◎密行中は特種護身用具を露出しないこと
小冊子『警視庁非常警備規程 警戒規定』から、「非常警戒従事員ノ心得」を紹介している。本日は、「(三)密行」のところを紹介する。
引用は、基本的に原文の通りだが、漢字は現行のものに直してある。句読点は、段落の最後に句点(マル)があるほか、数箇所で、読点(テン)が使われている。カタカナの濁点は、「(三)密行」に関しては、ほぼ適切に施されていた。〔 〕内は、引用者による注である。
(三)密 行
(1)軒下其ノ他暗所ヲ選ビ密行スルコト
理 由
軒下其ノ他暗所ヲ選ビテ密行スルトキハ容易ニ密行員タルコトヲ他ヨリ感知セラレザルノ ミナラズ之等暗所ニ潜伏スル犯人ノ逮捕又ハ屋内ニ於ケル犯罪ノ予防検挙等相当ノ効果ヲ伴フモノナリ、故ニ密行ノ際ハ努メテ軒下其ノ他ノ暗所ヲ選ムコトトシ道路ノ中央又ハ街灯下ヲ避クべシ。
(2)警戒上特ニ必要ト認メラルベキ場所ヲ選ミ密行スルコト
理 由
警戒上特ニ必要ナル場所ヲ選ミ密行スルニ非ラザレバ徒ニ〈いたずらに〉警戒ノ活動力ヲ消耗減殺〈げんさい〉スルニ過ギズシテ警察上得ルトコロ尠キ〈すくなき〉ガ為ナリ、故ニ特ニ密行路線ヲ指定セラレザル限リ其ノ密行区域中特ニ警戒上重要ト認メラルヽ場所ヲ選ミ密行スルヲ適当トス。
(3)二人以上 組トシテ密行スル場合ハ相当距離ヲ保ツコト
理 由
二人以上肩ヲ並べテ密行スルトキハ他ニ覚知セラルべキ虞〈おそれ〉アルヲ以テ可成〈なるべく〉道路ノ両側ニ分レ又ハ多少ノ距離ヲ保チテ密行スルヲ適当トス。
(4)密行中ハ其ノ歩度ニ注意スルコト
理 由
密行員ノ歩度〔歩く速さ〕ハ一定シ難シト雖〈いえども〉従来密行員ノ歩度ヲ見ルニ極メテ歩度緩〈ゆるやか〉ニシテ殊更ニ密行員タルガ如キ態度ヲ為スモノ尠カラズ、斯クテハ密行ノ目的ニ添ハザルヲ以テ其ノ歩度ハ必要ハ必要ニ応ジ之ヲ調節シ殊更ニ密行員タルガ如キ態度ニ出デ〈いで〉ザル様〈よう〉留意ヲ要す。
(5)密行中喫煙セザルコト
理 由
夜間ニ於ケル喫煙ハ暗所ニ於テハ固ヨリ〈もとより〉仮令〈たとい〉電灯下ニ於テ之ヲ為スモ相当遠方ヨリ之ヲ発見シ得ラルヽノミナラズ密行中喫煙ヲ為ストキハ自然精神ノ緊張ヲ欠キ注意力ノ削減ヲ来ス〈きたす〉虞アルヲ以テ喫煙セザルコト。
(6)密行中ハ私語セザルコト
理 由
警戒員タルコトヲ他ヨリ察知セラレ密行ノ目的ニ添ハザルガ故ナリ。
(7)密行中ハ特ニ戎手等ノ特種護身用具ヲ露出セザルコト
理 由
戎手其ノ他ノ特種護身用具ヲ露出スルトキハ密行員タルコトヲ察知セラルル虞アルヲ以テ密行中ハ特ニ此種ノ護身用具ヲ外部ニ露出セザル様注意ヲ要ス、但シ余リニ之ヲ隠蔽セントシテ咄嗟〈とっさ〉ノ場合ニ使用不能トナルガ如キコトナキヲ要ス。
(8)密行中ハ濫リニ〈みだりに〉照明用具ヲ照射セザルコト。
理 由
照明用具ヲ濫リニ照射スルトキハ密行員タルコトヲ他ヨリ感知セラルル故ナリ、故ニ張込等ノ場合ニ於テモ勿論ナルガ特ニ密行中ハ必要以外ニ之ヲ照射セザル様注意ヲ要ス。 ,
(9)密行中ハ検策ヲ励行スルコト
理 由
犯人ハ空家〈あきや〉、神社、仏閣其ノ他他人ニ感知セラレザル場所ニ潜伏シテ犯行ノ機ヲ窺ヒ〈うかがい〉或は変装シ或ハ贓品〈ぞうひん〉ヲ隠匿シ或ハ逃走ノ機ヲ窺フヲ常トスルヲ以テ漫然密行スルガ如キコトナク常ニ之等ノ箇所ニ対シ周密ナル検策ヲ為スヲ要ス、但シ空家ノ検索等ニ際シテハ鍵又ハ建具〈たてぐ〉等ヲ毀損シ又濫リニ民家等ヲ覗見〈のぞきみ〉スルガ如キコトナキ様注意ヲ要ス。
(10)人ノ出入、灯火ノ点滅,戸ノ開閉、戸ノ開放等ニ注意ヲ払フコト
理 由
一般人家ノ就寝後ニ於ケル人ノ出入灯火ノ点滅、戸ノ開閉、戸ノ開放等ハ犯罪ノ現行若ハ其ノ前後ナルコト多キブ以テ密行中之等ニ対シテハ特ニ注意ヲ要ス。
(11)物音、人声、犬其ノ他家畜ノ鳴声等ニハ特ニ注意ヲ払フコト
理 由
物音、人声、犬其ノ他家畜ノ鳴声等ヲ便リ〈たより〉犯罪ヲ検挙シタルノ例決シテ尠カザルニ付密行中之等ヲ耳ニシタルトキハ決シテ等間ニ付スコトナク一応其ノ原因ヲ探究スルヲ要ス。【以下、次回】