スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

『オルタ』2011年1・2月号 まちがいだらけの「魚食文化」

2011-01-16 23:50:27 | スウェーデン・その他の環境政策
昨年6月終わりから7月初めにかけて、欧州議会議員イサベラ・ロヴィーン氏(スウェーデン選出)を日本に招き、セミナーやシンポジウム、水産庁や環境省の訪問などを行った。その中で、7月3日に慶應義塾大学で開催したシンポジウムは、日本のNGOであるアジア太平洋資料センター(PARC)との共催で行った。

7月3日イベント 市民向けシンポジウム @ 慶應義塾大学 三田キャンパス

そのアジア太平洋資料センター(PARC)が発行している雑誌『オルタ』最新号が水産資源について特集している。特集への寄稿者は慶應義塾大学でのシンポジウムに講演者やパネラーとして参加してくださった、共同通信の記者である井田徹治氏や、三重大学の准教授である勝川俊雄氏、船橋市漁協の組合長である大野一敏氏のほか、水産大学校理事長の鷲尾圭司氏、国際魚食研究所所長の生田與克氏などだ。また、漁師としての経験も豊富に持ち、料理番組にも登場するという異色の水産庁官僚である上田勝彦氏の話なども載っている。


私が目を引かれたのは、特集のはじめの言葉だ。

* * *

 魚や貝、甲殻類など、海の恵みは古くから日本の食卓を彩ってきた。しかし現在、これら水産資源の枯渇が世界的に懸念されている。気候変動の影響なども指摘されるが、その大きな原因は乱獲だ。
 本来、水産資源には自然の営みの中で子孫を残し、再生産し続ける力がある。しかし、その力を上回る量の資源が、世界中の海で獲られ続けているのである。将来にわたって魚を食べ続けていくためには、漁獲量の規制をはじめとする管理が早急に必要だ。
 2010年、様々な国際会議の場で、日本の魚介類消費が話題に上がった。とりわけ、ワシントン条約ではクロマグロの国際取引禁止案が議論され、話題騒然となった。そうした議論で日本政府が用いてきた反論のキーワードが、「魚食文化」だった。「魚食文化」を支えるための「伝統的」な漁には問題がなく、今さら規制すべきではないとの主張が展開されたのである。
 だが、「魚食文化」という言葉が、あたかも免罪符のように使用されている現実には、多くの疑問がつきまとう。そもそも、現代の「魚食文化」は近代化の過程で形作られてきたものであり、それ以前の伝統的な魚食文化とは明らかに異なっている。
 現代における私たちの魚消費の実態とは?
 それが伝統的な魚食文化とどう異なっていて、どのような問題があるのか?
 私たちが守るべき「ほんとうの魚食文化」を取り戻すための食べ方や暮らしのあり方について考えるきっかけとしたい。
* * *


「魚食文化」という言葉が、あたかも免罪符のように使用されている現実、という部分はまさにその通りではないかと頷いてしまった。水産資源の漁獲や国際取引に対する規制を巡る日本での議論や反応、そしてそれを報じる日本の報道などを見ていてぼんやりと感じてはいたが、ここまで明確な言葉で書く度胸は私にはなかった。

アメリカ・ヨーロッパも一枚岩ではないものの、水産資源の枯渇と保全に関する議論は近年特に盛んになってきている。危機に瀕した動植物の取引を規制するワシントン条約の締約国会議では、地中海のクロマグロを取引規制の対象にする提案がなされて大きく議論されたし、中国で養殖され日本に大量に輸入されているヨーロッパウナギはすでに取引規制の対象となった。そのような世界の動きに対して、それは「日本の魚食文化を理解しない欧米によるバッシングだ」とディフェンシブに身を硬くするのではなく、生態系や資源の持続可能性に配慮する形で魚を今後も食べ続けるためにはどうすればよいかを議論する必要があるのではないかと感じる。

このブログでも何度か書いたように、ウナギやマグロなどが日本の報道で取り上げられる場合、漁の出来・不出来や国際的な規制が価格にどのような影響を与え、それが消費者や業者にどれだけの影響を与えるのか、ということは伝えても、資源の状態や漁獲量の減少の背景にある要因、国際規制が主張されるその背景などについて言及する記事はあまり見ない。
2010-07-30:もっと考えてほしい、土用丑の日

この特集記事では、生産者・流通者・消費者、そして行政のそれぞれの責任と課題がまとめられている。
『オルタ』2011年1・2月号 まちがいだらけの「魚食文化」

* 退化する日本の魚食事情-自然から遠くなった私たちが失ったもの
 上田勝彦
* 流通が魚食を変えた?-魚に触れなくなった日本人
 生田與克
* マグロ、銀ムツ、ウナギにサケ-変わる魚食がもたらすもの
 井田徹治
* 漁業の衰退を加速させる水産行政の無策
 勝川俊雄
* 東京湾が問う私たちの「豊かな」暮らし
 大野一敏
* 陸の無関心が海も魚もダメにする
 鷲尾圭司

特集以外の記事

# メディアが報道しない世界のニュース10
斎藤かぐみ

# COP10とは何だったのか
天笠啓祐

# 生物多様性条約会議への先住民族運動の挑戦
細川弘明

連載
* 湯浅誠の反貧困日記 湯浅誠
* 隣のガイコク人 取材・文/大月啓介(ジャーナリスト)
* ゆらぐ親密圏-<わたし>と<わたし・たち>の間 海妻径子
* 音楽から見る世界史 アンゴラ、民族のリズム 粟飯原文子
* Around the World
* オルタの本棚
* インフォメーション


ボリ蔵相、売っちゃダメだよ、そんなもの!

