な講演会でした。
せめて、写真だけでも。
夢の超特急展 日本橋高島屋
愚息が小さい頃、鉄男だった(今もですけれど)お陰で
随分あちこちの鉄道博物館などを見学してきました。
新幹線ゼロ系のラストランを大阪から姫路まで乗車してきたことも
懐かしいことです。
新幹線の生まれたころ、日本の経済発展めざましく、
昭和の熱をリアル体験してきた私にも十分楽しめました。
会場には模型展示があって、車両が動く様子を
ちびっ子から熟練のおじさんまでの目を心を止めていました。
なんでも熱を持ったコレクターの収集品は目を見張るものばかり。
運転体験はすでに人気コーナーとなって列が伸びていました。
物販の熱の入りように立ちくらみ。
心強く振り切って、逃げ切ってきたのでした。笑!
高島屋幻想博物館 日本橋高島屋
超特急の後に、美術画廊フロアーに立ち寄ってみましたら、
丁度初日を迎えた「高島屋 幻想博物館」が始まったばかりでした。
俄然わくわくしました。
美術画廊X で展示されてきた作家作品が、新しくオープンした
美術館のようにレイアウトされ、
企画の幻想という怪しげなダウンライト色に染められ、
魅力ある空間となっていました。
会場にはお気に入り彫刻作家、大森暁生さんの姿も。
コンパクト図録があったので、すかさず求めました。
質の高い緊張感ある造形作品に惹かれました。
気になった作家さんたち(敬称略)
豊海健太、北川健次、青木美歌、小俣英彦、大森暁生、
フジイフランソワ、森淳一、川端健太郎。
古い博物館のかび臭い日の当たらない密室で
いったい何が起こっているのか、そんな現場拝見体験のようでした。
泥象 鈴木治の世界 東京ステーションギャラリー
チラシのたたずまいと色に誘われ行ってきました。
東京ステーションギャラリーの質感、壁の色、天井の高さ、
外光を取り込んだ展示室もあったり、
アトリエのような場面や、博物館のような閉塞感のある場面や、
様々な景色とともに、鈴木治氏の作り出す土の世界を初めて体感しました。
作品の年代を年譜代わりに展示して、会場出口には作陶現場の
ビデオ30分あまり、がずっと映されていました。
1960年代の圧倒的な造形も素晴らしいのですが、
会場階下の煉瓦の壁に並んだベンガラ色シリーズも心奪われました。
小さな手のひらサイズの作品群、「掌上泥象 百種」
「掌上泥象 三十八景」のかわいらしさも忘れられません。
土の質感の好きには、ため息ものでした。
そして、今回年間会員に入ることにしました。
特筆すべきはカードに自分の顔写真を添付することという条件が付いたことです。
さまざまな美術館メンバー制が生まれてきましたが、
ご本人認識を厳重にするようになってきたのだな、と感じ入ったところです。
それにしても、企画が魅力的なところなので、
これからも注目していきたい場所となりました。
能面と能装束 三井記念美術館
お能鑑賞がまだまだ足りない、お恥ずかしい身の上ではありますが、
能面を見るだけでも吸い込まれそうな魔界的存在で、とても惹かれる世界です。
どんな展示となっているのか、楽しみに行ってきました。
入ってすぐに息をのみました。
能面が透明なアクリル板にかけられて
ケースの裏に回ると面の内側がしっかりと見ることができるのでした。
入り口に向かって面がすらり。壮観です。
面を掘った鑿の跡が目の前に現れて、作った人の息づかいまでが
聞こえてきそうです。
三井記念の開館時だったか、孫次郎の面の瞳は四角だということを学んで以来、
面の瞳を確認することが楽しみとなりました。
しかし、女性の情念が恨みと成り高じて般若となっていくとは
本当に恐ろしいものですが、純粋の極みでもあるわけで、
思い知らされただろう、殿方の救いの面なのかもしれません。
展示は能装束にもおよび、ありえない織物に仰天するのでした。
会期は9月21日まで。
ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 世田谷美術館
この展覧を去年から心待ちにしていました。
砧公園近くにお住まいの旧知の方とご一緒してきました。
印象派の巨匠達が日本の浮世絵コレクターであったり、
アールヌーボー工芸が日本の絵画からヒントを得てきたり、
吸収し、まばゆい光を放ってジャポニスムの作品群となって
アメリカ、ボストン美術館に集められてきたことは
もはや、奇跡としか云いようがないと既に心が高まっていくのでした。
フェノロサの来日で、彼に岡倉天心が日本人を代表して日本の美を伝えていったという
二人の巡り合わせの奇跡も含めて、ボストン美術館の存在自体が
日本の美術館のように思えてなりません。
高鳴る気持ちを抱いて展示室に入りますと、
紹介作品の横には日本の影響されただろう、本歌的(元ネタ的)作品が
横に紹介されています。
そんな展示のされ方に、とても心が動かされました。
こんなに日本の美術が海外で影響を与えてきたのかと、
誇らしく、嬉しく、まぶしく、感動するものでした。
油彩画は勿論、七宝、漆芸から、浮世絵、テーブルウェアなどなど、
日本の美学があちこちで開花しているさまは
本当に輝かしく喜びの声があふれてくるのでした。
今回モネの「ラ・ジャポネーズ」の保存修復が終わっての
世界初公開という展覧会の目玉となりましたが、
思いの外大きな作品で、見上げて驚きました。
ご一緒した方が以前ボストンで見ているそうで、
あの鮮やかな赤の打ち掛けは、もう少し紫がかっていたという印象をお持ちでした。
世田谷美術館の2階はいつもは小企画と常設展を開催していますが、
今回は2階も使いきってボストンからのコレクション展です。
当時、どれだけ日本の美術に憧れを持って画家達が、工芸作家達が
今までにないものにチャレンジしてきたか、
丁寧な展示と解説、ビデオも設置してあり、堪能できる展覧会でした。
図録も詳細な分析が掲載されていて、影響がどういった所に
見えているのかがよくわかるようになっています。
モネが、いかに日本を愛していたか。
9月15日まで。是非ともお勧めしたい展覧会です。
巡回先は 京都市美術館 9月30日~11月30日
名古屋ボストン美術館 来年1月2日~5月10日
他、文芸同人誌のお手伝い、企業の華道部コーチ、友人店での花教室コーチ、
術後14年目の検診、などなど。
この暑い夏に活発な鑑賞に向かう気合いがなかなか入りませんが、
秋に向けて、しっかり体力温存してあちこち動き回りに出かけたいものと
思っています。みなさまも夏バテにご注意下さい。
いつも拙ブログを読んで下さってありがとうございます。鉄斎美術館が近くにあるとは素敵な所にお住まいですね。あの老練孤高な弾けてる様に惹かれます。もう少し落ち着いて丁寧な記事にしたいとは思いつつ、気合いの劣化甚だしく、読みにくい文章逃げ切りで、反省していますが、おつきあい感謝します。