礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

第十四条の妊娠中絶は、少し行過ぎではないか

2024-02-03 00:09:36 | コラムと名言

◎第十四条の妊娠中絶は、少し行過ぎではないか

 本日と明日は、1940年(昭和15)3月20日の衆議院本会議において、国民優生法案委員会を代表して、村松久義理事がおこなった「委員会経過及び結果に関する報告」の全文(720~721ページ)を紹介したい。
 出典は、『官報号外 衆議院議事速記録第三十号』(1940・3・21)。原文は、カタカナ文だが、条文などを除いて、カタカナをひらがなに直した。

  〔村松久義君登壇〕
○村松久義君 只今上程の国民優生法案委員会の経過及び結果に付委員長に代つて後報告申上げます
 本委員会は去る十三日開会致し、委員長及理事の互選を行ひました結果、委員長に八木逸郎〈ヤギ・イツロウ〉君、理事に村松久義〈ヒサヨシ〉、伊藤東一郎〈トウイチロウ〉君、泉国三郎〈いずみ・くにさぶろう〉君、中野寅吉君が御当選になりました、後に泉国三郎君の辞任に依りまして、江原三郎〈エハラ・サブロウ〉君が当選せられたのであります、委員会を開きますこと七回、其の間概ね〈オオムネ〉午前十時より午後六時、七時まで熱心に各委員諸君の御質疑があり、又政府の答弁があつたのであります、極めて簡単に其の質疑応答の要領を申上げますと、第一点は本法案は子種を絶つになる、是は祖先の祭祀を重んずる我国の家族制度に違反する所があるのではないかと云ふ点、第二点は将来の学問の進歩に依つて、精神病者の如き遺伝病は治療が可能になるかも知れぬのであつて、さうなれば優生手術の如きは不要になるのではないか、又現在に於ても相当程度まで治療が可能であるやうに思うが、斯る治療可能なる疾患に対して優性手術を施すと云ふことは残酷ではないかと云ふ点であります、第三は精神病の如き遺伝病と云ひましても、是は環境の変化に依つて起るのであるからして、環境を変へることに依つて、就中〈ナカンズク〉酒害の防止をすることに依つて、遺伝病の防止が出来るのではないかと云ふ点であります、第四点は本法案の第三条に掲げられましたる各疾患に付て、確実に遺伝すると云ふ根拠があるかどうかと云ふ点であります、第五点は収容施設を充実すれば、優生手術の如きは必要はなくなるのであるから、先づ収容施設を拡充する必要があるにも拘らず、此の方法を採らずして、直ちに優性手術を施すと云ふことは順序が違ふのではないかと云ふ点であります、第六点は本法案の如き方法を採るも、其の効果は極めて薄いのではないか、斯の如き効果の薄い方法に力を入れるよりも、環境改善の方に努力した方が宜いのではないかと云ふ点であります、第七点は本法案は消極的方策として必要であるかも知れないが、積極的に健全人口を増加させる為には、結核、花柳病、癩、下痢腸炎等に政府はもつと力を尽すべきものではないか、第八点は優性手術を受けたことは、秘密と云ふことになつて居るが、結婚に際して、相手方が、其の事を知らずして、普通の人の如く生殖能力があるものと信じて婚姻した場合には、極めて不都合なことが起るのではないか、第九点は優性手術を受けたる場合に、性慾を或は昂進せしめ、或は減退せしめるやうな悪影響はないか、第十点は本法案の第十四条に規定する妊娠中絶は、苟も〈いやしくも〉一たび生命を享けた〈ウケタ〉者であり、且つ其の者が百「パーセント」疾患者たることの證明の付かぬ限り、少し行過ぎではないかとする点であります、更に委員外の議員より、本案の第三条に該当する疾患はそれぞれ病名を列挙すべきではないか、精神病のやうなものは遺伝病なりと断言することは出来ないのではないか、其の他い付ても質疑がありましたが、是は省略致します【以下、次回】

 文中、「委員会を開きますこと七回」とあるのは、原文のまま。ちなみに、1940年(昭和15)3月20日に開かれた「国民優生法案委員会」は最後の委員会だったが、その委員会の速記録は、表題が「第七十五回衆議院国民優生法案委員会議録(速記)第六回」(第六類第十三号 国民優生法案委員会議録 第六回 昭和十五年三月二十日)となっている。衆議院「国民優生法案委員会」が開かれたのは、計六回だったのではないのか。

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