2011-01-11 01:53:05 | スウェーデン・その他の環境政策
うまく5・7・5に収まりました。さて、何を売ってはいけないのか?は、少し後に回すとして、まず私がずっと気になっていた数字から。

その数字は過去しばらく1桁台を保っていたので、最新の統計でも1桁台かと思っていたが、先日ラジオのニュースを聞いていてビックリした。2桁となり、しかも大きく伸びていたからだ。何の数字かというと、スウェーデンの温室効果ガスの排出量減少(%)のこと。

1990年の排出水準と比べた場合、2005年の段階でスウェーデンの排出量は7.3%減少していた。それからさらに減少を続けていたが、2009年(現時点での最新統計)には90年比の減少幅が17.2%になったという。


ただし、2009年は不況下にあったので、製造業、サービス業ともに操業活動が低下したり、運輸部門でのエネルギー需要が低下したことも大きく影響しているだろう。しかし、不況に突入した2008年には12.4%減、そして好景気であった2007年でも9.3%減であったから、不況の影響がなかったとしても、少なくとも9.3%以上の削減、いや、様々な対策を考慮すれば10%以上の削減となったと考えてもいいだろう。

削減率だけを見れば、西欧の中ではドイツイギリスの削減幅がスウェーデンよりも大きい。しかし、両国はもともと石炭を中心とする化石燃料に依存する割合が高かったため、比較的簡単に削減する余地はあったといえよう。
2005年時点での各国の削減量はこのリンクを参照

だから、京都議定書を受けてEUが加盟各国に課した削減義務ではイギリスが12.5%減ドイツが21%減と大幅な削減を求められることになった。

一方、スウェーデンは70年代終わりから80年代にかけて省エネや効率化、火力発電の廃止(原発への切り替え)などによって、化石燃料の使用削減が行われたため、1990年の時点ではオイルショック直前に比べて排出量が大幅に減っていた(おそらく日本の状況と似ているかもしれない)。だから、EUがスウェーデンに課した削減義務は+4%増、つまり、排出量を若干増やしてもよい、ということだった。


スウェーデンの排出量(赤線)と世界の排出量(黒線)[1900年の水準を100としている]

だから、それにもかかわらず、それから20年足らずの間に10%前後も排出量を削減できたことは大きな快挙だろう。


EU各国の一人当たりの温室効果ガス排出量。スウェーデンは、ラトヴィア、ルーマニアに続き、低いほうから3番目
[イギリスはStorbritannien、ドイツはTyskland]


----------

では、最初の話に戻ろう。「ボリ蔵相、売っちゃダメだよ、そんなもの!」

何を売ってはいけないのかというと、スウェーデンが排出削減を達成してきたことによって生まれた排出枠の余分、つまり、2009年の4%+17.2%を含め、過去に累積してきた余分だ。昨年末、ボリ財務相はこの余分を他国に売ることもありえる、という考えを表明したのだ。

この余分は、3つの使い方が考えられる。まずは (1) 京都議定書の実行期間が終わる2012年以降の期間に回す(つまり、この分だけスウェーデンは排出量を増やせる)という手だ。次に (2) 課せられた排出削減義務を満たすことができない国に売る、という方法がある。最後に (3) 何もせず放っておく、という手もある。

スウェーデンとしてこれまで大幅な削減に取り組んできた理由は、気候変動抑制のために少しでも貢献し、国として頑張ればこれだけ減らせるということを他国に示すためであっても、余った分を他国に売って国庫歳入の足しにしようというケチ臭い考えからではなかっただろう。それに、2012年以降は今よりもさらに削減していくつもりだ。だから、(1)(2)という選択肢は消去される。

そうすると残るのは(3)だ。そうすれば、より積極的な排出削減を主張する立場からすれば甘いと考えられた京都議定書の削減目標以上の削減に貢献することができる。そして、自国での削減努力を怠り、義務を満たせない分は他国から買えばよいと考えている国に「そんな甘い考えは止めよう!」と言ってやることができる。それに、スウェーデン同様に排出削減義務に余裕があるイギリス(3)の選択肢を選ぶ、と表明している。

だから、ボリ財務相の考えは理解に苦しむ。それとも、その余分を売ることによる対価がそれほど魅力的な物なのだろうか?

しかし、専門筋によると、これまでの20年間に貯めてきた「余分」を売ることによる対価は80億クローナ(約1000億円)ほどだという。もちろん貴重な収入源だと考えることもできるが、確かスウェーデン中央政府の年間の歳入規模は9000億クローナほどだから、それに比べたら1%にも満たない。しかも、スウェーデンは昨今の金融危機を経ても財政状況は健全で、ヨーロッパの中でも優等生だ(2009年でも財政赤字はGDP比2%程度)。だから、血眼になって少しでも歳入を増やさなければならない、いうわけでは全くない。

だから、ボリ財務相には失望する。

2006年以降、政権についてきた中道右派連立の政策を見てみると、口では「環境政策を重視し、力を注いでいる」と言っているものの、実行されてきた具体的な政策を見てみると、それとはまるで違うとしか思えない側面がたくさん見つかる。今回のボリ財務相の発言も、その一つだ。

オゾン層が厚くなってきた

2011-01-09 13:49:32 | スウェーデン・その他の環境政策
1980年代に大きく議論されていた地球規模の環境問題といえば、酸性雨オゾン層破壊だ。小学生の頃に『×年生の科学』という学研の月刊雑誌を定期購読していたが、この雑誌は一般の科学や技術の話題だけでなく、環境問題も分りやすく説明しており、酸性雨とオゾン層の問題もその雑誌で知った(今から思うと、子供に科学への関心を持たせるという点で非常によい雑誌だったと思う)。

子供心に「非常に怖い問題だ」と感じ、「将来どうなってしまうんだろう」と心配したものだが、フロンガスの規制が次第に議論されていき、1987年に採択されたモントリオール議定書によってフロンガスの使用が国際的に規制されていった結果、オゾン層の破壊にも徐々に歯止めが掛かるようになったようだ。

スウェーデン気象庁が金曜日に発表したところによると、スウェーデン上空のオゾン層の厚みは1991年以降で最大だったという。ただし、オゾン層の厚みは気象によって大きく影響を受けるため、たまたまよい条件が重なったという可能性を排除することはできず、「オゾン層が回復している」と断定するには時期尚早だという。しかし、よい方向に動いているという兆しでもあるようだ。


オゾン層を破壊するフロンガスなどの排出量(スウェーデン)


オゾン層破壊への対策は、世界の国々や人々が危機感を抱き、その原因の抑制のために国際的な合意を取り結び、規制を実行することに成功した好例だと言えるだろう。この時も「オゾン層が薄くなっているのは短期的な変動によるもの」という見方もあったようだが、やはりフロンガス使用などの人間活動によるところが大きいという可能性が明らかにされていった。

だから、90年代以降の地球的課題と考えられている気候変動も、いずれはうまく解決できるのではないかという希望を与えてくれる。しかし、そのためには今からちゃんと行動を起こさなければならないことは言うまでもないが(いや、本来はもっと早くから動くべきだった)。

