阿部ブログ

日々思うこと

国防向けレアアース問題

2016年03月06日 | 雑感
尖閣諸島国有化に際して、中国がレアアースの輸出を規制し、日本では一斉に脱レアアースに向けた研究開発が加速して現在に至っている。その後、中国国内のレアアース企業の再編も進んだが、昨今の世界経済の不調でレアアースの価格も下落したままである。そんな中、米連邦政府の会計検査局(GAO)が、レアメタル/レアアースの国家安全保障上の重要性を国防総省が認識していないと指摘している。
レアアース、特に重希土と呼ばれるレアアース(①ジスプロシウム、 ②ユウロピウム、③ネオジム、④テルビウム、⑤イッ トリウムの5鉱種)は中国独占状態で、現状では代替先がない。特に国防関係のレアアースは100%、中国からの輸入に頼っているのが現状だ。現在、南沙諸島海域には、航空母艦ステニスを中心とする打撃軍が展開している。空母に随伴しているのは巡洋艦アンティテータム、モビールベイ、駆逐艦チュン・フーン、ストックデール。第七艦隊旗艦のブルーリッジも南沙海域に進出しており、航行の自由作戦を展開中である。
GAOの報告書には興味深い数字が記載されている。
SSN-774ヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦では、9,200ポンドのレアアース材料が必要。またDDG-51アーレイ・バーグ級イージス駆逐艦で5,200ポンド、開発が遅延しているF-35統合打撃戦闘機は920ポンドとある。
何せ、米軍だけでレアアースの5%を消費している大口ユーザーで、特にサマリウ ム・コバルト(samarium cobalt:SmCo)磁石、ネオジム(neodymium iron boron)磁石の素材が極めて重要。
国防向けレアアースは、現在3つの部門が関与する。国防補給局戦略物資室と生産産業基盤政策室、それと戦略物資保護委員会。2013年9月には、エネルギー省が「重要物質研究所(Critical Materials Institute:CMI)」を設立。重要物質研究所は、ネオジム、ユウ ロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、イッ トリウムのレアアース5鉱種と、リチウム、テルルの2鉱種の中長期の供給問題について取り組んでいる。GAOの報告書の影響により、同研究所の重要性は増すだろうと思われる。

さて、米国内にレアアース資源が無いわけではない。2015年6月にはマウンテンパス鉱山を所有するモリコープが倒産しているが、アラスカのボーカンマウンテン(Bokan Mountain)やテキサスのラウンド・トップなどがある。しかし、米国でのレアアース生産は極めて厳しいと言わざるおえない。完全にレアアースはを使用しない技術の開発を進めるのが最善の方法だろう。意外なイノベーションが起きる可能性も十分にある。マテリアルの世界は非常に面白いものだ。

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