投票日の今日は、ヨーテボリ郊外の一つの投票所に一日中張り付いて、スウェーデン・テレビ(SVT)の出口調査をやった。面白い経験がいくつかあったが、それはまたの機会に。
どっと疲れて帰宅し、夕飯を食べ(昼食を食べる時間が全くなかった・・・)、ソファーに横になり(soffliggare!)、19時から開票番組を見ていた。投票所が閉まり、開票が始まるのは20時からだ。
今回の選挙の注目点は2つ。
1つは、支持が伯仲している右派ブロック(現・中道保守政権)と左派ブロック(赤緑連合)のどちらが勝つか、ということ。
もう1つは、極右政党であるスウェーデン民主党が議席を獲得するかどうか?ということ。いや、これまでの世論調査から、議席獲得に必要な4%ハードルを超え議席を獲得する可能性はほぼ明らかになっていた。だから、むしろ注目されたのはどれだけ支持を伸ばすか、ということだった。
下の表では、2006年国政選挙の結果、今日19:50に発表されたTV4の予想、20:00に発表されたSVTの予想、そして、最終的な結果を示す。この詳細についても、いろいろ書きたいことがあるものの、時間がないので別の機会に。
そして、最終的な議席配分は、以下の通り。
まず、第1点目については、右派ブロック(現・中道保守政権)の勝利だ。左派ブロック(赤緑連合)は最後に少し挽回したものの、遠く及ばなかった。
第2点目については、スウェーデン民主党が4%ハードルを越えただけでなく、5.7%も獲得した。これは、上の表から分かるように出口調査による予想をはるかに上回っていた。「スウェーデンも、ついに他のヨーロッパと同じく極右・ポピュリストの政党が議席を獲得するようになってしまった」というのが、内外の反応だ。
ただ、それは今回が初めてではない。90年代の初めには、新民主党というポピュリストの政党が3年間だけ議席を獲得したことがあったが、長続きしなかった。今回もそうなる可能性もある。
また、そのような極右・ポピュリスト政党が既に二桁台の得票率を持つノルウェーや、政治全般に大きな影響力を持っているデンマーク、そしていくつかのヨーロッパ諸国に比べたら、スウェーデンはまだまだ5%台だからましなほうだ。
スウェーデン民主党に票を投じた人々の多くは、これまで社会民主党や保守党などに票を投じてきたものの、自分たちの声がなかなか取り上げてもらえないと、不満を感じた一般の人々だと見られている。特に、もともとあった産業が廃れたものの新たな産業への転換に失敗したために、失業率が高くなった、小さな町に住む、低所得層が支持に回る傾向にあることが、過去の調査などでも明らかになっている。昨年の欧州議会選挙では、著作権を無視した自由なダウンロードを主張する海賊党(パイレーツ党)が二桁台の得票率を取って躍進したが、今回はスウェーデン民主党がおなじように「不満層の党」として躍進したと見られる。
一方で懸念されるのは、このスウェーデン民主党という党が、ただ単にポピュリストの党であるだけでなく、ネオナチ・白人至上主義・反イスラム・移民排斥を主張する運動を源流としている点だ。そのようなイメージでは世論に広く支持を訴えるのが難しいため、近年はイメージアップに相当の力を入れ、過去の暗い歴史を消すことに躍起になってきた。そんな党が、既成政党に不満な一般の人々の支持をバックにしながら、今後さらに躍進してくることも考えられる。
さらに大きな問題は、右派ブロック(現・中道保守政権)が過半数の175議席を獲れず、173議席に留まった点だ。だから、今の状況で連立政権を維持しようとすれば、スウェーデン民主党にキャスティング・ボートを握られる可能性がある。
開票番組のスタジオに招かれた現政権の4党首
ただ、この点については、大きな心配はいらないのではないかと私は思う。左派ブロック(赤緑連合)の一つの党が、ブロックの垣根を越えて右派ブロックと連携することで、過半数政権を形成することができれば、スウェーデン民主党の影響力を排除できるからだ。しかし、そんな党があるのか?