学研の『科学』雑誌に話を戻せば、オゾン層破壊の話を読み、皮膚がんの増大など深刻な問題が起こることを知ったときには確かに非常に怖い思いをした。しかし、そういう危機感を抱くことはあっても、幸いにも悲観主義(ペシミズム)に陥ることはなかった。そうではなく、みんなで頑張れば解決できるのではないかという、漠然とした楽観主義(オプティミズム)をむしろ抱いていたように思う。それが、科学技術の進歩が解決してくれるという期待だったのか、賢い大人たちが解決策を見つけてくれるという期待だったのかは、今ではあまり覚えていない。

現在の気候変動の問題に対しても、危機感をしっかりと抱くことが行動を起こしていくための出発点だと思う。しかし、悲観主義になりすぎても問題だ。そんな面倒な問題は考えたくもない、と目を背けてしまう人も出てくるだろうし、何をやっても意味がないから、まじめに取り組むのは馬鹿げている、といったシニカルな考え方が蔓延するようになれば、社会はますます暗くなってしまう。重要なのは「確かに大きな問題だけれど、様々な形で努力すればいずれ解決は可能だ」という期待を持ち続けることだと思う。

そして、そこで重要な役割を担っているのは政治だろう。つまり「いまから私たちが取り組んでいけば、問題は着実に解決に向かっていく」という期待を与えてくれる政治だ。10年先、20年先にその問題がどの程度まで解決される見通しがあるのか、そして、そのために政治サイドからどのような取組みを行っていこうとするのかを示して、負担が必要であればそれを国民に求めていく。悲観論や落胆・諦めが世の中を席巻してしまう前に・・・。

40年間の「どんちゃん騒ぎ」の後始末に10万年・・・?

2010-08-01 02:26:54 | スウェーデン・その他の環境政策
小学校の国語の教科書にこんな話があったのを記憶している。


人類がまだ誕生する以前の遠い昔、銀河系のある星から宇宙船がやってきて地球に降り立った。中から出てきたのは高度な知能を持った宇宙人だった。この地球上にも高度な文明を持った生物がいるのではないかと期待してやってきたが、調査した結果、ジャングルが生い茂り、大きな生き物と言えば恐竜くらいだということが分かった。しかし、数万、数十万年後、いや数百万年後にはもしかしたら高等生物が文明を持つかもしれない。そこで、彼らに宛てて、自分たちがやってきたことを示すメッセージを残すことにした。不治の病を治す薬の作り方や、宇宙船の組み立て方など、役に立つ知識も添えることにした。長い年月が経っても朽ちないように丈夫なカプセルに入れ、砂漠地帯に置いた。植物も河川もなく安定した場所だと考えたからだ。

そして、それから数え切れないほど長い時間が経ち、地球上には人類が登場し、次第に文明を発展させていった。しかし、宇宙人が残したそのメッセージが彼らの目に触れることはなかった。砂漠地帯にカプセルが埋もれていることなど知る由もなく、人類はその砂漠で核実験を行い、カプセルもろとも吹っ飛ばしてしまったからだった・・・。



たしか、作者は星新一ではなかったかと思う。話の詳細は違っているかもしれない。いずれにしろ、この話がなぜか今でも印象に残っている。そして、この話を再び思い出す機会が半年ほど前にあった。スウェーデン核燃料処理機構(SKB)への視察に、通訳として随行したときのことだった。

――――――――――

高い放射性を持つ使用済み核燃料再処理を選択した日本とは異なり、スウェーデンは地中深くに最終処分場を建設し、貯蔵する処理法を選んだ。そして、その処分場の設置場所が昨年、ストックホルムから北に70kmほど行ったところにあるオストハンマル(Östhammar)に決定した。この町には3機の原子炉をもつフォッシュマルク(Forsmark)原発が既にあり、地元の反発は小さかった。

計画では、その原発付近の海岸線の地下500mに処分場を作る予定だ。スウェーデン全土にいえることだが、このあたりは火山活動が終了してから長い年月が立っているため、地下の岩盤は非常に安定していると考えられる。日本とは全く条件が異なっている。

使用済み核燃料鋳鉄で覆い、銅製の分厚いカプセルに入れる。それを岩盤に掘った6000個の穴に一つ一つ、ベントニート粘土と呼ばれる特殊粘土と一緒に埋め込んでいく。カプセル一つで2トン、全部で12000トンの使用済み核燃料を埋設した後、作業のために掘った連絡道および入り口を埋めて完全に塞いでしまう。




さて、このような形で処分した核燃料は、だいたいどれくらいの年月の間、保管する必要があるのだろうか? 100年? 1000年?

いやいや、答えは10万年! いや、同様の形で処分を考えているアメリカでは100万年は必要だと考えられているようだ。つまり、それだけ長い年月が経たなければ、放射線の量がある一定レベルまで減少しないということらしい。スウェーデンの議論でも、廃棄物の放射能の量は、10万年経ってやっと、天然に存在するウラン鉱石と同じくらいのレベルに減少する、という話を耳にしたことがある。そう、100000年。

だから、処分の方法は少なくとも10万年は耐えうるものでなければならない。核燃料を覆うために使う銅製カプセルなどの素材選びもさることながら、岩盤が10万年の間にどのような影響を受ける可能性があるのかを考慮しなければならない。例えば、微少な地殻変動でも10万年もの時が積み重なれば大きなものとなる。また、氷河期が到来すれば氷の重みで強い圧力が加わるだろう。その他、様々な可能性が考えられる。

私が随行した視察ではそんな話題に加えて、別の話題も飛び出した。「ここに高放射性の使用済み核燃料を埋めましたよ」という情報をいかにして後世に伝えていくのか?、という、その方法までスウェーデンの関係機関は調査を始めようとしている、ということだった。

そんなこと、大きな看板を地上に立てて置けば済むんじゃない? とか、議会図書館や王立図書館、その他、様々なアーカイブに残しておけばいいでしょ? と思われるかもしれないが、それは私たち人類の社会が今後10万年もの間、存続していればの話。それ以上に可能性が高いのは、かつての恐竜と同じように何らかの理由で絶滅してしまうこと。そうすれば、情報も断絶してしまう。その後、何か別の生物が文明を持つかもしれないし、宇宙から高度な生き物がやってくるかもしれない。もしくは、絶滅を逃れたわずかな数の人類がいまとは別の文明を築くかもしれない。そのとき、何も知らない彼らが最終処分場を掘り起こして、高い放射性を持つ物質を拡散させてしまうことがあってはいけない。

