◎千葉功氏の新刊『南北朝正閏問題』を読んだ
先月15日、千葉功氏の『南北朝正閏問題――歴史をめぐる明治末の政争』(筑摩書房)が刊行された。私は、今月17日に、これを入手し一読したが、期待に違わない労作であった。今後、この問題について発言しようとする者は、プロ・アマを問わず、この本を「古典」として参照することになるだろう。
この本の巻末には、「言説分析原典一覧」というものが付されている。これは、実に有益な文献案内である。
著者は主に、次の四冊の文献を用いて、この「原典一覧」を作成したという。
・史学協会編輯『南北朝正閏論』修文閣、1911年5月
・友声会編纂『正閏断案 國體之擁護』松風青院、1911年7月
・山崎藤吉・堀江秀雄共編『南北朝正閏論纂』鈴木幸、1911年11月
・高橋越山編輯『現代名家 南北朝論』成光館書店、1912年4月
このうち、『正閏断案 國體之擁護』は、みすず書房から復刻版が刊行されている(1989年7月)。しかし、それ以外の三冊も重要な資料集であり、復刻版の刊行が待たれる。
当時、政教社から『日本及日本人』という雑誌が出ていた(月二回発行)。その第554号(1911年3月15日)は、「南北正閏論」特集となっており、ここにも貴重な論考が、いくつも掲載されている。
当ブログでは、2020年4月に、同誌同号から、三上・喜田・牧野・松平「南北正閏問答」、北畠治房「南朝正統論」、三浦梧楼「観樹将軍の正閏観」、菊池謙二郎「南北朝対等論を駁す」、同「余論」を紹介したことがある。
入力に、かなりの時間を要したにもかかわらず、ほとんど何の反応もなく、いささか気落ちした。しかし、今回、千葉功氏の『南北朝正閏問題』が刊行されたので、新たに、この問題に関心を持たれる方も出てくることであろう。2020年4月の当ブログ記事に、アクセスされる方も、少しは増えるかもしれない。