冒頭、主人公の安井算哲(岡田准一)が、絵馬に記された算術の奇問難問(出題者は関孝和)に挑むあたりの呼吸がいい。そのために彼は自らの職の本分である上覧碁(将軍に対局を見せる)に遅刻しそうになる。
くわえてその上覧碁において、本来は過去の名勝負の棋譜どおりに石を打たなければならないのに、ライバルの挑発にのって天元(盤のどまんなか)に碁石を打ち、叱責を受ける。
数学も、碁も、算哲にとっては宇宙の記号化であることがわかる。
その意をくんだ会津藩主(松本幸四郎)は、“たかが碁打ち”にすぎない算哲に帯刀を許し、日本全国で北極星の高度を測る北極出地を命じる。
算哲は人生でいつも遅刻している。出地が延びたために「一年後に帰ってきます」と約束した算術塾の娘えん(宮崎あおい)は嫁に行ってしまい、離縁されてもどってきた彼女に「三暦勝負に勝ったら」とリクエストするも予想をはずしてしまう。
彼はようやく嫁に迎えたえんに
「わたしより先に、死なないでください」
とさだまさし的なお願いをし、えんはその願いを……
人生の最後の最後に妻との約束の刻限を守った男の物語。岡田准一はもう少しテンションを下げた演技の方がよかった気もするかな。もっとも、製作にはジャニーズ事務所もかんでいるので勝負作だしね(藤島ジュリーが製作者のひとり)。宮崎あおいはすでに大女優の貫録。
笹野高史、岸部一徳、ど派手な衣装の中井貴一(水戸光圀って確かにそんな人のイメージ)などのオールスターが脇をかためていてすばらしい。特に、武藤敬司の出演はうれしかったな。相米慎二の「光る女」以来。あのお兄ちゃんがまさか全日本プロレス会長になるなんて、どんな天文学者でも予想できなかったはず。
滝田監督の気合いはオープニングのナレーションにも及んでいて
「どっかで聞いた声だなあ……あ、真田広之か?」
われながらご明察でした。