礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

本多顕彰教授のクイズブーム批判(1954)

2015-10-21 04:38:44 | コラムと名言

◎本多顕彰教授のクイズブーム批判(1954)

 本日も、『クイズ年鑑 1955年(前期)』から。
 同書の最後のほうに、「クイズの是非(附アンケート)」というコーナーがある。クイズの是非について、各界の著名人におこなったアンケートの結果が示されている。
 このアンケートの実施にあたっては、まず、推理作家の木々高太郎〈キギ・タカタロウ〉と英文学者の本多顕彰〈アキラ〉が、それぞれ、クイズの「賛」あるいは「否」の立場から、クイズブームという現象について論ずる。回答者は、両者の意見を参考にしながら、クイズの是非などについて、自己の立場を示すという形式になっている。
 ここでは、木々高太郎の賛成論、アンケート結果は省略し、本多顕彰の反対論のみ紹介してみたい。なお、明日は話題を変える。

“愚者の天国よ”  本多顕彰 (法大教授)
 昔、高等学校の学生であったころ先生が、もし煩悶があったら英語の辞書で語源を調べてごらんと教えてくれた。それからそれへと語源をたずねている間は、煩悶を忘れるというのてある。私にも大きいのや小さいのやいろいろ煩悶がなくはなかったが、その都度先生の教えを忘れ煩悶が去ってから思い出した、だから、この教えの効果のほどは保証できない。先生が今生きていたら、学のある者は語源遊びを、学のないものはクイズ遊びを、と忠告されるに違いない。
 日本人は、まともになったら大煩悶を免れ難いからである。そこで、学のない者たち(これが日本には、なかなか多い)がクイズ遊びに夢中になることを、先生の弟子たる私は咎めるわけにはいかない。又私は、妙な羽目で、クイズ反対を書く羽目になったけれども、先生の教えがなくっても、可哀そうな国民が愚者の天国に遊ぶのを妨害する程無情になれない。
 さりながら、愚者の天国というものは、ほんとうの天国ではない。それは愚者にもわかっているはずだ。本当の天国は本当の自由や幸福があってしかるべきだし、恨みもない人間を殺すための道具の製造所があるはずもない。愚者の天国は、よそから亡ぼしに来なくても、それ自身の愚かさのために亡びるものである。又、私は、学のない者達がクイズ天国でどうでもいいような知識のかけらを拾うことに強く反対しない。少しでも拾えばそれだけのことはあるし、それに近ごろ、真空状態ということを大変心配する向きもあるから。
 さりながら、かけらを拾うことに夢中になって、自分や国の生死の大問題か忘れられてしまったら大変である。ひそかに私は、日本にクイズがはやるのは、どこかの国の某略にひっかかっているのも知れないと思っている。ひとつ、東京新聞が調査に乗出してくれるといい。

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