家の棚の奥に、このCDがあった。
「浅い夢」
来生たかおのデビューアルバムだ。
彼は、私が学生生活を送っていた頃、デビューしたのだった。
当時は、井上陽水や小椋佳を見出した多賀英典氏がプロデュースした第3の注目の新人ということで、話題になったのを覚えている。
LPのアルバムタイトルの「浅い夢」や2曲目の「赤毛の隣人」などは、ラジオで聴いたものだった。
だけど、来生たかおの音楽は、あの当時の自分にとって、「合わないな」という感覚だった。
それは、自分の生活の実感とかけ離れていたせいだと思う。
それよりもまだフォーク系のシンガーや楽曲を好んで聴いていたものだった。
私の手元にあった「浅い夢」のCDは、デビューから10周年ということで1986年に販売されたものらしい。
その頃に私が買ったものではなく、今から20年余り前に、CDレンタル店で中古販売されていたものだ。
レンタル落ちの品物だから、表面にいろいろシールが貼ってあったりしている。
安く購入しては見たものの、あまり積極的に聴く気にはならず、そのまま棚に置き去りになっていたのだった。
さて、鳴り物入りで発売されたアルバムだったが、さほど売れたという話は聞かなかった。
逆に、期待を裏切る結果になったような話は聞いた。
CDケースの裏側に書いてある、このアルバムに関わった人たちを改めて見てみると、当時なかなかの顔ぶれだ。
全作詞が来生えつこ、全作曲が来生たかお、全編曲が星勝であった。
また、参加アーティストの顔ぶれには、高中正義、小原玲、後藤次利、安田裕美、星勝など、あの当時著名だった人たちの名前が並んでいる。
せっかくだから、昔を懐かしんで聴いてみようかな、という気になった。
収録曲は、
1浅い夢 2赤毛の隣人 3晴れのち曇り 4痛手 5雑踏 6悪い夜 7待ち人来らず 8ボートの二人 9夏まどい 10不幸色のまなざし
驚いた。
心地いいのである。
歌に物語性があるし、聴いていて非常にオシャレな感じがする。
1曲目のデビュー曲「浅い夢」の伴奏は、ピアノだけだが、しっとりと聴かせる。
2曲目の「赤毛の隣人」は、一転してポップな感じ。
ある日 紅のダリアを胸にさした女がやって来て
裏の雑木林の一軒家に住みついたのだった
青い目の下に淡く暗い翳りがあった彼女は
その日から僕等の美しい隣人になった
彼女の名前は ミス・ダニエル
長い髪の毛も赤いダリアのよう
…うわあ、なんてしゃれた感じの曲だろう。
青い目の外国人女性が引っ越してくるなんて。
しかも、「紅のダリアを胸にさし」「裏の雑木林」「青い目の下に淡く暗い翳り」「長い髪の毛も赤いダリアのよう」
歌を聴いているだけで、その情景や女性が想像できてしまう。
詩を書いたのは、姉の来生えつこだったが、こんなしゃれた感じの歌は1976年当時はなかなかなかったはずだ。
そのうえ、曲と詩がよく合っていて、互いを引き立てあっているように感じてしまった。
このアルバムが出された1976年といえば、今までにない感覚のユーミンが受けていたけれど、この来生たかおの曲もなかなかのものだ。
アルバムの最後は、「不幸の裏返し」という何とも言えないネーミングの曲。
流れる 眉毛の先に ポツリとある黒子がひとつ気になった
額の生え際も何故かはかなく見えて どこか不幸の匂いがした
君のそのなまめかしさは 不幸の裏返し
それでも僕は君に惹かれた
この曲なんか、途中で転調しているのか半音変わっているのかよくわからないけど、途中で曲に変化があって、工夫しているようだ。
全曲、非常に都会的でおしゃれな感じを受ける。
そうか、1976年当時の世の中では、まだこの都会的な感覚の男性はきざな感じがして受けなかったのだな、と思った。
だから、時代が彼を受け止めるまで待たなくてはいけなかったのだろう。
そして、その後、薬師丸ひろ子の「セーラー服と機関銃」(夢の途中)で受け止められる時代が来て、完全にブレークした。
その頃には、彼が作った大橋純子の「シルエット・ロマンス」や中森明菜の「セカンド・ラブ」などの楽曲いくつかだって、時代に合ったからこそヒットしたのだ。
もう、今となれば、このアルバム「浅い夢」からは、デビューした当時のきざな感じはない。
都会的でセンスのいい曲ばかりなのだなと感じる。
ヒットするには、受け入れられる時代かどうかということが大きいのだな。
CD「浅い夢」、レンタル落ちだけど、買っておいて、そして今さらながら聴いてみてよかった、気に入った、と思った私であった。
ヒットするには、受け入れられる時代かどうかということが大きい…と言うのはそのとおりじゃないですかね。「こんな良い曲ばっかりなのになんで売れなかったんだ?」ってアルバム結構ありますからね。
発売された時は「ダメだな、こりゃ」と思ったアルバムも「今、聴き直すと結構良いアルバムだったんだな〜」ってこと良くありますね。
現役の時はどうしても仕事を優先しなきゃならないので、時間がなくアップアップで、じっくりと聴くことが出来なかったのでしょうがないんでしょうけど…。
退職して時間たっぷりの私は一アーティストの出したアルバムをファーストアルバムから時系列的に聴いたりしていますね。
時間たっぷりのリタイア人生の楽しみでしょうか。
いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
そうなんです。参加ミュージャンなかなかのメンバー。結構金かけて作ったというのがわかりました。まあ、あの頃、そのメンバーたちも若手の気鋭の顔ぶれだったと言えるのでしょうけど。時代を感じました。
歌が好きなので、中古でLPやCDをたくさん買い込み、聴ききれないくらいになりました。でも、こうして新たな発見があるのは楽しいです。時々は好きな曲だけ集めて聴いて楽しんでいます。
ホンダ氏のこと、私はよく知りませんでしたが、著名だったのですね。
ありがとうございました。