礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

三世中村歌右衛門が集めた歌舞伎の名言

2013-01-04 06:24:26 | 日記

◎三世中村歌右衛門が集めた歌舞伎の名言

 文化文政期の大阪の名優・三世中村歌右衛門(俳名・芝翫〈シカン〉)に、『歌舞妓雑談』〈カブキゾウダン〉という著書がある。当時における歌舞伎界の人々の談話を書きとめておき、江戸で上梓したものだという。
 考証家の森銑三は、この本を早稲田大学図書館で読み、「大いに感心した」と述べている。そして、同書中の名言を引きながら、ところどころでコメントをおこなっている。すなわち、森銑三『典籍叢話』(全国書房、一九四二)所収の「三世中村歌右衛門の歌舞妓雑談」というエッセイである。
 私は、『歌舞妓雑談』そのものを読んでいるわけではないが、森銑三が引く歌舞伎界の人々の談話が、なかなかの名言になっていると思えたので、以下にその一部を紹介してみたい。なお、森銑三によるコメントは、割愛した。

「角前髪〈スミマエガミ〉の荒事は、娘の酒に酔ひたる気持にてする事なり」(市川海老蔵)
「にらむ前に目をねむりてにらめば、はつきりわかりてよし」(四世市川団十郎)
「荒事は七つ八つの子供のまねをする心なり」(四世市川団十郎)
「かはゆき者を見るには、目を見ればかわゆく見ゆるなり。憎き者は、鼻を見れば憎く見ゆるなり」(沢村訥子〈トッシ〉)
「敵役〈カタキヤク〉は随分丁寧にするほどかへつて憎くてよし。をかしみはなきがよし」
「敵役はせりふの少きがよし。不断胸にてわるだくみを思案してゐる心なり」(山中平九郎)
「茶器と医者は年古きがよけれど、作者は若きがよし。役者も若きがよし」(二世市川団十郎)
「狂言を仕組むには、絵をかく心にて作るがよし。文字のやうにかたく作りては、女子供によめずしてわかりかねる事なり」(狂言作者中村伝七)
「節は若き者に付けさせて、その上を少しづつ直して語るがよし。老人のつけたる節は、とかく古風になりたがるものなり」(豊竹越前掾)
「伎芸は何事によらず、年をとりてはつやが抜けるものなり。念に念を入れるほど、かへつてつやが薄くなるなり」(二世中村七三郎)

 このあと、森銑三は、「中村芝翫口上」と称した同書の序文を引いている。これは、同書を上梓するまでの経緯を歌舞伎の口上の文体で述べたもので、これもまた興味深い文章である。【この話、続く】

今日の名言 2012・1・4

◎金を持つよりは芸を持つがよし

 三世沢村宗十郎の言葉。三世中村歌右衛門の『歌舞妓雑談』に紹介されているという。上記コラム参照。

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