では、どうやってメッセージを残す? いまの地球上に存在するありとあらゆる言語でメッセージを書き、看板を立てたり、CDに刻み込む? 地球上の別の生き物が文明を持ったり、宇宙人がくることも考えて、絵文字にしておく? どこまで本気か知らないが、そのような研究や議論を始めなければならない、という話を視察の際にスウェーデンの関係機関の担当者から耳にしたのが非常に印象的だった。

原発の是非は別にしても、考えてみれば1970年代から現在に至るわずか40年の間に、処理に10万年も100万年もかかる物質を使って、私たちはこの豊かな現代社会を動かしてきたわけだ。非常に滑稽なことではないだろうか。自分の一生をはるかに超え、責任というものを負うことのない、10万年という長い時間の先のことまで真面目に考えることが私たちに本当にできるのかどうか? 私は非常に懐疑的だ。

スウェーデン初の海中国立公園

2010-06-23 23:27:29 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンで第29番目となる国立公園が、2009年9月に制定された。この国で一番最初の国立公園が制定されてから100年目という、節目の年に設置されたこの国立公園は、それまでの国立公園とは少し違う。なぜかというと、その大部分が海中に位置しているからだ。

この「コステル海国立公園(Kosterhavets Nationalpark)」は、スウェーデン西海岸あるコステル諸島の周りのコステル海に位置し、ノルウェー国境と接している。下の地図に引かれた黒線がスウェーデンとノルウェーの国境だが、その線がそのまま海に伸びて、両国の領海を隔てている。その南北にそれぞれ赤線で囲まれた国立公園があるのが分かるだろう。このノルウェー側とスウェーデン側の海域が、今回それぞれ同時に国立公園に指定されたのだ。

スウェーデン側のコステル海国立公園フィヨルドの一つで、一番深いところは水深200メートルくらいだ。スウェーデン西海岸の他の海域に比べて水温が低く、塩分濃度が高い。そのため、海洋生物の多様性が大きいサンゴ礁や腕足動物をはじめ、6000種類の生物がこの海域で確認されている。そして、この生物多様性を今後も維持して後世の世代へと受け継いで行くために、スウェーデン議会は2008年に国立公園に指定することを決定したのである。


しかし、一つの問題が指摘されている。国立公園に指定はされたものの、底曳きトロール漁の禁止は行われないことである。底曳きトロール漁は、通常カレイやタラなどの底魚を漁獲するために用いられる漁法であり、この海域ではこの漁法によって特にエビ漁が営まれている。ただし、底曳きトロール漁は海底を引っ掻き回し、そこにある生態系を破壊してしまう

この海域には、かつては今以上に多くのサンゴ礁が存在していたが、1970年までに大部分が死滅してしまった。盛んに行われた底曳きトロール漁が原因だと、海洋生物学の専門家は見ている。今回の国立公園指定は、まさに僅かに残された生態系を守ることを目的としていたのだった。現在、サンゴ礁が存在するのはコステル海のごく限られた部分だが、そこでは確かに底曳きトロール漁が禁止されることにはなった。しかし、保護することが求められているのはサンゴ礁の他にも様々な底生動植物があるにもかかわらず、底曳きトロール漁が禁止されるのはコステル海国立公園のわずか2%にすぎない。一方、同時期に国立公園に指定されることになったノルウェー側の海域では、その10%で底曳きトロール漁が禁止されることになった。

このように、底曳きトロール漁が今後も海域の大部分で続けられることに対しては懸念が多いが、国立公園に囲まれたコステル諸島には約320人の住民が暮らし、主に漁業(エビ漁)や遊漁、観光業で生計を立てているため、国立公園指定に向けた協議の中で底曳きトロール漁の禁止を盛り込むことは難しかったようだ。(ちなみに、夏の間はリゾート客のために島に居住・滞在する人の数は8000人に膨れ上がる)

他方、漁師の側は環境への負荷を少しでも減らす工夫をしている。例えば、底曳きトロール漁によるエビ漁では、タラやカレイなどの混獲が懸念されたが、現在は網の入り口に格子をつけることで魚が網に入るのを防ぐことが義務付けられている。そのような工夫によって、漁師の中にはマリン・エコラベルなどの認証を取得しているものもいる。では、底曳きトロール漁以外にエビを獲る方法はないかというと、現在は籠による漁法の研究が続けられているがまだ実際にはほとんど用いられていない。



このような問題があるものの、残された貴重な生態系が国立公園の指定によって保護され、回復していくならば、今後はエコツーリズムが盛んになり、また、魚の産卵場所が拡大していけば漁業にも良い効果をもたらすことが期待される。一方、底曳きトロール漁をどの海域で許可するかについては、今後も議論が続けられていくだろう。

<出典>
2009年9月6日付 日刊紙Dagens Nyheterの科学面に掲載された記事を元に作成

コペンハーゲン会議の次に向けた2段階ロケット案

2009-11-16 15:22:30 | スウェーデン・その他の環境政策
12月のコペンハーゲン会議(COP15)では拘束力を持った数値目標を盛り込んだ国際的な合意に至るのは難しい、と前回書いたが、APECの会議でもそれがさらに決定的になった。アジア・太平洋諸国の首脳は「無理だ」という声明を会議の最後に発表した。

だから、コペンハーゲン会議も当初の期待とは裏腹に、より現実的な路線で行かなければ、何も成果が上がらない大失敗ということになりかねない。

そんな危機感をあらわにしたのはコペンハーゲン会議の開催国であるデンマークのラスムセン首相。彼は何とAPEC会議が開かれていたシンガポールに電撃でサプライズ訪問し、「2段階ロケット」の妥協案を持ちかけた。まず、コペンハーゲン会議では大枠の合意に至ることを目指し、その上で来年に別の国際会議を開催し、削減目標や細かい詳細に関して拘束力を伴う議定書の制定を目指すというものだ。(ただ、電撃訪問は彼自身で決めたものではなく、APEC会議が極秘裏に彼を招待していたようだ。彼はオバマ大統領や中国主席と個別の会談を持っているが、サプライズ訪問でそんなことができるわけではない。)