実は、環境党はブロック形成に関しては以前から柔軟な態度を示しており、2002年国政選挙の直後にも社会民主党とではなく、自由党・中央党・キリスト教民主党などの中道右派政党と手を組むことも考えていた(『沈黙の海』で登場する、バルト海におけるタラの禁漁の一件だ)。また、2006年以降の中道保守政権下でも、政策によっては彼らと手を組んで法案を可決させたこともあった(例えば、労働移民の緩和など)。さらに、環境党の地方支部によっては、社会民主党や左党との赤緑連合に反対で、むしろ中道寄りを志向する党員が多いところもあるという。
実際、今日の開票番組の中でも、夜11時半頃だったであろうか、保守党のラインフェルト首相が党員や支持者に向けたスピーチの中で「これから環境党と提携を視野に入れた交渉を始めていく」と明言したのだ。
これは非常に面白い動きになってきた。というのも、もし環境党が右派ブロックに加わるならば、保守党に次ぐ第2党になるからだ。これまで右派ブロックを形成してきた自由党や中央党、キリスト教民主党よりも多くの票を獲得しているからだ。だから、ブロック内の力関係を大きく変えることになる。交渉次第では、閣僚ポストを手に入れることも夢ではない。そうなると、一つは環境大臣のポストだろう。現在の中央党出身のカールグレン環境相を追いやることができる(笑)。私の友人の中には、第2党なら副首相も夢ではない、と見る人もいる。
つまり、キャスティング・ボードを握ることになったのは、スウェーデン民主党ではなく、むしろ環境党だ、と捉える見方も可能だということだ。これは非常に面白い。現政権は、環境政策の面では後ろ向きだと批判され続けてきたが、環境党が影響力を行使することで、それが変わる可能性があるからだ。
では、現政権と環境党との政策的距離はどれだけ近いのか? 税制に関しては、合意しやすいといえるだろう。一方、例えば原発政策や風力発電の普及などは、現政権の一翼をなす自由党と真っ向から対立する。また、ストックホルムのバイパス建設やスウェーデン高速鉄道計画でも、現政権と見解を異にする(環境党は前者に反対、後者に賛成)。
だから、両者がどこまで妥協できるかが問題だ。もし、環境党の側があまりに妥協しすぎると、党内で不満が高まり、党が分裂したり、支持を失う可能性もある。他方で、あまりに厳しい要求を突きつけて、提携の話を反故にしてしまい、結局、スウェーデン民主党に影響力を持たせることも避けたいはずだ。
だから、明日から始まる交渉が非常に注目される。マリア・ヴェッテルシュトランド環境大臣・副首相の誕生か?
どっと疲れて帰宅し、夕飯を食べ(昼食を食べる時間が全くなかった・・・)、ソファーに横になり(soffliggare!)、19時から開票番組を見ていた。投票所が閉まり、開票が始まるのは20時からだ。
今回の選挙の注目点は2つ。
1つは、支持が伯仲している右派ブロック(現・中道保守政権)と左派ブロック(赤緑連合)のどちらが勝つか、ということ。
もう1つは、極右政党であるスウェーデン民主党が議席を獲得するかどうか?ということ。いや、これまでの世論調査から、議席獲得に必要な4%ハードルを超え議席を獲得する可能性はほぼ明らかになっていた。だから、むしろ注目されたのはどれだけ支持を伸ばすか、ということだった。
下の表では、2006年国政選挙の結果、今日19:50に発表されたTV4の予想、20:00に発表されたSVTの予想、そして、最終的な結果を示す。この詳細についても、いろいろ書きたいことがあるものの、時間がないので別の機会に。
そして、最終的な議席配分は、以下の通り。
まず、第1点目については、右派ブロック(現・中道保守政権)の勝利だ。左派ブロック(赤緑連合)は最後に少し挽回したものの、遠く及ばなかった。
第2点目については、スウェーデン民主党が4%ハードルを越えただけでなく、5.7%も獲得した。これは、上の表から分かるように出口調査による予想をはるかに上回っていた。「スウェーデンも、ついに他のヨーロッパと同じく極右・ポピュリストの政党が議席を獲得するようになってしまった」というのが、内外の反応だ。
ただ、それは今回が初めてではない。90年代の初めには、新民主党というポピュリストの政党が3年間だけ議席を獲得したことがあったが、長続きしなかった。今回もそうなる可能性もある。
また、そのような極右・ポピュリスト政党が既に二桁台の得票率を持つノルウェーや、政治全般に大きな影響力を持っているデンマーク、そしていくつかのヨーロッパ諸国に比べたら、スウェーデンはまだまだ5%台だからましなほうだ。
