あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

写楽 幻の肉筆画 ・江戸東京博物館 その三

2009-07-12 00:37:47 | 日本美術
じつは、最終章がとてつもなく素晴らしい
作品との出会いだったのだ。

個人的には、写楽のスポットライトよりも、
こちらに軍配を上げたくなるほど。

第四章 摺物・絵本

摺物とは、非売品の版画、なのだそうだ。
今までちっとも知らないまま見ていた。
非売品であるということは、求めに応じて、
お気に召すよう、努力する物だ。
マノスコレクションは絵本がバラバラにならず、
本来の姿を見ることができる。

・魚屋北渓 三都之内 大阪疋田唐物
 噴水、ガラス絵の西洋婦人図、孔雀の羽
 異国情緒満載。
 なんとも怪しげな雰囲気で、嬉しい。
 三鷹で見た中右コレクションの中にもこんな
 西洋風浮世絵があったなぁ。
 次の「扇絵より立ち昇る龍」もおどろおどろしていていい。
 全体にぼかしが効いているのもいい味となっている。
 御殿女中らしく、葵の紋の着物を着ている。
 煙とともに扇から龍が立ち昇る設定が面白い。

・歌川国芳 汐干十五番内 其の三~五
 本来は五枚もの。春興狂歌歌摺物
 色紙版で小さめながらも芸が細やか。
 江戸好みの縞柄着物が粋。
 海近くで様々働く姿に興味津々。

・鈴木春信 絵本青楼美人合
 実在した吉原遊女を一人一人紹介。
 自分の俳諧も披露。
 図録によると、春信最晩年の作らしく、
 166名の遊女が登場する。
 同じ顔のようで、様々な着物を着て、
 好きな道具を並べたりしているのが面白い。
 春信の女性はなんだか可愛らしいのだ。
 
・勝川春潮 絵本栄家種
 女たちの普段の風俗を紹介するような珍しい本。
 何を描いたかを覗くような目で見るのも楽しい。
 手習い、婚礼、浄瑠璃を聴く会・・などなど
 
・葛飾北斎 東海道五十三次 絵本駅路鈴
 五十三次名所案内図。北斎の絵は
 なんでもない風景画にも、ついワクワクしてしまうのだ。
 色も多色刷りになって、カラー仕立て。
 表紙の龍雲柄も良い感じだった。

第五章 後期版画

・歌川豊国 三代目市川八百蔵の平野屋徳兵衛と
      四代目岩井半四郎の天満屋お初
 曽根崎心中の徳兵衛とお初、なのだそうだ。
 なんか、豊国の役者絵は派手で、かっこいいなぁと
 見惚れてしまうのだ。 
 「風流てらこや吉書はじめけいこの図」
 寺子屋の書き初めの図で、名前の木札に
 この作の事が書かれていて、
 3枚つづりだったことがわかる。
 ふざけたり、たしなめたり、親子で稽古したり、
 君が代を書いた色紙が貼ってあったり、
 色々楽しい発見があって、楽しめる。

 「両国花火之図 三まへつづき」
 これもまた大パノラマ。
 もうすぐ花火のシーズンだが、
 隅田川欄干に入る豊国のサイン、
 橋の下を通り抜ける舟の提灯は歌川とあるし、
 楽しい仕掛けがみつかる。
 花火の放射線光線も激しくていい。

 「新吉原桜之景色 五枚つづき」
 まるで屏風絵の下絵のように華やか。
 大門からメインストリートに満開の桜並木。
 ぞろぞろ花魁を取り囲み、旦那衆、幇間、
 人々の賑わいがワンワンしてくる。
 これはずっと眺めていたくなる。

・菱川柳谷 風流五節句遊
 五節句とあるから、他にも4枚あったのだと思われる。
 打ち掛けを着せてもらっている娘は
 菊模様の着物を着ているが、
 その模様は紫から段々に薄いピンクになっている。
 ぼかしの色合いがステキだ。
 画面は菊尽くし。
 この人は歌麿風の美人図を描く人だったようだ。

・菊川英山 風流夕涼三美人
 画像でご紹介の図。
 これは本当に素晴らしい作だった。
 三枚つづりの傑作。
 障子には部屋の中の賑わいが影法師で表現され、
 縁側には一息の遊女達3人が、思い思いの艶やかな姿。
 障子の透き間からお酒が注がれる。
 盃を干した後、またそこに注がれるのか。
 着物も帯も団扇や簪、色使いがとても斬新で
 デザイン的。動いている本物を見たかった。

・柳川重信 大阪新町ねりもの 水茎の神 かいでやもも鶴
               還城楽 中扇屋初花太夫
               胡蝶 中折屋花園太夫 
               拾得 中扇屋雛鶴太夫
 めずらしい、大阪新町の遊郭の図。
 ねりものは遊女達が歴史、物語の人物に扮装して
 練り歩くこと。
 菅原道真、雅楽還城楽、謡曲胡蝶、寒山拾得の拾得
 が描かれている。
 どことなく雅な雰囲気が醸し出ている。
 北斎の門人だが大阪に出て、
 上方浮世絵界に大きな影響を与えた人という。
 どれも完成度の高い作品と思った。
 上方浮世絵、ちょっと気になるではないか。

・卍楼北鵞 椿説弓張月 巻中略図
 山雄主のために蟒蛇を噛で山中に躯を止む
 こわい物語の絵はこうでなければならない。
 山雄という名の狼の牙は大蛇の首にがぶりとかぶりつき、
 主、須藤重季に切られても蛇から主を守る忠信を尽くす。
 忠信とはこういう事だ。
 