見方によれば、早急な対策が望まれる問題の先送り、と解釈することもできるが、一方で、当初の会議の目的が達成できない以上、2段階でいくという妥協案は仕方がない。国際的な協議が今後も続けられていく分だけよいと見るしかない。オバマ大統領もデンマーク案を支持し、「完璧を目指すあまり、何も達成できなかったでは元も子もない(Vi får inte låta det perfekta bli det godas fiende)」と発言していたという。


コペンハーゲン会議の次に願いを託して・・・

2009-11-10 08:01:35 | スウェーデン・その他の環境政策
気候変動(地球温暖化)抑止に向けて国際的な協議を行うための国連会議(COP15)12月半ば(8日~18日)にデンマークのコペンハーゲンで開催される。1997年に締結された京都議定書が規定してきたのは2008~2012年における達成目標であったため、それ以降の目標設定が必要となっている。だから、192カ国から15000人の代表団が集まる今回の国際会議はそのための会議なのだ。

しかし、拘束力を持つ削減目標を先進国や途上国に課す議定書を締結する、という当初の野望は残念ながら挫折することになりそうだ。

というのもコペンハーゲン会議に先駆けた様々な準備段階において、各国間の合意形成が当初に期待されていたほどスムーズに進まなかったからだ。例えば、ニューヨークでの国連会議(9月下旬)では、温暖化をめぐる国際協議の場で初めて面と向かって協議したアメリカ中国の動きが注目されたが、オバマ大統領も胡主席もCO2削減の意欲は口にしたものの、具体的な目標の提示は全くなされず、EUをがっかりさせた。EUは2020年までに1990年比で20%の削減を提示しており、さらにコペンハーゲンで具体的な国際合意が結ばれれば、目標を30%に引き上げる決定を行ったが、他の主要国から積極的な具体策を聞くことができなかったからだ(ちなみに、この国連会議では、EUを代表するスウェーデンのラインフェルト首相が、鳩山政権率いる日本が掲げている25%削減という目標を高く評価していた)。

次は、9月末にアメリカのピッツバーグで開催されたG20首脳会議。これは、先進国からなるG8に加えて中国・ブラジル・インドなど新興産業国を加えた首脳会議だが、ここでは途上国が温暖化ガスの排出削減を行うために必要な資金を先進国がいかに捻出していくかが協議されるはずだった。しかし、議論の焦点は主に金融危機に対する取り組みに集まり、温暖化問題については深い議論がなされず、よって具体的な合意にも至らなかった。

その次の挫折は10月下旬に開催されたEUの首脳会議だった。ここでは、温暖化対策のための途上国に対する技術・資金提供を巡って、EU各国がどれだけに資金を拠出していくかが議論の一つだった。しかし、この時はEUの基本条約となるリスボン条約の批准を巡る協議にてこずり、温暖化対策のためにEU全体としてどれだけの額を途上国に拠出するかについては具体的な額が明示されずに終わった。EU議長国であるスウェーデンは毎年1000億ユーロに及ぶ資金をEUが途上国における温暖化対策のために拠出することを提案していたが、金融危機の影響が大きい東欧諸国が自国からの資金の拠出に強く反発した。それだけでなく、ドイツとフランスが「EU以外の国々がどれだけの削減目標を提示するのか拝見してから」と言い出したのだ。一方で、イギリスはスウェーデン案を支持してくれた。


そして先週、EUアメリカと首脳会談を持った。正確に言えば、EU議長国であるスウェーデンのラインフェルト首相オバマ大統領の会談だった。アメリカは前政権とは大きく異なり、温暖化対策へための積極的な政策を打ち出そうとはしているものの、国内では医療保険改革を巡って激しい議論が戦わされ、残念ながら温暖化対策に関して国内の意見をまとめる時間的な余裕がないのが現状だ。ラインフェルト首相とオバマ大統領は二日にわたる協議を続けたものの、ここでも具体的な約束をアメリカから引き出すことができなかった。合意に至ったこと言えば、EUとアメリカの間で環境・エネルギー技術の協力を行うための委員会を設けることくらいだった。

コペンハーゲン会議まで残すところあと1ヶ月だが、残念ながら今年の会議(COP15)では拘束力を持った具体的な削減目標を設定するのは無理となりそうだ。ラインフェルト首相もオバマ大統領との会談のあとで「そう認めざるを得ない」と発言している。

国際合意に至るための障害は一見複雑だが、実は単純なCatch-22的状況だ。アメリカをはじめとする先進国は、途上国が削減義務を負わなければ自分たちは積極的な協力はしない、と言っている。一方、途上国は途上国で、先進国がより大きな削減義務を負わなければ、自分たちは国際的な取り決めに参加するつもりはない、と言っている。さらに、彼らは削減ための経済的な負担は先進国が負うべきだとして、資金の提供を先進国に求めている。しかし、先進国側は金融危機で大きな痛手を食らい、途上国に対する資金供与に世論の支持を取り付けるのが難しい状況となっている。

先週末は、スペインのバルセロナで、コペンハーゲン会議に向けた最後の事前協議が行われたが、ここでは熱帯雨林の伐採抑止をめぐってわずからながらの進展が見られた。一方、それと時を同じくしてスコットランドでは、G20の蔵相会議が開かれ、途上国への資金提供を巡って、何らかの合意を達成しようという再度の試みが行われたものの先進国と途上国が対立し、大きな進展はなかった。スウェーデンのボリ蔵相「先進国側は新たな援助額を提示し、その代わりに途上国には拘束力を持つ削減義務を受け入れるように迫ったがうまく行かなかった」と落胆をあらわにしている。

残念ながら、今回のコペンハーゲン会議はタイミングが悪かった。昨秋の金融危機がなければ、国際的な合意形成も少しは円滑に進んだであろう。今回のコペンハーゲン会議は、京都議定書に相当する重要な議定書を締結する場ではなく、むしろ来年、もしくは再来年の議定書作りに向けた準備会合の一つとなりそうだ。

それまでにできることと言えば、経済力と意欲と問題意識のある国や地域が独自の取り組みを進めていくこと。そして、いざ他の国々が本格的な危機意識を持って対策に乗り出すときに、手本となり賞賛されるように努力することだと思う。


「スウェーデンが原発新設」報道の真相

2009-05-23 02:40:54 | スウェーデン・その他の環境政策
私は、原発問題を自分にとっての大きな政治的課題として掲げて、触れ回って歩くつもりはありません。原発に既に大きく依存している場合、既存の原子炉を直ちに閉鎖することは不可能です。唯一可能であるとすれば、エネルギー供給と利用のあり方を社会全体で考え、目標を定め、その実現に向けた行動計画を策定して、時間をかけて取り組んでいくことです。