スウェーデン民主党に票を投じた人々の多くは、これまで社会民主党や保守党などに票を投じてきたものの、自分たちの声がなかなか取り上げてもらえないと、不満を感じた一般の人々だと見られている。特に、もともとあった産業が廃れたものの新たな産業への転換に失敗したために、失業率が高くなった、小さな町に住む、低所得層が支持に回る傾向にあることが、過去の調査などでも明らかになっている。昨年の欧州議会選挙では、著作権を無視した自由なダウンロードを主張する海賊党(パイレーツ党)が二桁台の得票率を取って躍進したが、今回はスウェーデン民主党がおなじように「不満層の党」として躍進したと見られる。
一方で懸念されるのは、このスウェーデン民主党という党が、ただ単にポピュリストの党であるだけでなく、ネオナチ・白人至上主義・反イスラム・移民排斥を主張する運動を源流としている点だ。そのようなイメージでは世論に広く支持を訴えるのが難しいため、近年はイメージアップに相当の力を入れ、過去の暗い歴史を消すことに躍起になってきた。そんな党が、既成政党に不満な一般の人々の支持をバックにしながら、今後さらに躍進してくることも考えられる。
さらに大きな問題は、右派ブロック(現・中道保守政権)が過半数の175議席を獲れず、173議席に留まった点だ。だから、今の状況で連立政権を維持しようとすれば、スウェーデン民主党にキャスティング・ボートを握られる可能性がある。
開票番組のスタジオに招かれた現政権の4党首
ただ、この点については、大きな心配はいらないのではないかと私は思う。左派ブロック(赤緑連合)の一つの党が、ブロックの垣根を越えて右派ブロックと連携することで、過半数政権を形成することができれば、スウェーデン民主党の影響力を排除できるからだ。しかし、そんな党があるのか?
実は、環境党はブロック形成に関しては以前から柔軟な態度を示しており、2002年国政選挙の直後にも社会民主党とではなく、自由党・中央党・キリスト教民主党などの中道右派政党と手を組むことも考えていた(『沈黙の海』で登場する、バルト海におけるタラの禁漁の一件だ)。また、2006年以降の中道保守政権下でも、政策によっては彼らと手を組んで法案を可決させたこともあった(例えば、労働移民の緩和など)。さらに、環境党の地方支部によっては、社会民主党や左党との赤緑連合に反対で、むしろ中道寄りを志向する党員が多いところもあるという。
実際、今日の開票番組の中でも、夜11時半頃だったであろうか、保守党のラインフェルト首相が党員や支持者に向けたスピーチの中で「これから環境党と提携を視野に入れた交渉を始めていく」と明言したのだ。
これは非常に面白い動きになってきた。というのも、もし環境党が右派ブロックに加わるならば、保守党に次ぐ第2党になるからだ。これまで右派ブロックを形成してきた自由党や中央党、キリスト教民主党よりも多くの票を獲得しているからだ。だから、ブロック内の力関係を大きく変えることになる。交渉次第では、閣僚ポストを手に入れることも夢ではない。そうなると、一つは環境大臣のポストだろう。現在の中央党出身のカールグレン環境相を追いやることができる(笑)。私の友人の中には、第2党なら副首相も夢ではない、と見る人もいる。
つまり、キャスティング・ボードを握ることになったのは、スウェーデン民主党ではなく、むしろ環境党だ、と捉える見方も可能だということだ。これは非常に面白い。現政権は、環境政策の面では後ろ向きだと批判され続けてきたが、環境党が影響力を行使することで、それが変わる可能性があるからだ。
では、現政権と環境党との政策的距離はどれだけ近いのか? 税制に関しては、合意しやすいといえるだろう。一方、例えば原発政策や風力発電の普及などは、現政権の一翼をなす自由党と真っ向から対立する。また、ストックホルムのバイパス建設やスウェーデン高速鉄道計画でも、現政権と見解を異にする(環境党は前者に反対、後者に賛成)。
だから、両者がどこまで妥協できるかが問題だ。もし、環境党の側があまりに妥協しすぎると、党内で不満が高まり、党が分裂したり、支持を失う可能性もある。他方で、あまりに厳しい要求を突きつけて、提携の話を反故にしてしまい、結局、スウェーデン民主党に影響力を持たせることも避けたいはずだ。
だから、明日から始まる交渉が非常に注目される。マリア・ヴェッテルシュトランド環境大臣・副首相の誕生か?
