あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

安宅栄一の眼 ・大阪市立東洋陶磁美術館

2007-08-25 16:45:23 | 美術展
かつて、奈良に遊びに行き始めた頃、
安宅産業が行き詰まり、苦難の時を迎え
ようやく開館された東洋陶磁美術館に私は何も知らずに訪ねている。
多分昭和57年開館の翌年あたり。
開館記念の展覧会図録が残っている。

それから5周年、10周年に周年事業と知らずに訪ねている。
東洋のやきものの持つ不思議な美の力に吸い寄せられるかのように。

度々引っ越しを重ねている私の本箱からは、
様々な本やカタログ、図録が消えていったけれど、
この東洋陶磁の図録だけは捨てられず、
結婚して10年以上経つ今も私の横にいて離れない。

そしてこの夏、25周年記念の特別展。
安宅産業時代から、安宅氏の信頼を一手に引き受けてきた、
館長の伊藤郁太郎氏が、
自身の生涯を傾けて勤めてきた時間を凝縮させて
この展覧会に力を注いでいることが図録解説から滲み出ている。

図録に掲載されたエピソードの奥深いこと。
収集はまた、安宅栄一氏、そのものだし、
それがあるのも、また伊藤氏の助力があったからこそなのだと思った。

安宅氏が言う。
「コレクションは誰が持っても同じでしょう」

大きな心、揺るがない眼の力、それを支える人の力、
それらが渦巻いて、
また館内の麗しき陶磁器達がより一層煌めいて見えて、
眩しかった。

東洋陶磁もさることながら、館内には、日本陶磁器も展示されていて、
それらに逢えたことも嬉しかった。
美濃や、猿投、古瀬戸の壺、瓶などがあり、
織部の向こう付けや、緑の鮮やかな乾山の向こう付けもあった。
有田の相撲人形も楽しかった。

こんなコレクションを一代で作ってしまった安宅栄一氏。
あの青山二郎と同じ年に生まれ、大きな安宅産業を背負いながらも
芸術を様々な形で応援もし、自身はピアニストを目指したこともあったような、
実に豊かな背景を持っている人だ。

青山二郎は、骨董を愛玩し倒したけれど、
安宅栄一は全身全霊で収集した、そんな二人が好対照だ。

昭和30年から40年にかけて、それはそれはものすごいパワーで、
東洋陶磁を執念深く、病とも思えるほどの執着と情熱で収集してきた。
壺中居を初めとする凄腕の骨董商との付き合いもさることながら、
彼の審美眼に叶った1000点もの陶磁器を集めまくった。
それはもう、個人のコレクションの枠から逸脱し、
一大事業となっていった。
どこに70億円をかけて収集できる人がいるだろう?

他には速水御舟に目を付け、106点もの作を集める。
この御舟の作は後にほとんどを山種美術館に譲渡される運命をたどることとなった。
昭和50年に入り、安宅産業がが立ちゆかなくなった窮地において、
住友グループがコレクションの次の行き場所をあてがってくれた。
そのコレクションの全てが大阪市に寄贈され、
散逸をのがれて、陶磁器収集の高い評価を揺るぎないものとしながら、
自然光で鑑賞できる近代的な建物の中で、
今も変わらない姿で私達の目を楽しませてくれる場所を作ってくれたのだ。
なんというありがたい成り行き。
そんな計らいがあったればこそ、安宅コレクションが無事に生き延びて、
次の世代へのバトンタッチも可能となったのだ。

これだけの東洋陶磁が集まっているところが
他にあるだろうか?

今年は青山二郎、会津八一記念館に入った富岡重憲コレクション、
この安宅コレクション、などなど、
やきものの宝庫と遭遇できる嬉しい年だ。

図録もまた丁寧な作り。
伊藤郁太郎氏のコレクションを育て、支えてきた情熱にも敬服する。

秋に三井記念美術館に巡回してきます。
会場が変わる楽しみもあって、ぜひまた訪ねたいと思います。

新・あべまつ遊山にお気に入りを載せてみました。
よかったら、クリックして、ご覧になってみて下さい。
フォトの所から、アルバム「安宅コレクション」を探してクリックお願いします。
日付順にアルバムが出てきてしまうので、お手数かけますです。
本当に至極の一時を味わってきました。
私が本当に好きなものは、やきものなのだと納得合点もしたのでした。

東洋陶磁美術館のHPはこちらです。
ぜひクリックしてご覧になってみて下さい。

コメント (20)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大阪から帰ってきました。 | トップ | 夏休み終了~ »
最新の画像もっと見る

