◎張込中は私語・雑談せず喫煙もしないこと
小冊子『警視庁非常警備規程 警戒規定』から、「非常警戒従事員ノ心得」を紹介している。本日は、「（二）張込」のところを紹介する。
引用は、基本的に原文の通りだが、漢字は現行のものに直してある。句読点は、原文のまま。段落の最後に句点（マル）があるほか、数箇所で読点（テン）が使われている。カタカナは、濁点が施されているものもあったが、徹底していなかったので、適宜、これを加えた。〔 〕内は、引用者による注である。
（二）張 込
（１）張込員ハ私語雑談シ若ハ喫煙セザルコト
張込中ハ私語雑談シ若ハ〈もしくは〉喫煙等ヲ為ストキハ直ニ〈ただちに〉他ヨリ感知セラレ張込ノ目的テ添ハザルガ為ナリ故ニ張込中ハ絶対ニ不必要ナル言語ヲ発スルガ如キコトナキハ勿論咳〈せき〉一ツ為スニモ十分注意シ仮令〈たとい〉必要ナル打合セ等ヲ為ス場合ニ於テモ努メテ低声ヲ以テスルヲ要ス。
（２）張込位置ハ暗所ヲ選ビ他ヨリ覚知セラレザルコト
理 由
張込位置ノ煌々タル電灯下ナルトキハ直ニ他ヨリ覚知セラレ張込ノ目的ニ添ハザルガ為ナリ故ニ張込位置ハ月光街頭等ノ光ヲ避ケ物蔭ニ潜伏スル等他ヨリ容易ニ発見シ得ラレザル場所ヲ選定スルヲ要ス。
（３）張込位置ハ迅速ニ行動シ得ベキ場所タルコト
理 由
張込位置ガ行動不便ナルトキハ犯人其ノ他不審者ヲ発見シタル場合又ハ隣接張込場所ニ赴援ノ用アル場合其ノ他急ヲ要スル場合等ニ際シ迅速ナル行動ヲ執リ得ザルガ為ナリ、故ニ張込位置ハ奥マリタル場所又ハ周囲ニ種々ノ障碍物ノ存在スル場所等ヲ避ケ努メテ有利ニ行動シ得ベキ場所ヲ選定スルヲ要ス。
（４）張込位置ハ見透〈みとおし〉ノ利ク場所タルコト
理 由
張込ノ目的ハ犯人ノ通路ヲ扼シ〈やくし〉不審者ノ接近シ来ル〈キタル〉場合機ヲ逸セズ之ヲ尋問シ又ハ逮捕スルニアルヲ以テ其ノ張込位置ニシテ周囲ノ状態ヲ見透シ得ザル〔ママ〕場所ナルトキハ張込ノ目的ニ添ハザルガ為ナリ、故ニ張込位置ハ道路ノ分布状態其ノ他ヲ十分考慮シ相当遠方迄見透ノ利ク場所ヲ選定スルヲ要ス。
（５）二人以上張込ム場合ハ可及的其ノ位置ヲ別ニスルコト
理 由
二人以上張込ヲ為ス場合ニ於テ其ノ位置ヲ異ニシテ張込ムトキハ人目ヲ避ケ得ルノミナラズ犯人ノ逃走ヲ防ギ不審者発見ノ視野ヲ広大スル等ノ利益アルガ為ナリ、故ニ二人以上張込ノ場合ハ街角又ハ道路ヲ挟ミテ張込ヲ為スヲ適当トス。
（６）張込位置ノ四囲ノ状態其ノ他地理的関係ヲ十分知悉シ置クコト
理 由
張込場所ノ四囲ノ状態其ノ他地理的関係ヲ知悉セザルトキハ犯人逃走ノ場合之ヲ追跡逮捕スルコト困難ナリ、故ニ張込前ニ於テ必ズ其ノ四囲ノ状態ヲ十分研究シ置キ犯人ノ逃走等ニ備フルヲ要ス。
（７）張込員ハ相互ノ連絡ヲ密ニシ同一行動ヲ執ルコト
理 由
張込員相互ノ連絡ヲ欠ク場合例へハ張込員ノー人ガ不審尋問ヲ行フ際他ノ一人ガ拱手傍観スルガ如キコトアランカ被尋問者ガ逃走其ノ他ノ行動ニ出タル場合甚ダ不利ナリ、故ニ張込員ハ常ニ行動ヲ共ニシ一人ガ不審尋問ヲ行フ場合ハ他ノ一人必ズ其ノ不審者ノ後方又ハ側面ニ接近シ不審者ノ挙動ニ注意スル等常ニ同一行動ヲ取ルヲ要ス。
（８）張込中ハ成ル可ク腰掛等ヲ用ヒザルコト
理 由
張込中腰掛等ヲ用ユルトキハ緊張ヲ欠クノミナラズ不審者ノ尋問ニ立遅レヲ為シ延テハ〈ひいては〉尋問ヲ厭フノ結果トナル、故ニ張込中ハ特別ノ事由ナキ限リ腰掛等ヲ用ヒズ立番スルヲ要ス。
（９）張込中ハ絶エズ犯人其ノ他不逞ノ徒ノ通行ヲ予想シ之ニ処スルノ途ヲ考究スルコト
理 由
漫然張込ヲ為ストキハ惰気ヲ生ズルノミナラズ事ニ臨ミテ不覚ヲ採ルノ虞アルヲ以テ常ニ犯人其ノ他不逞ノ徒ノ通行ヲ予想シ如何ニシテ之ヲ検挙スベキヤヲ考究シ置クト共ニ不審尋問ヲ励行シ犯人ヲ逸脱セシムルガ如キコトナキヲ要ス。
（１０）張込密行転換ノ場合ハ特ニ人目ヲ惹ザルヤウ注意スルコト
理 由
張込ヨリ密行ニ移リ密行ヨリ張込ニ就ク場合ハ兎角〈とかく〉警戒員タルコトヲ察知セラルル状態ニナリ易ク殊ニ他ノ組員ト交代スル場合ハ多数同一場所ニ集合スルノ結果不用意ノ間ニ雑談等ヲ為スモノニ付〈つき〉斯ル〈かかる〉コトナキヤウ特ニ注意ヲ要ス。【以下、次回】
