「ひらやま・いくお」というと、有名な画家を思い浮かべる人が多いだろう。
だが、新潟県人にとって、画家ではない人を思い浮かべる人が結構多いのではないだろうか。
元新潟県知事である。
画家は、「平山郁夫」。
元県知事は、「平山征夫」。
一字違いである。
この平山征夫氏が就任する前と後の新潟県知事は、スキャンダルがあったり途中で辞任したりと、あまりよい印象がない。
ただ、平山知事時代は、それなりに安定した県政がみられたと思っている。
本書は、その元知事が70代を進んでいく中で書いたエッセー集である。
名前が、画家と同じ読みをするだけあって、本人が描いた、文にふさわしいイラストもたっぷり収録されている。
回顧録とはいうが、前半の内容は、知事になる前に日銀の新潟支店長をしていたとき、平成3年ごろに、新潟日報紙の夕刊に掲載されていた随想欄をもとに構成している。
そして、後日談になっているのもあるが、平成27年に同じテーマで書いたものを載せる形である。
24年後に、「その後」ということで、同じ題で現在を書いて比較したら面白いかもしれない、一人の凡人の人生における二つの時点での心境比較を通じて「老い」を考えてみる良い機会になるかもしれない。
と、本人は書いている。
そして、途中からは、70歳を過ぎてから書いた文章が「しゃべっちょ古稀からの独り言」。
「しゃべっちょ」は、方言で「おしゃべり」のことだ。
そのとおり、様々なテーマで書かれている。
そのしゃべっちょから、年齢に関することや世界や日本の指導者、地球温暖化等に対する懸念などは、こちらも同感であった。
そのほかにも、いろいろなことを知ることができた。
沖縄の正常化を訴えて活動した瀬永亀次郎のこと、
永年インドでストリートチルドレンの収容施設の建設に、NGO活動で取り組んできた片桐昭吾・和子夫妻のこと
などは、たくさんの人がもっと知っていてもよいことだと思った。
さて、知事時代から今でもつながっているなあという思いを抱いたのは、朱鷺のことであった。
知事の尽力のおかげで、中国から朱鷺をいただくことができた。
その朱鷺のペアから産卵・繁殖に成功し、今では(平成30年4月現在)飼育下182羽、野生下284羽もの朱鷺が、国内で佐渡を中心に分散飼育されるようになっている。
佐渡が今ではすっかり「朱鷺の飛ぶ島」となっているのは、熱い思いで取り組んでくれたおかげなのだ。
さすがに、日銀の支店長や県知事をやった人だけあって、私の知らない分野や人についての知見が豊かで、こちらを感心させたり納得させたりするところが多くあった。
先日書いた「一生せい春」のことも、実は、この本に書かれていたのである。
最後に、こうありたいと思う教えを一つ。
ニーバーの祈り 20世紀アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの言葉
“神よ 変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を我に与えたまえ。変えることができないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。そして、変えることができるものと、変えることができないものとを、識別する知恵を与えたまえ”
回顧録というと、大上段に構えたかたいものを考えてしまうのだが、くだらない冗談を交えてニヤリとさせるところも多くあり、読みやすい一冊であった。