・歌川国貞 戻橋綱逢変化 
 なんだか知らないが、ともかく鬼気溢れる
 怒れる般若の形相。
 祟りじゃぁ~~~

・歌川国芳 百種接分菊
 一本の菊の木から、百種の花をつかせる百種接分菊を
 取材したもの。美の壺か、何かの特番で「菊」を取り上げた
 番組でこの話を知った。
 実際それをチャレンジしている人がいたようだった。
 なんという無謀な企画だろうと。
 その話を国芳の絵で見ることができるとは、
 思いがけなかったが、
 これを持っているマノス氏を断然評価したい。
 菊の花には一々種類の名札がぶら下がり、
 人々はこんな菊を見て大興奮。
 番付表もあるらしく、片隅でそれらしき表を見ている
 親爺もいる。
 百種かき分ける芸もまたすごし。
 よいものを見た。

・葛飾北斎 百物語 しうねん 笑ひはんにゃ 
      こはだ小兵二 お岩さん さらやしき
 夏の夜、寒い話で盛り上がりましょう。
 マノス氏、あっぱれの5枚セット完品。
 
まだまだ良い物がありました。
マノス氏、シリーズ物に興味がおありだったと得心。
他で、こんなにつづりものが充実している
コレクションあるかしら。

・・・とまぁ、もの凄いコレクションを
一世紀近くほっとかれていたのですが、
ようやくギリシャと、日本の文化交流で
素晴らしい浮世絵を沢山見ることができました。
この勢いで、ぜひ陶磁器ジャンルも拝見したいと願っています。

今までのコレクションとちょっと一味違ったものと
出会えた、貴重な体験でした。

江戸博の宣伝は写楽が重点ですが、
それ以外の至宝もザクザクです。
ぜひご自分の目で確かめて欲しいと願っています。

長文のお付き合いに感謝!!

PS、地中海エリア、要注意です!!

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12 コメント

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Unknown (meme)
2009-07-12 18:51:05
ついに完結ですね。
摺物は千葉市美も相当良いもの持ってますが
マノスでは過去拝見したことのないのも
ありました。
メモを取られないとおっしゃってましたが、
図録がない場合はどうなるのでしょう?

多分、私だったら3行も書けないかもしれないです。
返信する
meme さま (あべまつ)
2009-07-12 21:42:56
こんばんは。

ようやく終結しました。
疲れましたよ~
でも苦行もそれなりに楽しいのです。S!

メモをとらずに記事にするのは、
チラシやリスト、サイト情報に頼りつつ、
おのれの独断感性振りかざして、
ご迷惑な記事に仕立て上げてしまうので
呉々もご注意下さいませ~

図録があると、
ズラズラ3部作も書いたりするのでした。

memeさんは、図録いつもお求めですか?
返信する
Unknown (Tak)
2009-07-12 22:58:57
こんばんは。

その10とかまで
行ってしまうかと。

天晴れです!
返信する
Tak さま (あべまつ)
2009-07-12 23:07:27
こんばんは。

ようやく完結です。
その10?
とんでもない、3で限界でサン!
褒めてもらえると、やっぱり、
嬉しゅうございます。
返信する
写楽 vs その他大勢 (とら)
2009-07-13 09:07:31
暑中お見舞い申し上げます。
わたしの美術散歩もスローダウンです。

「写楽」についていえば、大勢の「専門家」が集まって「基準作」との類似を議論している姿が印象的でした。こういった写真を見ると、「浮世絵美術史学」が、まだまだ経験的な段階にとどまっていることを否定できないと思いますが、厳しすぎるでしょうか。

「その他大勢」の作品たちはとても良かったですね。「林」のハンコをみながら、これらの作品の旅に思いを馳せました。
返信する
すごいですね! (もか)
2009-07-13 20:45:41
こんばんは☆
ひゃー驚きました。何がすごいって、あべまつさんのこの3部作!
拝見して俄然、行きたい度UPしました。
でも私、行っても図録が要らないと思います。
帰ってまたこちらを拝見すれば十分かと。

それにしても、ギリシャですか~。意外な穴場にすごいお宝が眠っていたのですね。
返信する
Unknown (あおひー)
2009-07-13 20:58:21
こんばんは。
摺物は今回、どれも質が高くて欲しくなるようなものばかり。
こういうのを製作していたという環境ってめちゃめちゃ贅沢ですよね。
現代の作家さんでもこういう超限定プリントとかあったら素敵だろうな~、なんて想像しちゃいました。
返信する
とら さま (あべまつ)
2009-07-13 22:00:33
こんばんは。

丁度手元に別冊太陽の「海外へ流出した秘宝」があって、実に興味深い一冊です。
最初の輸出商、若井兼三郎と林忠正、山中商会など、日本美術を仲介して、一代を築いた人達の話があります。
あの時代世界中で色んな美術品が空を飛んでいたようです。
次回のサントリーのシカゴ展必然的に期待が高まっています。
返信する
もか さま (あべまつ)
2009-07-13 22:03:55
こんばんは。

よく読んで下さり、感謝申し上げます。
何部作は時々熱に浮かされて
やることがありのです。
ほとんど病気ですね。笑

図録は詳しい解説満載でしたから
お勧め致します。
見逃していることもあると思いますし。
まだまだ世界中のどこかに日本のお宝が
埋まっていそうです!
返信する
あおひー さま (あべまつ)
2009-07-13 22:07:25
こんばんは。

本当に素晴らしい作品群でした。
やられたなぁ~と。
作る人と持つ人の関係がずっと濃かたのでしょうね。
あおひーさんにこんな写真撮って!とお願いしたら、超レアな所蔵品になるって事ですね!
返信する

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