阿部ブログ

日々思うこと

『山怪~山人が語る不思議な話~』を読む

2016年03月05日 | 雑感
東京丸の内の丸ビルの本屋さんで田中康弘の『山怪』を購入。一気呵成に読み終えた。実に不思議な話が満載だ。
多いのは狐にまつわる話。山に入るときには唐揚げや油揚げなどは持たないこと。大好物なので山に入る人に近寄るのだ。
対処方法はあるようで、ニンニクを胸のポケットに入れておくと良いらしい。秩父では唐辛子を持つという。
狸は、狐と違って人を騙したりしないようだが、音は鳴らすようだ。木を切る音を出したり、今はチェーンソーの音まで真似るようだから、人間の変化に適応している。狸ではないが、山の中では異音や人の声、赤ちゃんの鳴き声なども聞くことも書かれている。
若い頃は、盛んに山登りをしていたが、異音や人の声、足音を聞くことは無かった。山怪にも書かれている通り、音を聞く人やありえない情景や人などを見る人と、全く見ない人に分かれるようだが、しかし、山で生きる人は大なり小なり、異常な体験はしているのが現実。
この本でも語られている地域の親戚は、死んだ人が家に帰ってくる音を聞いている。曰く「自分の母親だ、何にも怖わくねぇ~」

興味深い話は、山の中なのに「海の日」と言う特別な日があり、その日に限っては竹藪には入らないのが、その地の言い伝えで、これを知らない余所者が猟をしにきて、たまたま竹藪で熊を待ち伏せしていると、竹藪が大荒れにあれ、とてもそこにいることが出来ずに、ほうほうの体で逃げ出すのだが、竹藪からでると何の異常もない、静かな竹藪に戻っている。そこでまた待ち伏せるワケだが、また大荒れに荒れて、また脱出するが、竹藪から出ると、また竹藪は平穏そのもの。この体験を村人に話して、地元では「海の日」に竹藪には入らないようにとの言い伝えがあると知る。他所からきてるので知らないワケだが、やはり昔の人の言い伝えは守った方が無難だ。
山では、最近でも神隠しはあるようで、小さい子供が突然いなくなる。発見されても幼子が到底行けない場所で、ニコニコと遊んでいる・・・不思議なものだ。また、異境に迷い込む人達もいる。『遠野物語』で書かれている通りだ。自分も濃い霧で煙る湯殿山を下山中、周囲がグルグル回る体験をしている。月山にある鍛冶小屋でのアルバイトの帰りだった。
山には確かに禁忌、タブーは存在する。死んだ後、物音を立てて帰宅した、生前のお婆さんからは「夜、口笛をふくな」と云われた。山での口笛は魑魅魍魎を呼ぶのでタブーなのだ。夜であろうと昼であろうと。

人口減少の影響で、確実に山で生活する人は減る。マタギや猟友の人達は、絶滅危惧の類だし、日本の山も昔のような怪異に満ちた原生の世界に戻っていくのだろう。
『山怪』は「本の雑誌」が選ぶ2015年度ベスト10の9位に選ばれており、出版不況と呼ばれる中、8万部を突破していると帯にある。確かに一読の価値はある。星新一のショートショートを思わせる同書の一読をお薦めする。

  

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