阿部ブログ

日々思うこと

高速増殖炉、正しくは高速炉である。

2011年10月08日 | 日記
高速増殖炉(Fast Breeder Reactor)と言う言葉は、人々に誤解を与えているのではないか? 
もしかして高速増殖炉を高速で核燃料を増殖する原子炉であると誤解してはいないか。

この場合の「高速」の意味は核分裂で発生する中性子を軽水炉などのように減速させず、高速のままウラン238にぶつけてプルトニウム239に核変換させるので“高速”という単語が用いられている。つまり高速で核燃料が増殖する意味での高速ではない。

高速増殖炉「もんじゅ」の開発に携わった技術者によると、プルトニウム(以下、Pu)の増殖比は1.2として設計されていると言う。このPuの増殖比から原子炉倍増時間が計算できる。
原子炉倍増時間とは、高速増殖炉を動かす為に、最初に炉心に入れた燃料が倍になる時間の事で、増殖比が1.2と言う事は毎年20%の燃料が増加するので単純に5年で倍になりそうだが、実際にPuが倍になる為に要する時間は、我々一般人が想像する時間感覚からは大きく乖離している。

高速増殖炉における原子炉倍増時間を算出する為には、炉心内部に装荷する燃料の総量を、1年で増えるPuの増加量で割る事により求められ、原子力委員会は「もんじゅ」の原子炉倍増時間を46年と算出している。但し「もんじゅ」の運用実績から最大でも増殖比は1.16である事が判明しているので、原子炉倍増時間は50年~56年と更に延びる事となる。

またウラン238が 全てPu239に変換する訳ではなく、同時に Pu240や Pu241などの同位体も生成される為、有効なPu239の増殖量は割引いて考える必要がある。この為、原子力関係者によれば現実的な原子炉倍増時間は約90年だとしている。

現在、ロシアや中国、インドが「高速炉」の開発を進めているが、これは決して「増殖炉」の開発ではない事に留意する必要がある。彼らが高速炉を開発する目的は、ウラン資源の有効活用にある。

自然界に存在する唯一の核分裂物質であるウラン235は、ウラン資源全体の0.7%しか存在せず、その他の大部分はウラン238が占める。可採埋蔵量が100年程度しかないウラン資源の有効活用の為には、おのずとウラン238の利用に目が向く事になる。つまりウラン238に高速中性子を当て核分裂性物質Pu239を生産する高速炉の実用化を目指しているのだ。

我が国は唯一の被爆国であり、核武装を是としない政治環境にあって、Pu239の生産を目的とする高速炉の開発を掲げる訳にはいかないのは理解できるが、「もんじゅ」における原子炉倍増時間が90年である現状では「超々低速増殖炉」と言わざるおえず、ここは正しく「高速炉」の開発と正しく表記されるべきであろう。

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