礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

傷病者は後送せざるを本旨とす(国土決戦教令)

2023-08-06 02:41:03 | コラムと名言

◎傷病者は後送せざるを本旨とす(国土決戦教令)

 藤本弘道『陸軍最後の日』(新人社、1945)から、「継戦と軍人精神」の章を紹介している。本日は、その三回目。

 杉山〔元〕元帥が第一総軍司令官に就任して、本土決戦に対応する海岸防備の進捗程度を視察したときの話などもその例の一〈ヒトツ〉であるといへる。
 本土防備は計画どほりに進展しつゝあつたが、それよりも、米軍が本土上陸戦を開始した場合、附近の住民を一体如何〈ドウ〉するかといふことがその時の問題となつた。
 国内戦と非戦闘員との問題は、世界の戦史が数多く物語つてゐるやうに大きな宿題であつて、その運営の失敗によつてその国家の作戦上の命取りとなつてしまつた実例がかなりあるのみならず、日本自身も逆の立場で支那事変に於いて所謂難民が如何に重慶軍に禍ひしたかといふことを知つてをり、マリアナ戦の実情に於いても、敏速に解決せねばならぬ重大難問題であることを痛感してゐた実情にあつたはずである。
 しかしこの場合に於いて、それ等に対する処置は考究されなかつた。杉山元帥以下の判断はこれに対して、日本人ならば、大和魂があるならば、決して皇軍の邪魔になるやうな行動をとることはないであらう、皇土死守の犠牲となつて喜んで死ぬだらう、難民となりパニツクを起すやうなことはないであらう、といふ軍人的解釈の精神論に終止して、これを頼みに本土決戦の危い〈アヤウイ〉基礎が打ち立てられたのであつた。
 本土決戦を前にして、陸軍将兵に与へられた国土決戦教令の第二章将兵の覚悟及戦闘守則の中に
『決戦間傷病者は後送せざるを本旨とす。負傷者に対する最大の戦友道は速かに敵を撃滅するに在るを銘肝〈メイカン〉し敵撃滅の一途〈イット〉に邁進するを要す。戦友の看護、附添は之を認めず』
『敵は住民、婦女、老幼を先頭に立てゝ前進し我が戦意の消磨を計ることあるべし。斯かる場合我が同胞は己が生命の長きを希はんよりは皇国の戦捷を祈念しあるを信じ敵兵撃滅に躊躇すべからず』
等と教示したのも、この軍人的精神論を基礎に考へれば当然了解がつくのであり、我々が示された国民抗戦必携、国民築城必携も、また国民義勇戦闘隊の諸構成の基礎もこの上に樹立せられたものであつた。【以下、次回】

「国土決戦教令」によれば、敵が「住民、婦女、老幼を先頭に立てゝ前進し」てきた場合でも、「躊躇すべからず」とある。先頭に立てられた「住民、婦女、老幼」は、「己が生命の長きを希はんよりは皇国の戦捷を祈念し」ているはずだと信じて、躊躇せず、これらを撃てということであろう。怖ろしいことを言うものである。
 この冊子を読むまでは、「国土決戦教令」の存在を知らなかった。詳細は把握していないが、インターネット情報によれば、1945年4月20日に、大本営陸軍部が発行した『国土決戦教令』という本があるという。
 都合により、明日は、ブログをお休みします。

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