浅田 次郎著、講談社文庫刊
当代屈指のストーリーテラーの世相雑感集。『週刊現代』連載シリーズの文庫化第1冊。
作者の異色の職歴や多彩な人生経験と筋立ての上手さで、読者には書いてることの真偽が判らない。ノンフィクションの筈が、筆致の巧みさで、どこまでがホントでどこまでがウソなのか煙に巻かれてしまうと言うわけだ。「恐怖について」など眉に唾付け読んでいる。
こんないい加減でいいのかと不謹慎さに不快感を催す部分が多々あるが、これは作者もあとがきで書いてるように、書き方の作戦のうちだろう。
ともあれ、虚実取り混ぜた(とブログ主は思っているが)作者の数々の体験談は、面白い。三島由紀夫や山口瞳など大作家への畏敬の念もストレートに伝わってくる。
「サチコの死について」は日常の事実のニュース報道からの一文ではあるが、慟哭無しには読み得ない。作者の、読者の、世間の憤りと無念の想いが立ち上ってくる。
「タイトルについて」で、”職場でも酒場でも、団塊の世代のと思しき男に’ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団! 勇気凛々ルルの色’と書いたメモを差し出して、ちょっと読んでくれませんか、と言ってみよう。すると、読むのではなく、節をつけて歌いだす”という下りは、思わずニタッとしたのだった。
最後に、夫々の章に、初出の掲載日を記した方がいい。世相がテーマだけに、時が経てば経つほど、読者には親切になる。これは版元への要望になるが。
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