人里離れた山中に、テントを張って夜を迎えると、辺りは全くの暗闇に成ります。鼻を摘 まれても解らない程の暗闇と言いますが、闇が体にまとわりつく様な、何か質量を持った 存在が周辺に充満しているような感じがします。幽霊や物の怪などは、全く信じていない 私ですが、こんな時はさすがにあまり良い感じはしません。背後の闇でパキッと枯れ枝の 折れる音がしたり、木々の枝がザワザワとざわめいたりしたりすれば、背筋を冷たいもの が走ります。少なくとも半径10km以内には、自分以外人間は一人も居ないとなればなおさ らです。
こんな時テントの明かりや小さなたき火の火が、いかに安心感を与えるか実感します。 人間のDNAには、原始の記憶が残っていると言われますが(そんなことあり得ないが)そ う言われれば、そんな気もしてきます。夜も更けて、山の端からおぼろ月が上がってきた りすれば、一転して大自然の懐に抱かれているような安堵感を覚えます。何するでもなく たき火の前に座って月を眺めていれば、全く何も考えていない一時を過ごせます。
若者が自分探しの旅に出る定番は、アジアの人混みの中の様ですが、一人テントを担 いで二三日山に籠もった方が効果的かも知れませんよ。真の暗闇の中で見えるのは、自 分の心だけですから。