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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「古事記」に見える「廂」といふ文字

2022-07-23 02:27:09 | コラムと名言

◎「古事記」に見える「廂」といふ文字

『国語・国文』第二一巻第一号(一九五二年一月)から、神田喜一郎の〝「万葉集は支那人が書いたか」続貂〟を紹介している。本日は、その四回目。文中、[ ]内は、神田による補注である。

     (
 それは「古事記」に見える「廂」といふ文字である。三矢重松〈ミツヤ・シゲマツ〉博士の「古事記に於ける特殊なる詞法の研究」を読むと、その中に「諸珍字」といふ項目を設け、その例として
  ○「此廂【コナタノ】人」「彼廂此廂【カナタコナタ】」
の字が挙げてある。わたくしは三矢博士がこれを指して「珍字」といはれた理由を知らない。「珍字」とは、どういふ意味なのであらうか、博士には一言の説明もない。しかしこの「廂」の字については、はやく本居宣長の「古事記伝」に委しい〈クワシイ〉解釈があつて、しかもその解釈は、さすがに漢籍にも造詣の深かつた本居翁だけに、まことに正確にして要を得たものである。翁の解釈は
  そもそも此ノ字[廂]は、玉篇に、東西ノ序也と注し、史記ノ索隠に、正寝之東西室、皆号シテ曰廂ト、ともあれば、此ノ義を取て、左右と雙【なら】びあるをば、何にても左廂右廂と云る〈アル〉なり。然るを此ノ記[古事記]なるは、又転り〈ウツリ〉て、たゞ彼【カナタ】と此【コナタ】と対ひたることに云るものなり。
といふのである。さうして翁は用意周到にも、更にそのおなじ使用例として、軍防令や唐六典〈トウリクテン〉に見える「左右廂」といふ言葉を挙げ、これを令義解〈リョウノギゲ〉に「猶左右方也」と解釈してゐるのを正しとし、要するに「廂」の字は
  何にまれ、彼【カナタ】と此【コナタ】と、両方【フタカタ】にあることに附て云〈イウ〉言にて、軽き字なり。定まりて廂と云物あるを云には非ず。
と結論を下されてゐるのである。(古事記伝巻二十三)ところでわたくしは、かうした「廂」の字の用法を以て、六朝〈リクチョウ〉時代以来行はれた話し言葉をそのまましるしたものであると思ふのである。【以下、次回】

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