新国立劇場 「ロッシーニ:チェネレントラ」

新国立劇場 2008/2009シーズン
ロッシーニ「チェネレントラ」

指揮 デイヴィッド・サイラス
演出 ジャン=ピエール・ポネル
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
キャスト
 ドン・ラミーロ アントニーノ・シラグーザ
 ダンディーニ ロベルト・デ・カンディア
 ドン・マニフィコ ブルーノ・デ・シモーネ
 アンジェリーナ ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 アリドーロ ギュンター・グロイスベック
 クロリンダ 幸田浩子
 ティーズベ 清水華澄

2009/6/10 新国立劇場オペラ劇場



アルマヴィーヴァ(2002年。セビリアの理髪師。)でのシラグーザの美声が忘れられず、久々に新国立劇場でオペラを観劇してきました。故ポネル演出による定番の舞台を今に蘇らせます。ロッシーニの「チェネレントラ」を聴いてきました。

まず一にも二にも挙げるべきは、その目当てのアントニーノ・シラグーザに他なりません。第一幕、チェネレントラに一目惚れするラミーロことシラグーザは、序盤こそセーブ気味なのかそれほど目立ってはいませんでしたが、後半の第二幕、とりわけチェネレントラに再会を誓う「誓ってまた見つける」の大アリアでは、ハイCも見事に決まっての歌唱で会場を大いにわかせてくれました。(まさかのアンコールまで付いていました。)2002年の時と比べると幾分声は太く、また状態もあったのか声量は小さめでしたが、あの甘美な歌声は、世界でも随一のロッシーニの歌い手としての実力を知るに相応しいものではなかったでしょうか。初台で再びシラグーザの声を聴けただけでも、本公演の満足感はほぼ得られたというものでした。

ラミーロの相方を務めた大御所、アンジェリーナ役のヴェッセリーナ・カサロヴァは、声に凄みを効かせたいつもの語り口ではありながらも、その低めの声質が、とりわけ召使い(灰まみれ=チェネレントラ)として虐げられる前半部分のキャラクター性といささか合わないような気がしてなりませんでした。とは言え、フィナーレの部分、ようはかつての姉や父たちの行動を許し、また人間愛を高らかに歌う「悲しみと苦しみから生まれた心」のアリアはさすがの貫禄で舞台を引き締めます。夜会に登場する際の黒のドレス姿がまるで夜の女王のようで驚かされましたが、どちらかというと今の彼女はもっとドラマテックで力押しが出来る役の方が向いているのかもしれません。また指導に問題があるのか、演技に関しては感心しませんでしたが、寄り添うシラグーザとの息はぴったりでした。

歌唱面では、安定した外国人のキャストの他、演技にも冴えた二人の姉、幸田浩子と清水華澄を是非とも触れないわけにはいきません。前述の通り、不思議にも外国人キャストにおいて殆ど演技らしい演技のない舞台でしたが、終始ブッファらしいドタバタ劇をコミカルに立ち回る彼女らの仕事ぶりは、本公演の成功にも大いに寄与するところではなかったでしょうか。歌に演技に訓練された合唱団はいつもながら隙がありませんでしたが、彼女らの好演もこの舞台に活気を与えていました。

Antonino Siragusa - tenor - G. Rossini - L'italiana In Algeri

*シラグーザ出演のアルジェのイタリア女。リンドーロは十八番です。アジリタも流麗です。

デイヴィッド・サイラス率いる東フィルは上々です。ロッシーニの最大の魅力でもある沸き立つようなリズム感こそ十全ではありませんでしたが、小気味良く立ち回るヴァイオリン群の機動性を活かし、透明感にも溢れた木管を導きながら、いささか真面目過ぎる嫌いはあるものの、破綻なくロッシーニ・クレッシェンドを聴かせていました。また時にテンポを落とし、舞台上の劇に観客の注意を向けていた点も興味深く思われます。歌を邪魔しない指揮であったことは間違いありません。

演出上で一つ感心したのは、一幕第一場のラスト、アリドーロがただ一人、アンジェリーナに向かって自分が城へ連れていくと説くシーンです。それまでの五重唱で繰り広げられた「行く行かない。」の騒ぎは終わり、ここで一端幕を降ろした上にて二人だけが互いに内面をぶつけるようにして歌い合います。アリドーロの確信とアンジェリーナの迷いの対比、またスポットライトに照らされ、幕に大きく影絵のように映るアリドーロのドン・アルフォンソ的な立ち位置が、このシーンで器用に示されていたのではないでしょうか。ブッファとは言え、階級の問題云々など、シリアスな面もあるこの劇のエッセンスを抉りだしていたと感じました。