しかし、今年2月の日本の新聞報道があまりにお粗末であり、「スウェーデンでも原発回帰」「温暖化問題の解決のために原発の利用を拡大する方針に転換」との趣旨の事実に即さない報道が、日本で一人歩きしている現状には首を傾げます。

今回、知人の市議会議員の方のつてで、たまたま寄稿の依頼を受けましたので、スウェーデンの連立与党が今年の2月に合意に至った実際の内容について、スウェーデンでの報道と政府の発表した合意文書に基づきながら、客観的にまとめてみました。


「はんげんぱつ新聞」2009年04月号より


<以前の書き込み>
2009-02-05: 原発論議の再燃(1) ― 老朽化した原発を更新すべきか?
2009-02-06: 原発論議の再燃(2) ― 中央党の妥協
2009-02-09: 原発論議の再燃(3) ― 誇張されすぎ

進化するKrav(クラーヴ)認証

2009-03-25 17:24:19 | スウェーデン・その他の環境政策
大変忙しくしており、更新が遅くなっております。
――――――

先日、スウェーデンの環境認証を紹介した。これまで環境問題といえば、農薬化学肥料の使用、有害物質の排出、エネルギーなどだったため、これらの側面に注目した認証がほとんどだった。

しかし現在は、温暖化問題という更なる難題が登場し、生産過程や消費者の元に届くまでの輸送過程におけるCO2排出を考慮した新たな認証を作るべきではないか、という議論がスウェーデンの消費者団体の間で続けられてきた。そして、有機・無農薬栽培のKrav認証を管理しているNPO「クラーヴ」が、新たな認証策定に向けた準備を始めていた。

しかし、小売・流通業界はこれに反発。新たな認証の登場は、消費者を混乱させるだけだ!と。おそらく、彼らの本音としては、新たな認証ができれば、消費者の要求に応じて、そのための特別コーナーを設けなければならず、費用がかかる、ということもあるのだろう。

NPO「クラーヴ」自身も内部での議論の結果、認証の乱立はよくない、という結論に至ったようだ。そして、新たな認証を作るのではなく、既にあるKrav(クラーヴ)という認証に温暖化ガス排出基準を包括させよう、ということになった。

「Krav(クラーヴ)認証も時代の変化と要請にあわせて、基準を常に強化してきた。だから、その延長として、温暖化基準をさらに埋め込むことには何の問題もない。」と関係者は語る。基準が強化されるたびに、生産者はその基準に合わせて生産プロセスを変化させるか、それは無理、ということでKrav(クラーヴ)の認証から抜けるのかを選んできたという。

2009年から既に温室栽培の農産物水産製品で、CO2排出を考慮に入れたKrav(クラーヴ)が始まる。

一方で、農産物や輸入品に対するKravマークにCO2排出の基準を取り込むのは一苦労かかるという。まず農産物については、スウェーデンの場合、国土の農地の一部が泥炭層の上にあるため、そのような農地を使用して農作物を作ると、CO2の排出量が必然的に多くなるという。では、そのような農地での作物はKrav認証の対象外とすべきか?また、輸入品はスウェーデンまでの輸送手段を考慮しなくてはならない。輸送距離がいくら長くても、船舶輸送を使えば、航空輸送よりもCO2排出は小さくなる。では、航空輸送を利用した輸入品はすべて、Kravマークの対象外にすべきか?

このような点については、作業グループが現在検討中で、納得のいく基準を策定するように努力しているという。

様々なエコロジー認証マーク

2009-03-18 00:48:06 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンで生活をしていると、日々の買い物の至るところで環境に関するマーキングを見つける。


クラーヴ
スウェーデンでは最もメジャーなエコロジー認証。農薬や化学肥料を使わず、遺伝子組み換えも行っていない有機栽培の食品や繊維製品に付けられている。NPO「クラーヴ」が認証を行っている。Kravとはスウェーデン語で「要求する」という意味。つまり、生産者に厳しい基準をクリアするように要求している、ということだ。


スヴァーネン(白鳥)
原材料の調達から生産、そして廃棄に至るまでの商品のライフサイクル全体を考慮して付けられるエコロジー認証。質や性能も考慮されている。対象は、洗剤から家具やホテル運営に至るまで68の商品グループ。北欧5カ国の政府間協力機構である北欧閣僚委員会(Nordiska ministerrådet)のイニシアティブで始まり、スウェーデンでは政府から委託を受けた認証機関が審査を行う。


ブロー・ミリヨーヴァール(環境によい賢い選択)
原材料の採取から製品の完成までのプロセスを考慮して付けられるエコロジー認証。対象は、紙や洗剤など、生活雑貨が多い。スウェーデン最大の環境団体である自然保護協会(Naturskyddsföreningen)が認証を行っている。右上の写真にあるように、電車にも付けられている。


フェアトレード(スウェーデン語では、レットヴィーセマルクト
国際的なNGOフェアトレードによる認証。彼らと直接貿易を行うことで中間での搾取をなくし、適切な賃金を彼らに払っている、という認証。一次産品などが多い。環境的な持続可能性ではなく、社会的な持続可能性を考慮したエコロジー認証だといえるだろう。


最近はこれらの商品に対する需要が高いために、スーパーなら大概どこでもこれらのマークが付いた商品を買うことができる。一般の消費者に対するアクセス性が高まるにつれ、需要が高まり、その結果、スーパーがさらに品揃えを充実させようという好循環が働いているのだと感じる。

また、公的機関や自治体の中には、グリーン購入ポリシーを掲げているところも多く、そこでの需要も高まっている。ヨーテボリ大学の経済学部が職員のために購入しているコーヒー豆やティーバッグ、砂糖なども最近は「クラーヴ・マーク」と「フェアトレード」の両方が付いている。


このほかにも「エングラマルク」などいくつかある。あと一つ、あえて挙げるとすればこんなのもある。


TCO(テーセーオー)・マーキング
これは、パソコンのキーボードやディスプレイ、ヘッドセットをはじめとするオフィス機器や椅子・机などオフィス家具に付けられた認証。人間工学を考慮した利便性や、電磁場の抑制、省エネ性、生産者が環境認証を取得しているか、生産過程で有害物質の放出が抑制されているか、などが考慮されている。

