あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

挿絵本の楽しみ〜響き合う文字と絵の世界 静嘉堂文庫

2017-04-29 13:37:43 | 美術展
 
 今年も早、ゴールデンウィーク突入となり、
 眩しい入学式を終えて、新学期が始まり、
 学生、生徒のみなさんは初めてだらけの一月が終わり、ほっとする時、ではないでしょうか。
 手にした真新しいテキスト本のなかには必ず挿絵、画像が掲載されていて、
 ぱらぱらとめくったことも懐かしく思い出されます。

 そんな学びのスタートの時、静嘉堂文庫美術館では
 「挿絵本の楽しみ」として所蔵20万冊の中から
 挿絵として登場した中国南宋の経文に始まり、
 江戸の浮世絵までを厳選された書籍によって紹介されています。

 その会期中4月16日日曜日に
 トークショー&ブロガー内覧会が企画されたことをネットで知り、
 早速ダメ元で応募しましたら、見事当選しました。

 二子玉川界隈の桜はすでに葉桜になり、山吹などの花達が咲き始めていました。
 旧知の方とゆっくりランチをご一緒した後静嘉堂までバスを利用することとしました。
 日曜日の二子玉川の混雑ぶりにバスの到着に気をもみましたが、
 なんとかトークショーに潜り込むことができました。

 15時からのトークショーは 
 永青文庫副館長の 橋本麻里さん、
 静嘉堂文庫美術館の館長に就任された、河野元昭さん、
 静嘉堂文庫,司書の 成澤麻子さん、
 ナビゲートに 青い日記帳のTakさんこと、中村剛士さん。
 この有り難い4名の方々が展覧会のことをわかりやすくガイドしてくれました。

 橋本麻里さんは特に日本美術解説分野で時空を超えた現代言葉で
 ざっくりストレートに楽しく導いてくれる貴重な女性で、
 今は様々な媒体を通して、ファン急上昇中なのではないでしょうか。
 美術評論男性陣の重鎮の間にあって、大変有り難い存在と尊敬を捧げています。

 河野館長のお話は何回か講演会などを拝聴していますが、
 スピーディでダジャレも挟みながら、大事なことをさらりと仰るので、
 耳をダンボにしませんと、うっかりもったいないお話を取りこぼしてしまいます。
 特に琳派のご専門のお話はリアリティがあって、興味津々となります。 
 
 そして、静嘉堂文庫の司書、成澤さんは司書というお仕事が
 本当にお好きなのだと誠実なお話を伺って伝わりました。
 今回の企画に奮闘されました。
 
 そして、トークナビ担当のTakさんはすっかりアートナビのプロフェッショナルとなられ、
 「カフェのある美術館」を上梓され、もう3刷りが決まったそうです。
 ラジオ電波にも心地よい声でアートナビにますますご活躍で、
 今回のトークでも軽妙なさばきを見せてくれました。

 お話のメモを少しご紹介します。

  成澤さん ある人の挿絵から物語を考える、という話を聞いて、
       挿絵の力を再認識した。
       中国では古来「文字の国」として文字の位置づけが大変高く、
       文字は権力の印でもあったので物語があっても絵を入れることをしなかったが、
       明時代となって絵が付くようになった。
       宋時代に入って貴族に限った政治にかわり、皇帝との繫がりに官僚「科挙」が生まれた。
       その「科挙」となるには厳しい試験があり、合格をえるためには43万字におよぶ儒教を覚える必要があった。
       文字だけでは対処しきれないとの要望から解説として絵で様々な冠、動作、などを示すようになった。
       受験勉強のテキスト的存在が社会適要望として生まれた。いわゆる受験参考書、的なもの。
       今回の展示にそのテキストが出ている。

  河野館長 静嘉堂文庫には20万冊の古典籍があり、漢籍12万冊、和書8万冊を所蔵している。 
       (岩崎弥彌之助、その子小彌太親子で設立) 
       美術品展よりも関心が薄いのではと心配している。
       今、東京国立博物館で開催中の「茶の湯」展に静嘉堂の「国宝 曜変天目」が出品中。
       5月7日までの展示、その後、6月17日より静嘉堂でも展示が予定されている。
       館長みずから執筆の「饒舌館長」ブログも快調!

