阿部ブログ

日々思うこと

満鉄におけるオイル・シェール事業 ~シェール革命の本命はオイル・シェール~

2012年07月20日 | 日記

米エネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)の2012年7月の発表によれば、今年4月米国史上初めて天然ガス火力発電量が石炭火力発電量に並んだ。10年前の米国にける発電総量の半分以上は石炭火力であり、天然ガス火力は、その4分の1以下だった。それがついにそれぞれが32%となった。
米国で天然ガス火力発電が伸長した要因は、所謂シェール・ガス革命によるものである。

但し、非在来型資源の本命は、シェール・ガスではなく「シェール・オイル(shale oil)」である。
ガスは単なるエネルギー源であるが、石油はエネルギー源でもあり、且つ様々な化学品を生成する多用途資源である。この石油に代わる多用途資源は地球上に存在しない。

非在来型資源の本命である「シェール・オイル」には、2つの生成源がある。
第一は、頁岩や砂岩の隙間に貯留された原油。つまり一般的な「シェール・オイル」。これは別名タイト・オイルとも言われる。
第二は、「オイルシェール(oil shale)」から乾留した原油。

「オイル・シェール」とは、ケロジェン(kerogen:石油または石油ガスに変化し得る固体高分子有機物質の事)が比較的高濃度(10%程度)に蓄積された泥岩に含まれる油分を言う。普通は4%以上含む泥岩をオイル・シェールに分類するが、この泥岩の事を油母頁岩、または油頁岩とも言う。

この「オイル・シェール」の開発については、意外と速い段階から日本が関与して実績を挙げている。それは、満鉄、即ち南満洲鐵道株式會社の中央試験所が、中国北東部の撫順炭礦で「オイル・シェール」からの製油を事業化していた。
満鉄のオイルシェール事業は、 撫順炭礦の石炭層表面を覆う油母頁岩を採掘し、それを乾溜し石油類似の軽質油を生産する事業である。当時の日本にとっては死活的な重要性を持つ石油代替資源であり、極めて貴重な事業であった。
満鉄は、ドイツ同様、撫順において石炭液化にも取り組むが, 石炭液化技術は遂に未完に終わった。 それに対して、 オイルシェール事業は独自の乾溜技術の開発に成功し、石油代替燃料の供給に貢献をした。

満鉄の中央試験所は、1907年に関東都督府の研究機関として大連に設立され、1910年に満鉄に移管されている。
撫順炭礦でオイル・シェールが発見されたのは、中央試験所設立から2年後の1909年。この時のオイル・シェールの含油率は2%程度と低く経済的価値はないと言う事で研究は中止された。

しかし満鉄はオイル・シェールの研究を再開する事となる。それは、1920年から古城子で石炭の露天堀が開始され、石炭層表面を覆う油母頁岩を取り除く必要があり、その大量の頁岩を如何に取り扱うのか、如何に処分するかが問題となっていた為。
しかしながら、良く調査してみると、オイル・シェールの含油率が石炭層から離れれば離れるほど含油率が高く、撫順炭礦では平均して5.5%である事が判明している。また詳細な探査によって撫順炭礦には2億トンのオイル・シェールがあると試算され、満鉄しては取り組むべき事業価値が明らかになった。

そこで満鉄は、1921年に100トンのオイルシェールをスウェーデンとドイツに送り、乾留試験を依頼し、1924年にはイギリスに500トンのオイル・シェールを送り、同様に乾留試験を行っている。
この乾留試験の結果は良好であった為、1925年の専門家会議を経て、乾留の方式をイギリス式の外熱式炉型から内熱式炉型に変え、更に乾留炉と発生炉にプロセスを分ける事とした。
この方式は、実際に撫順炭礦のガス工場内にオイル・シェールの試験プラントとして建設され、1日当たり10トンの処理能力を得る事が出来ている。

この後、本格的なオイル・シェール乾留プラントの建設が1928年に開始され、1930年に完成。このプラントは1日当たり50トンのオイル・シェールを処理する能力を持っていた。その後、プラントに改善が施され処理能力は100トン/日に増大させる事に成功している。これによ石油生産量は、14.5万と達している。
最終的に、このオイル・シェール・プラントは、年間30万トンの石油を生産するに至っている。
当時の日本国内における石油生産量が5万トン程度であった事からも分かる通り、国家的にも重要な事業であった事が理解できる。

その後、1945年8月のソビエト侵攻により、このオイル・シェール・プラントは一部を残して破壊されたが、1948年の中国共産党による旧満州の支配権確立により、プラントは生産を再開し、1952年まで合計22万トンの石油を生産している。

日本の敗戦に伴い、満鉄は消滅したが、この満鉄によるオイル・シェールの取組は、現在においては Royal Dutch Shell社に引き継がれ、同社が開発した地中で乾留する「インシチュー(in situ)法」による「オイル・シェール」開発が旧満州の吉林省において行われていると言う。

「シェール・オイル」と違い「オイル・シェール」は比較的浅い地層(深度1,000m以浅)に賦存し、水圧破砕による環境破壊引き起こさない。またオイル・サンドと違い軽質油の為、熱分解する手間が省ける事も「オイル・シェール」の利点である。

「オイル・シェール」の埋蔵量は世界で3兆バレルとも言われ、資源の偏在性が無く、石油資源に恵まれない日本においては十分に注目に値する非在来型資源である。我々は満鐵調査部・中央試験所での「オイル・シェール」開発における先人の事績を学び、イノベーティブな第二の「シェール革命」により石油と言う多用途資源の安定供給を実現するべきである。

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