Juan Diego Florez "Si, ritrovarla io giuro" Cenerentola 2008

*こちらはもう一人のロッシーニテノール、フローレスの見事なアリア。

後半に向けてオーケストラ、歌手とも調子を上げる新国立劇場の公演のことです。これから終盤に向けて、さらにシラグーザの至芸も一層冴えてくるのではないでしょうか。期待をほぼ裏切らない公演でした。
コメント ( 7 ) | Trackback ( 2 )
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コメント
 
 
 
シラグーザ王子にブラボー! (菊花)
2009-06-14 22:43:54
私が見た12日の公演でも、
シラグーザ王子は第2幕で爆発。
ガッツポーズ&アンコールで観客の拍手に応えてくれました。
あまりに明るく華やかなテノールなので、
男爵と姉達に対して「俺は、怒った!」と歌う箇所も
怒っているように聞こえないのはご愛嬌ってことで。

>灰まみれ=チェネレントラとして虐げられる前半部分のキャラクター性といささか合わない
そうなんですよ。貫禄ありすぎて、
「可哀想な灰かぶり」には見えない(苦笑)
 
 
 
聴きたかった演目です (panda)
2009-06-14 23:13:11
 去年6/18スポレート歌劇場来日公演を聴きにいき
王子様よりアンドリーロ先生が良かった印象が
あります。(シラグーザ出演ではない回だった様)
 ロッシーニ・クレッシェンド 技巧と装飾の
華麗なるブッファに魅了されました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-06-15 22:24:19
@菊花さん

こんばんは。金曜公演をご覧になったのですね。

>シラグーザ王子は第2幕で爆発。ガッツポーズ&アンコールで観客の拍手に応えてくれました。

やはりあそこで爆発しましたか!
会場が静まり返った後でのブラボー大会でしたよね。
沸いた舞台を共有するのも生公演の醍醐味ではないかと。本当に楽しめました。

>「俺は、怒った!」と歌う箇所も怒っているように聞こえない

ロッシーニの音楽にそういうところがありますよね。
他のオペラの全然違うシーンからの転用も多いですし…。(もちろん愉しいのでそれも良しなのですが。)

>貫禄ありすぎて、「可哀想な灰かぶり」には見えない

ちょっとキャラが強かったかもしれませんね。
黒いドレスで出てきたときは夜の女王と見間違えました。(笑)


@pandaさん

こんばんは。
スポレートの来日公演でもシラグーザが出演していましたか。
まだこの公演も残りの日がありますので、宜しければ是非!
シラグーザをリーズナブルに楽しめるチャンスですので…。

>技巧と装飾の華麗なるブッファに魅了

youtubeで聴いても素晴らしいですね。
本当に鳥肌ものです。
 
 
 
10日の公演に参りました。 (steph)
2009-06-17 23:48:39
はじめまして。大満足の公演でしたね。シラグーザの歌声は、甘美でうっとりさせますね。
演技については、私は歌がよければ歌がキャラクターを表してくれるので直立不動でも許せるくらいです。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-06-18 22:15:31
steph様はじめまして。コメントありがとうございます。

>シラグーザの歌声は、甘美でうっとりさせますね。

一にも二にもシラグーザが素晴らしかったですね。
千秋楽はきっと相当に盛り上がるのではないでしょうか。
本当に良かったです。
 
 
 
千秋楽 (akko)
2009-06-24 14:14:19
20日の千秋楽は本当に盛り上がりました。
初めて聞いたのですが傑作だと思います。
千秋楽だからアンコールなのかと思ったら
連日アンコールだったのですね!
久々のベルカントのすばらしいオペラに
出会いました。
また聞きたいなあ~
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-06-24 22:23:46
akko様はじめまして。コメントありがとうございます。

シラグーザ、尻上がりに調子を上げて最後は大変なことになっていたみたいですね。
本当にキャストが揃うとロッシーニって最高の贅沢だなとつくづく思いました。

>また聞きたいなあ~

次のご登場も待ちたいですね。行って良かったです!
 
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