礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

坂上信夫『土地争奪史論』の凡例

2014-07-27 06:29:28 | コラムと名言

◎坂上信夫『土地争奪史論』の凡例

 坂上信夫の『土地争奪史論』(一九二二、大同館書店)の本の巻頭には、三浦周行の「序」、本庄栄治郎の「序」、そして著者による「自序」がある。これらは、すでに紹介した。
 本日は、同書の「凡例」を紹介してみたい。凡例は、自序のあと、目次の前に置かれている。

 凡 例
▲本書記述の内容は本邦の史実に限られる。
▲本書は此の姉妹篇として別に作らうと思つてゐる「百姓の歴史」が、被支配者の側からせらるゝに対して、土地の包括約所有の主体即ち政冶的意味に於ける支配的立場にあるものを主とする更に異る側面から試みた観察の叙述である。
▲本書は制度の詮索を主題としない、故に法制成立の起源や意味や其他の史実については、略〈ホボ〉妥当なりと信ずる先学の考証と断定とに直ちに依憑〈イヒョウ〉する。
▲本書は最後の一章即ち第十三章回顧の記述を尤も重要な主題とする。前十二個章の記述は殆んど其立正と解明なりとも解せらる、されば此一章を読むことによつて、全篇叙述の意義と内容とを髣髴する事が出来る。
▲著者ば歴史の学徒でない、法律や経済学の正しき教養も受けたことはない、僅かに独学自修によりて雑駁にして杜撰な一知半解の知見を有するに過ぎない。而かもこの小冊子を作つて広く江湖に頒つ〈ワカツ〉所以は、真実に著者が衒誇の所為に出づるものでは決してない。著者は多くの没常識と錯誤と哂ふべき無識と膚浅〈フセン〉と、それに対する諸賢の嘲笑と叱責を深く自ら期待する。叱責が著者の知見を□すであらうから。嘲笑が著者を更に自奮に導いて又淬励勤学の道に奮ひ起たせるであらうから。盲者蛇に怖ぢざるの痴愚と無暴を敢てする所以である。
▲所有といふ観念の発生史的研究及びそれが依立する個人意識の起源と歴史及意味と性質等についての研究は、生物学的、社会学的、心理学的広範な分野に亘るから、別に「所有の観念と個人意識の発展」なる一冊に纏めて発表したいと思つてゐる。
▲引用参考書及諭文の筆者によつて蒙つた示教を感謝し、併せて叮嚀な校閲と指導と序文を賜はつた京都帝国大学教授三浦周行博士と、同助教授本庄栄治郎学士に深甚の謝意を表する。特に、此述作が成される間、常に善き鼓舞と激励とを忘れなかつた法学士野上信幸君が、此書成刊の日に到らずして卒然として長逝したことをおもへば、今更に無眼追慕の哀愁を禁ずることが出来ない。今此刊行にあたり、謹みて永遠の友情を捧げる。
  二千五百八十年此稿を訖る〈オエル〉   著 者

 引用文中、□の部分が読みとれないが、おそらく、「糾」であろう。

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