新刊書が売れないなかで、新古書店とよばれる業種だけは絶好調である。代表格ブックオフの値付けのシステムはすこぶる単純で「特A」(発行から三ヶ月以内の新刊→定価の10%)「A」(発行日から一年以内のもの→6%)「B」(本をきれいにする作業が必要な本→4%)「C」(汚れや紙焼けがある本→1%)「D」(廃棄処分)これだけ。
しかし、旧来からの古書店は違う。あの頑固な古本屋の親父たちの値付けこそ、作家・作品への第二の評価なのだ。後世に残すべき作品にはしかるべき値を付け、資料として用をなさない本には捨て値を付けてみせる。それが商売として成立している(悪書には悪書で希少価値を見つけて)現状はやはり豊かだといえるだろう。
古書店を営んでいた出久根は、そのあたりの事情を近代作家のてんこ盛りのエピソードとともに語ってみせる。吉屋信子の父親は足尾銅山の鉱毒問題のときに強制執行を行った郡長であり、田中正造が少女時代の吉屋のおかっぱ頭をなでたことがあるとか、極貧に沈んだ樋口一葉が、意外にはすっぱな女性であったこともこの書で知ることができる。
わたしが好きなのは「銭形平次」を著した野村胡堂の挿話。学費にこまって大学を中退した胡堂は、晩年に財団をつくり、苦学生を助けた。その財団の基金は、胡堂の奥さんの同僚教師の息子、井深大という若者がおこした東京通信工業の窮状を、胡堂が出資して助けたことによって得たもの。その会社こそ、今のソニーなのである。
07年9月28日付事務職員部報「日当③」より。