20 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大阪、行きました。 (菊花)
2007-08-26 17:34:40
8月初めに1泊2日で関西遠征したのですが、
その時の一番のお目当てがココ、
大阪市立東洋陶磁博物館でした。
本当に充実した展示で、うっとり!の連続。
全作品をじっくり見るには1日かかりそうだったので、
3点に1点くらいの割合でじっくり鑑賞。
ためつすがめつ、のぞき込み、見上げ、
もうなんだか自分自身が青磁の中に溶け込みそうでした。
あまりに素敵で朦朧としたため
カタログを買いそびれたのですが、
安宅氏の読み物として買っておけば良かったー。
三井記念美術館への巡回展にも行く気満々です
返信する
誘惑されて (meme)
2007-08-26 18:24:58
新・あべまつ遊山の画像拝見しました。
私も好きだった作品がいくつもあって、嬉しくなってしまいました。

きっと自宅では見ないだろうと図録を購入しなかったのですが、あべまつ様の記事を読み進むにつれ、買えば良かったかな~と後悔&誘惑にかられてます。
返信する
菊花 さま (あべまつ)
2007-08-26 22:02:57
こんばんは。
行ってこられたのですね!!
本当にすばらしかったですよね~~~
予定がなければ、ずっと居続けたかったのですが、
そうもいかず、図録は自宅に送ってもらうことにして、学園前の大和文華館に移動したのです。泣!
画像の蓮文様の壺は、心酔のものです。初めて見た時の感動は今も忘れません。
図録は、東洋陶磁変遷の読み物としても興味深いものです。三井の時にぜひ!
返信する
meme さま (あべまつ)
2007-08-26 22:13:34
画像の中にお好きなものがあって、こちらも嬉しくなります。以前より、好みが端正にシフトしたように思っているところです。

以前の図録は良くできていて、正面、裏、底を写真できちんと見せてくれています。
今回の図録は、コレクションとなった成り行きのエピソードが散りばめられていて、とても興味深いものでした。美術館に依頼すれば、送ってもらえるのではないでしょうか?
見てきたものの点が、そういうことだったのかと、線に繋がるようですし、陶磁器コレクターの影にいつも出てくる骨董商に畏怖の念を持つばかりです。
返信する
懐かしい。 (陶猫)
2007-08-29 20:59:48
ここは、私がまだ若かった頃に仕事の後、夜行バスに乗って
早朝に到着して、またその日のうちに帰京した、
今では到底出来ないハードスケジュールをこなして見に行った
懐かしい思い出があります。(笑)
非常に充実した素晴らしいところですよね♪
また行きたいのだけれど、なかなか遠い...(^^;)
返信する
陶猫 さま (あべまつ)
2007-08-29 22:42:00
こんばんは。
そういえば、私も東京から高速バスで、奈良入りしたことありました!
二度とあれはゴメンだ~と思ったものです。ともかく小心者で、女一人で知らない人の間でしかも、夜の移動で、寝られませんでしたし、窮屈で困りました。
若い頃の無理はいいお宝になるのですよね。
今年はたまたまのチャンス到来でした。
陶猫さんにもチャンスが舞い降りて来ますように♪
返信する
チラシを (oki)
2007-09-05 21:56:13
もらってきました、東京の。
大阪は800円なのに、東京は千円も取るんですね!
まあ焼き物とあまり縁のない僕にはちょうどよろしい、どこかでまたチケットをゲットしますからそしたら一枚お譲りしますね。
返信する
oki さま (あべまつ)
2007-09-05 22:28:09
こんばんは。
明日は台風の嵐とか。
いよいよ秋ですね。
東京のチラシはどんなかしら?
大阪は運搬の手間が省けるから、その値段でできたのでしょう。あの壊れやすい磁器達が無事に搬入されることを思ったら、致し方ないかもしれません。
チケット!よろしくお願い致しますです!!!
今回の三井はまだ行ってなくて。
台風一過に行ってきたいところです。
その時にチラシゲットしてきましょう。
楽しみです!
返信する
Unknown (遊行七恵)
2007-09-23 21:44:01
こんばんは
地元民に限り遅く行くと言うのはどういうことなんでしょうね。
馴染み深いと思っていたものたちを、改めて眺め・新しくみつめる。
たいへん興味深い発見がありました。
伊藤氏のコラムが面白かったです。

三井でも楽しんできてください。
返信する
遊行 さま (あべまつ)
2007-09-23 22:33:12
たった今、遊行さんの安宅レポート拝読したところでした。
濃密な愛情が溢れていました。
三井ではどんな展覧になるのか、
今から楽しみです。

地元ってのは、いつでも行かれますからねぇ~
駒場の民芸館に行きたくなっています。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。