面白いのは、ホワイトカラーの労働組合TCOが設立した認証制度だという点だ。TCOの組合員はオフィスワーカーが多い。だから、彼らにとって利便性がよく、体への負担(肩こり、電磁気の影響etc)が少ない製品の購入を促進しようという、労働組合ならではの発想だ。また、職場からエコロジーを実現しようという取り組みと考えることもできる。

ヨーロッパ環境先進都市賞の受賞 - 長年にわたる努力の成果

2009-02-24 07:58:13 | スウェーデン・その他の環境政策
EUの行政をつかさどる欧州委員会「ヨーロッパ環境先進都市賞」という環境賞を新たに設けた。環境問題に対して積極的な取り組みをしてきたヨーロッパの都市を表彰しようというわけだ。

ノミネートされたのは35ほどの都市。そのうち、最終選考まで残ったのはアムステルダム、ブリストル、コペンハーゲン、フライブルグ、ハンブルグ、ミュンスター、オスロ、ストックホルムだった。

そして、この中から優勝を勝ち取ったのは2都市。ストックホルム2010年の「ヨーロッパ環境先進都市」に指定され、ハンブルグ(独)が2011年の同都市に指定されることになった。


欧州委員会は、ストックホルムが選ばれた理由を以下のように説明している。

- ストックホルムが受賞した理由は、住民一人あたりのCO2排出量を1990年比で25%削減したこと、そして2050年までに化石燃料に対する依存をなくす、という意欲的な目標を、市が自ら策定したことだ。また、ストックホルム市は、環境的視点が予算策定や運営計画、事後報告、監督行政といった市のすべての行政活動の中で考慮されることを保証する統合的行政制度を築き上げてきた。緑地が市のあちこちに整備されているおかげで、市民の約95%が緑地から300メートル以内に居住している。自然が身近にあるおかげで、市民の生活の質の向上や、リクリエーション、水の浄化、騒音防止、生態系の多様性の向上、エコロジーに大きく貢献している。これらの分野において、ストックホルム市はさらなる改善を行う総合計画を策定しており、欧州委員会はこれを高く評価している。たとえば、新たな海浜地区・海水浴場の整備などがあげられる。また、ストックホルムに導入された通行料(乗り入れ課徴金)制度や、リサイクル率の高さも評価される。-


ストックホルムといえば、環境問題の重要性を早い段階で認識したスウェーデン政府が、この種の問題を扱う政府間会合としては世界初の国連人間環境会議を1972年に開催した場所だ。その頃から市として地道に取り組んできた成果が、表彰されたのだ。環境政策の策定と実行は一夜にしてできるわけではない。

ブリュッセルにて、この賞を受け取ったストックホルム市議会の環境・交通委員会委員長は「環境への取り組みは与野党に関わらず、市政に携わってきたすべての政党が過去30年にわたって取り組んできたこと。」と述べている。

私が特に重要だと思うのは、市として大きな目標を掲げた上で、こまめな中間目標を定め、その一つ一つを与えられた時間内に達成するために何をすべきなのか、市議会が政治的リーダーシップを発揮しながら、行政エキスパートである市の職員たちと、手を携えながら常に努力を重ねてきたことだと思う。

もう努力を十分してきたから、自分たちにできることは何も無い、とか、自分たちは乾いた雑巾(ぞうきん)だから、これ以上絞ろうと思っても水は出てこない、などと想像力と創造力と意欲をストップさせてしまっては、他国の手本となるような改革は成し遂げられなかっただろう。

「審査員は、私たちストックホルム市の取り組みが、他の都市よりも優っていると評価してくれたのだろう。しかし、この賞を受賞したからといって、それで終わりというわけではない。世の中は動き続けている。だから、私たちもさらなる取り組みを続けていく必要がある。自己満足に浸っている時間などないのだよ。」と市の担当者はコメントしている。

Grattis Stockholm och grattis Sverige!!

原発論議の再燃(3)-誇張されすぎ!?

2009-02-09 08:22:23 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンが既存の原発の更新を認める方針を打ち出したことについてだが、国際的に注目されているものの、国外での報道に少し誇張があるような気がする。


私が2002年に見学したForsmark(フォッシュマルク)原発1・2・3号基

スウェーデン国内で見れば、反原発を掲げていた中央党が妥協をした、というのは、確かに大きなニュースだ。しかし、外国にとってのインパクトがどこまで大きいのかを考えてみると、国外の新聞が劇的な書き方をしているほど大きなニュースではない と私は思う。

日本の各紙を見てみると、

読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20090206-OYT1T00924.htm
毎日新聞 http://mainichi.jp/select/world/news/20090207ddm007030134000c.html
朝日新聞 http://www.asahi.com/international/update/0205/TKY200902050378.html
産経新聞 http://sankei.jp.msn.com/world/europe/090205/erp0902052340009-n1.htm
日本経済新聞 http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=AS2M0502Y%2005022009

「脱原発政策を転換」(日経)
「脱原発方針を転換し、原発の新設を認める」(読売)
「原子力発電所の全廃政策を転換する方針を打ち出した」(産経)
「原発廃棄政策撤回」(毎日)
「脱原発方針を転換すると発表した」(朝日)

このように各紙とも伝えているけれど、スウェーデンの連立与党4党が合意に至ったのは、あくまで既存の原子炉の更新に過ぎない。日本のそれぞれの記事を読むとあたかも「スウェーデンが原発の増設に踏み切った」かのような印象を受けかねないが、そうではない。

また、原発への依存度を今よりさらに高めるわけでもない。もちろん、いくら更新とはいえ新しい原子炉は発電量も大きくなるわけだが、政府の方針としては、代替エネルギー・再生可能エネルギーへ転換する努力を今後も行っていきながら、それでも既存の原子炉の寿命が来るまでに間に合わなければ、新しい炉と取り替える必要があるということ。そして、そのための準備に過ぎない。これまでは更新であっても原子炉の新設はできないという法規制があったが、それを今回、撤廃することに決めただけなのだ。

この点について、あくまで立て替えであり、更新なのだ、と明記していたのは、毎日新聞と朝日新聞にとどまる。

脱原発方針を転換 原発更新へ新法案」(朝日)
現在10基ある原子炉が寿命を迎えるにしたがって、新しいものに換えていくことが可能になる」(朝日)
稼働中の原子炉10基を建て替える」(毎日)