  橋本さん 今、サントリー美術館で「絵巻」展が開催されているが、
       本という版本の圧倒的物量に対し、一点ものの絵巻と競べるのも面白い。

  成澤さん 版本、彫り師が競うようになると、もっと技術力のある人が増え、
       もっと綺麗なものが求められ、明、清に高度なものが生まれてきた。
       受験勉強のテキストなどで絵入りに慣れてくる状況下、社会も活性化してきた。
       
  河野館長 中国挿絵が日本でジャパネライズされ、文字(主)絵(従)の関係が
       絵(主)文字(従)に変化してくる。
       そして江戸時代、浮世絵は独立する。
       展覧会の冒頭に国貞の大判錦絵を持ってきた企画を評価する。
       博物図譜、図説、など解説する絵、技術書、博物解説など
       江戸の博物図の挿絵が凄い。
       近世絵画でも若冲や北斎も博物図をみている。
       自然科学から実証主義的博物学、本草学などは
       絵がないと始まらない。
       若冲のうらにも実証主義、博物図が入っている。
       文字は辛い、富岡鉄斎は文字、賛から読めというが。
       
  Takさん 今の参考書、大変な変化を遂げていて、萌え絵が入るようになってます!

 そして、最後に4名の方のこれがいい1枚を上げてもらいました。
  成澤さん、46番 ロシア漂流記
  橋本さん、34番 岩崎灌園 本草図譜 ありえない手書きの本草図!
  河野館長 37番 渡辺崋山 芸伎図
  Takさん 44番 松浦武四郎選 天塩日誌 

 そして、質疑応答でも興味深いお話がでました。
  問 ボタニカルアートとの関連性はあるのか?
  答 シーボルトが来日して、本草学が広まる時、岩崎灌園とも逢っていた。
    植物学を学んだと考えられる。
  問 宗達と光悦の鶴下絵はどちらが主従だったのか?
  答 あの作品の前に室町に既に金銀泥に文字を載せる前史があった。
    宗達の側で光悦が筆を持っていただろうというライブ感が指摘される。
    あの歌集の中に鶴が含まれていない、という配慮が面白い。
  
 一時間のトークショーはあっという間でした。
 雑なメモでわかりにくいとは思いますが、興味深いお話を伺う事が出来、
 鑑賞の大きな手助けとなりました。 

 その日は、美術館より、会場の様子を特別に撮影の許可を得たので、ご紹介します。

 ブログにしても、画像がなければ、説得力が生まれません。
 画像でなんとか、文字にできない空気気配を伝えることができれば
 大変有り難いと切に思います!







 
















 今回のガイド本、豆本なのに、中身が充実の350円という、太っ腹価格。
 





 静嘉堂文庫のサイトの解説が丁寧です。 こちら






 静嘉堂文庫までのお散歩も楽しく、
 二子玉川駅前の賑やかな景色と離れて、ゆったりとした時間を
 過ごせる奥深い場所だと感じます。
 今回は、久しぶりの訪問となりましたが、
 そうか、静嘉堂「文庫」なのだから、書籍が充実しているわけだと
 改めて、歴代のコレクションの関わり、三菱の隆盛、などにも思いをはせて
 感じ入りました。
 
 5月28日までの会期中、さまざまなイベントが企画されているようです。
 4月29日は館長のおしゃべりトークが企画されています。
 河野館長のお話はとても楽しいので、お勧めです!

 さわやかな緑の季節、ちょっと遠出となりますが、
 楽しい本の挿絵の世界へお出かけしてみて下さい。

 同時期に川原慶賀のボタニカルアート展、
  「川原慶賀の植物図譜」展が 埼玉県近代美術館で5月21日(日曜日)まで開催中。
 こちらも併せて見ると一層深まりそうです。

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