礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

赤尾敏、「親米反共」を説く(1975)

2017-11-15 04:50:21 | コラムと名言

◎赤尾敏、「親米反共」を説く(1975)

 最近、ふと思いついて、島津書房編『証言・昭和維新運動』(島津書房、一九七七)という本を手にとった。いろいろと学ぶところがあった。たとえば、赤尾敏〈ビン〉の「親米反共」論、野村秋介〈シュウスケ〉の「従属国家」論などなど。
 本日は、同書第二部にある「『維新運動』を語る――赤尾敏・津久井龍雄・猪野健治」から、赤尾敏(一八九九~一九九〇)の発言を紹介してみよう。これは、三者による座談会の記録ないし、猪野健治氏による聴き取りの記録で、『愛戦』の一九七五年(昭和五〇)一月号が初出である。司会は、猪野氏がつとめている。

 司会 そのあたりに昭和維新の挫折の原因あり――ということですね。
 ところで、話は戦後の右翼運動にとびますが、右翼は日本の敗戦というものをどのように乗り越えたか、という問題があると思うんです。たとえば、大戦中「鬼畜米英」だったのが、敗戦後は「親米反共」になった。反共は、右翼の重要な主張の一つですが、「鬼畜米英」が「親米」に移行したことを疑問視する人が多い、敗戦と同時につまり右翼におけるナショナリズムの問題です。ナショナリズムの立場からいうなら、勝者の米国に対して「親米」をかかげるという理論は、おかしいわけです。保守な人のなかにも、戦後の右翼にナショナリズムなし――という意見があります。こんなことを申し上げますと、おしかりを受けるかも知れませんが、その点、割りきれないものを感じるんです。サンフランシスコ条約についても、一方的な対米従属関係を強いられた条約だという考え方が左翼の側だけじゃなしに、リベラリストの間にもあります。しかるに右翼の側からの条約の批判や対米批判は皆無に近い。これでは、右翼じゃなくてただの反共じやないかという批判が出てきても……仕方がないように思いますが。
 赤尾 それはぼくに対する批判のようだな。ぼくは、演説会のとき、いつも星条旗と日の丸をかかげ、安保条約体制強化こそ日本の生命線だと大胆に主張してきた。そういうぼくに対して、右翼の一部は、赤尾さんの星条旗はいただけないと言った。ぼくにいわせれば、こういう批判こそ右翼小児病だ。なるほど正論をいうなら、右翼は、反ソ反共産主義であると同時に、反米――反自由主義でなくてはならんかも知れん。だが、現実に日本の国体を護持する上に、ソ連も米国も敵にまわしたらいったいどうなるんだ。日本は孤立無援――どうにもならんではないか。日本は敗戦によって軍隊が解体され、ハダカにされちやったんだからね。「親米反共」は、戦略の問題だよ。戦略は徹底しなくちゃいけない。
 司会 最近では、毛沢東まで日米安保条約は、日本のために必要だ、なんて言ってますね。
 赤尾 右翼の対米一辺倒、対米追従を非難することこそ、左翼の策動だと、ぼくはいうんだ。〔一九七四年〕九月にぼくは韓国に行ってきたんだが、韓国には、いたるところに星条旗と韓国旗が並んで掲揚されている。これは韓国のうしろだては米国だぞ――という北朝鮮に対する示威なんだ。当然、韓国民には、韓国のバックには米国がついていてくれるという意識がある。もし、韓国が「反米」の旗をかかげればどうなるか。北朝鮮の思うツボだ。
 米韓条約を廃止したらおしまいだよ。日本の戦後の平和と安全上は、だれがなんといおうが、アメリカの協力によって維持されてきたこの事実は否定できない。
 司会 先生の戦略論はよくわかるんですが一般国民が、それをどう受けとめるかは、また別だと思うんです。街宣活動の効率面からいっても、星条旗をかかげることはかえってマイナスという見方もありますが。
 赤尾 それは「木を見て森を見ず」だよ。日本では左翼勢力が圧倒的に強い。ぼくは、だから、街宣活動から星条旗をおろすことは左翼に対して一歩後退する結果になる、と考えている。
 日本は、国内革新の前に、力関係においてソ連、中共に大差をつけられている。その上米国を敵にまわすことはできない。
 ぼくは、維新運動を進める上で、国内的には、国体護持の基本原則をたてて、資本主義の矛盾を是正する施策を強くうち出すことにより、社会党、共産党のいう「革新化」を先どりする方向がもっとも妥当であると思う。
 国際的には中共、ソ連は原爆をもち、強力な統制国家だ。どうあがいても、日本単独の力では対抗しきれない。「反ソ、反米」というのは、言葉の上では、カッコいいかも知れない。けれども「反ソ、反米」で本当に中立が守られるのか。両方を敵にまわせば、日本は孤立するしかないんだ。そうでなくても米国は、いま日本から離れようとしている。安保条約も十年の固定期間をすぎて、どちらか一方が「解消」を宣言すれば、廃棄されることになっている。そういう情勢のなかで共産主義に対抗する道は、台湾、韓国と結んでアジアに反共共同戦線を築くしかないんだ。これがくずれたら、日本には革命が起こる。
【以下、略】

 四〇年以上前の座談会記録だが、読んで、改めて「時代の変化」を感じた。
 すでに、「ソ連」(ソビエト連邦)という社会主義国家は存在しない。中華人民共和国は、資本主義を受け入れた結果、アメリカと肩を並べる経済大国となった。赤尾敏が「圧倒的に強い」と述べた日本の左翼勢力は、今や見る影もなく衰微している。
 一方で、四〇年以上経っても、変わっていないものがある。そのひとつは、「親米反共」というイデオロギーである。それを支持する勢力は、四〇年前よりも、むしろ拡大していると言えるかもしれない。「ソ連」が崩壊し、中華人民共和国が資本主義国家に変貌したにもかかわらず……。
 かつては、そうした勢力の中心は、与党であり、また赤尾敏を筆頭とする右翼活動家たちであった。今日では、その勢力の中心は、与党、「日本会議」と呼ばれる政治的ないし宗教的組織、および「ネット右翼」と呼ばれる人々である。そして、「反共」の対象は、事実上、朝鮮民主主義人民共和国に絞られていると言ってよかろう。

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コメント (1)
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