出光美術館の「祭 遊楽・祭礼・名所」展に行ってきた。
入ってすぐにその世界が広がり、ぞくっとする。
こういう展覧は本当に眼福極まるに違いない予感が
わらわらと胸に迫ってくる。
場内の全体の雰囲気のまとまり、
色調のバランス、
光の加減、
物の置かれている位置、
解説の丁寧さ、
これらが静かな落ち着きと共に
見る人を誘ってくれる。
一呼吸して気持ちを落ち着かせてから鑑賞。
第一章 〈祭〉の前夜 ー神が舞い降りる名所
最初に極彩色豊かな狛犬2頭が見える。
・色絵狛犬 柿右衛門 江戸前期と元禄1692
図録には工芸品が掲載されていないのが残念ではあるが、
出光の展覧はその企画に併せた工芸品が並ぶ。
その登場にいつもホッとしたり、楽しんだりさせてもらっている。
狛犬の様子事態愛らしいのだが、めちゃくちゃな色使いが
とてもキッチュでとても可愛い。
キャラクターとしてのタレント性充分ありと思った。
祭礼や芸能はその披露する場所が重要。
神様に捧げるためのものはつまり、社寺の広い場所。
・洛中名所図扇面貼付屏風 桃山時代 狩野宗秀
・月次風俗図扇面 室町時代 9面ある内の4面
・歌舞伎・花鳥図屏風
この作は高さが約35cmの小ぶりな可愛らしいサイズだが、
実に丁寧且つ色鮮やかで、裏面の花鳥図もあり豪奢。
岩佐又兵衛の浄瑠璃絵巻などの極彩色に近い色鮮やかさ。
金雲も眩しく光っている。
聞香に使われていたとか。
遊女と若衆が描かれたのは女歌舞伎の禁制前の頃ではないかという
説明になるほどで、後に所有していたのが
井上馨だったとのこと。
・阿国歌舞伎図屏風
阿国の屏風が桃山から江戸にかけての作品がずらり。
・遊女歌舞伎図 江戸寛永期
「茶屋遊び」を描く。本図の筆者が岩佐又兵衛と伝わるそうだが、
又兵衛風であることを見るに留まっているようで、
もしかしたら、又兵衛のものを模した,のかもしれないと推察
する楽しみがある。
・能面 萬媚 古源助秀満 江戸前期
・能面 頼政 是閑吉満 桃山時代
この2面の能面は表裏をしっかり拝見できる工夫がされている。
萬媚の面の裏からはきっちり瞳が四角だと確認できた。
視界が狭いという面の裏からは能舞台から落ちずに
演じることの大変さも見えてくる。
第二章 〈祭〉が都市をつくるー京都VS江戸
こちらには祇園祭と浅草三社祭の提灯がぶら下がり、
賑々しい祭りの雰囲気作り。
そろそろコンコンちきちきの祇園祭が始まる。
一度くらいお宝屏風などが並ぶ街見物をしたいものだ。
祇園と江戸のマップ解説も楽しく、あそこはこれかと
右往左往してみる楽しみがあった。
あそこのお店の良い娘はどうしたかとか、
粋の良い兄さんは嫁を取ったのかとか、
そこの裏の爺さんはまだ達者なのかとか、
そういう日常の人々の世間話や、鳴り物、かけ声
喧噪さえも聞こえてくるようだ。
意外にも京都の祭りに倣ってなのか、
対抗してなのか、江戸にも同じような
御輿があったり、旗指物、飾り刀などがあったようだ。
・色絵紫陽花文共蓋壺 古伊万里
・色絵御座舟香炉 古清水
・色絵瓜文大皿 古九谷
緑鮮やかなバックに涼しげな瓜の配置が素敵。
第三章 〈祭〉の名残 ー遊楽の庭園
祭りの後の切なさは夏の終わりの風ににて、ほろにがいもの。
その思いを払うように賑々しい遊楽の魅力に取り憑かれよう。
・邸内遊楽図屏風
どこの誰もが浮き浮き楽しんでいる様子にこちらも
うきうき。困っている人のいない幸せな世界。
・江戸風俗図巻 菱川師宣
浮世絵が始まるのだという気配がある。
この巻物から英一蝶をふと思い出す。
そこの見返り美人さん一人の絵を描いとくれ、
そうお願いしたくなる気持ちになる。
・春秋遊楽図屏風 菱川師平
・職人尽図巻 岩佐又兵衛
さんざん噂していたら又兵衛が現れた。
この図巻は彼らしからぬこざっぱりとした質感。
何を画いても上手いこと。
第四章 遊楽prison ー閉ざされた遊び
・浄瑠璃芝居看板絵屏風 伝 菱川師宣
お芝居の看板絵だったそうだ。
いかにも芝居がかった勇ましい場面が興味深い。
・中村座歌舞伎図屏風
今年中村勘九郎の襲名興行で
中村座は一大イベントの一年を迎えているが、
勘三郎の食道ガンのニュースに同年配ながら、
ひたすら快癒を祈るばかり。
江戸の頃より継承される中村座。
屏風絵からも人気の高さが伝わる。
・草花蒔絵螺鈿手箱
・草花蒔絵提重
・恵比寿蒔絵提重
・櫛・笄・簪
・蒔絵扇面散文碁・碁石
・桐蒔絵化粧道具
・色絵牡丹唐草文徳利
・蒔絵鼓胴
これらの工芸品が芝居小屋、遊里遊びに欠かせない小道具。
着物もぜひ一緒に拝見できればと思う。
櫛・笄の手の細やかな作りにはとろけそうになった。
図録のコラムが面白い。
コラム「ほつれ髪」の一文から
まるで朝という夜の終わりが来るように、その終わりは
明確に存在したのである。
終わりがあるからこそ、遊興人と遊女は護られた遊楽に
没頭できたのだ。略
ほつれ髪の彼女たちにこそ遊楽における美は宿ると
言い切れば、彼女たちがせめてその言葉によって報われるのなら
いいのだけれど。
祭りを待つ人、盛り上げる人、遊ぶ人、芸能を披露する人、
遊里を仕事とする人、そこを憧れる人、
そんな人々の熱狂と切なさが一陣の夏の風に
吹かれるような展覧だった。
夏祭りの始まりでもある。
会期は7月22日まで。
喧噪から離れてふっと涼みにお出かけ、もお勧めです。
*参考 祭 図録