中央党のモード・ウロフソンさんあたりが一番イライラしてるんじゃないでしょうか。
6.6パーセントじゃねー。
でも、もし環境党が右派連合に参加することになると、左派は目も当てられない惨敗になってしまいますね。
環境党が少しでもラインフェルト一味の減税一点張り(この辺に昔のモデラートの姿がチラチラする)に歯止めをかけてくれるのでしょうか。
ところで、穏健党のEnda Arbetsparti(随一の労働党)というキャッチフレーズですけど、政治では何を言ってもいいのでしょうか。よく労働党が黙っているなあ、看板にいつわりあり、じゃないのかなあ、と思ったんですが。
産業界では商品を「随一の」って売り出したら、競争相手からクレームがつきますよね。
こういうヨーロッパでの極右勢力の台頭を見ると、日本での移民の受け入れ議論に否定的になってしまいますね。 治安の問題とか以前にこういう極端な政党がのさばってしまうのは困ります。
有権者の5%がそのような党に票を投じたからといって、すぐにそのような短絡的な結論に行き着くのは面白いと思います。
おそらく日本をはじめ、いくつかの国では保守派や極右系の人々が大喜びしているでしょうが、大袈裟な解釈でしょう。
スウェーデン民主党に票を投じた人の多くが、社会に漠然とした不満を抱き、既成政党以外の党を選んだ人々です。以前の調査からも、また今回の出口調査からも、失業者や社会給付の受給者、低所得者などが支持をする傾向があることが明らかになっており、社会から疎外感を感じている人々が、スウェーデン民主党の分かりやすいレトリックに惹かれたという要因が強いようです。
社会から阻害を感じている人々が、同じように社会から阻害されているマイノリティーを見つけて攻撃しようとするのは、残念ながらどこの社会でも同じです。「上を見て暮らすのではなく、下を見て暮らせ」ということでしょうか。
スウェーデンでも社会統合において、様々な課題を抱えており、今回の選挙に向けた政策議論でもいくつかの提案がありましたが、残念ながらインパクトの弱いものでした。今回の選挙結果を機に、より活発な議論が起こってほしいものです。
>一番イライラしてるんじゃないでしょうか。
>6.6パーセントじゃねー。
中央党だけでなく、キリスト教民主党なども、Moderaternaの支持者の一部が戦略的に票を投じているでしょうから、実際の支持率はもっと低いはずです。
>でも、もし環境党が右派連合に参加する
>ことになると、左派は目も当てられない
>惨敗になってしまいますね。
惨敗はもう変えられない事実ですし、今の赤緑連合も次の選挙まで持つとは思えないので、環境党もタイミングを逃がさないうちに、うまい所で右派と妥協して提携するのが良いでしょうね。
>環境党が少しでもラインフェルト一味の
>減税一点張り(この辺に昔のモデラート
>の姿がチラチラする)に歯止めをかけて
>くれるのでしょうか。
まさにその意味でも、環境党がModeraternaと組んで、政権第2党になると面白いことになります。
穏健党と環境党の連立とは、日本におきかえて想像するとどんなイメージになるのだろうか、とか(日本には環境党と対比できる政党はないのかもしれませんが)そういう連立ができる可能性はあるのか等というところも、また興味深いです。
>投票行動を取るのは、有権者の行動と
>しては割と一般的なのでしょうか。
スウェーデンの選挙制度では「4%ハードル」があり、全国で4%の得票率を獲得できなければ1議席ももらえません。しかし、4%を少しでも超えれば10数議席が一気に獲得できます。
これまでも書いてきたように、スウェーデンの選挙では、右派と左派がブロック形成を目論んで争っているので、自分が支持しているブロックを構成する党のうち、一つでも4%未満の得票率しか取れないと、ブロック全体の議席数が一気に減ることになり、空いてブロックに負ける可能性が高くなります。
そのため、本当は支持しないのに、自分の支持するブロックを勝たせるために、弱小党に票を投じるという行動は意外と一般的です。
日本では、比例区ではそのようなハードルがないです。一方、小選挙区のほうではその選挙区で1番にならないと議席が獲得できないので、本当は弱小党のA候補者に入れたいけど、ほとんど勝ち目がないから、B候補者よりはましなC候補者に入れよう、という戦略的行動も成り立つと思います。
戦略的という点では、例えば、D候補者とE候補者がいる場合、D候補者が自分は大嫌いだけど、優勢であり勝つことがほとんど分かっている。本当はE候補者に入れたいけど、死票になるのが目に見えているので、投票に行かない、という場合も、戦略的行動といえるのではないでしょうか?
一般に、小選挙区のほうが比例区の制度よりも投票率が低くなる傾向があるのではないかと思います。