原発への依存度を今よりさらに高めるわけではない、という点は、私は重要だと思う。今回、中央党が今回の妥協を受け入れるにあたって、代替エネルギー(再生可能なエネルギー)の開発・普及促進、そして省エネへの重点投資、さらに、環境税のさらなる活用によるエネルギー需要の抑制、を合意に含ませていたことからも分かるように、原発への依存を温暖化問題の解決策としているのではないからだ

この点については、記事の中で全く触れられていなかった。今回の合意に、原発建設だけが含まれていたわけではないことを触れていた読売新聞と朝日新聞がちょっとだけ、かする程度。

「20年までに温室効果ガスの排出量を90年比で40%削減する目標も打ち出した」(読売)
「法案には、20年までに温室効果ガスの排出量を40%程度削減するという目標なども盛り込まれる」(朝日)

また、今回の路線変更が果たしてそこまで劇的な転換か?という点についても、かなり誇張があると思う。

「2010年までに原発を廃止するはずだった」(日経)
「2010年までに段階的に全廃することを決めた」(読売)
「10年までに原発を全廃するという決議をしていた」(朝日)

と伝えているが、この目標はあくまで1980年の国民投票当時のもの。その後、なかなか代替エネルギーの確保ができず、撤廃に時間がかかり、これまでに原子炉2基しか閉鎖されなかったのは、各紙が伝える通りだが、一方で、どの新聞にも書かれていない事実がある。

それは、2002年に当時の社会民主党政権と左党(閣外協力)、それに中央党(当時は野党)の合意の下で「2010年全廃目標」を既に撤廃していたことだ。

そして、それから今に至るまで、暗黙のうちに各党間に形成されつつあった最大公約数的コンセンサスは「既存の10基は少なくとも寿命が来るまでは使う」という点だった。

だから、今回の与党合意によって、これまでの原発廃絶路線が180度も転換してしまった、という印象を与えるような記事の書き方は誤りだと思う。

ちなみに、産経新聞だけが、

「20年をメドに閉鎖する方針だった」(産経)

と書いている。現在稼動中の原子炉は少なくとも2030年頃まで使えるので、この20年という数字も的を射たものではないと思うが、他の新聞よりはまだましかもしれない。

ここまで読んで「えっ?」と思われた方もあるかもしれない。そう、現在稼動中の原子炉は少なくとも2030年頃まで使えるのだ! だから、10基の更新とは言っても、数年内に直ちに新しい原子炉の建設を始める、というわけでも決してないのだ。だから、実際の着工はまだまだ先の話

この点でも、今回の報道のされ方は、ニュースの表面的な部分だけが、日本に伝えられてしまった感じがする。

おそらく、日本をはじめ世界中の原発推進派は、今回のニュースに喜んだだろうが、原発賛成にしろ、反対にしろ、事実はなるべく正確な形で伝えなければいけないと思う。


原発を巡る各党の駆け引きを報じるスウェーデンの新聞

原発論議の再燃(2)-中央党の妥協

2009-02-06 10:53:35 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデン議会の建物で開かれた中央党議員の緊急会合は、水曜日の夜だけでは終わらず、木曜日の早朝にも再び開催されることになった。そして、10時半。中央党を含む与党4党の党首が記者会見を行った。

「与党4党は環境・温暖化・エネルギー問題に関して、歴史的な合意に至った」と、ラインフェルト首相は始める。中央党が既存の原発の更新に同意したというのだ。具体的に言えば、スウェーデンではこれまで原発の新たな建設(更新も含む)を禁止する法令が存在したが、この法令を撤廃することに同意したのだ。


左から2番目の女性が中央党党首

中央党党首モウド・オーロフソンは、こう述べる。
「わが党は原発に対するこれまでの見方を変えたわけではない。原発の増設に合意したわけでもない。しかし、原発が今後も長期にわたって、スウェーデンの電力供給に重要な役割を果していくという考え方は受け入れる。」

前回も書いたように、中央党1980年の国民投票では、反原発キャンペーンを展開(当時はまだ環境党は存在しなかった)。自分の党だけでなく、他の党の支持者からも反原発の支持を受け原発の廃絶という選択肢を国民投票で勝ち取ることになった。しかし、当初立てられた2010年までに全廃という目標は、2002年に当時の社会民主党政権と左党、それにこの中央党の合意の下で撤廃。それ以降は「現在、稼動中の原子炉は、安全水準を満たし、採算が取れる間は使い続け、その後、廃棄していく」という立場を、党の方針としていたのだった。

だから、この党は今回、さらに譲歩したことになる。

1980年の国民投票の際のキャンペーン・バッジ(選択肢は3つ)

今回の合意の結果、現在使われている10基の原子炉の寿命が来れば、現在と同じ場所に、最大10基までの原子炉を建設することが認められる。

しかし、中央党もある意味、頑張った。与党の他の3党の要求を呑む代わりに、逆に新たな要求を彼らに呑ませ、妥協点を見出したのだった。

再生可能なエネルギー源を利用した発電(風力・太陽光・波力・バイオマス)の拡張・普及を促進する。特に、スウェーデン政府としての風力発電の拡張目標を大きく引き上げる。
エネルギー使用の効率化を推し進め、エネルギー需要を全体として削減していくために、政府が大きな投資を行う。(エネルギー総使用量を2020年までに20%減)
・2020年までに全使用エネルギーに占める、再生可能なエネルギーの割合を50%に引き上げる。(現在は確か43%くらい。EUがスウェーデンに課した達成目標は2020年までに49%だったから1%引き上げられたことになる。)
運輸部門の使用エネルギーに占める再生可能エネルギーも、2020年までに10%にする。
・道路運輸・交通では2030年をめどに、´化石燃料の全廃を目指す。そのために、二酸化炭素税(環境税の一つ)をさらに引き上げる

しかも、
原発の新設には、たとえ更新であっても、政府は一切お金を出さない費用は電力業界がすべて自分たちで賄うべき、とする。
・一方、再生可能エネルギーには、現在の課徴金制度を通じて、今後とも支援を行っていく。(ここでいう課徴金制度とは、一般の消費者が使用する電力にエネルギー税・環境税とは別に課徴金を課し、その課徴金を再生エネルギー源の拡張に充てる、という一種の使途目的税。ちなみに、これに対し、エネルギー税・環境税は使途を特定しない一般財源。)

という点でも合意したようだ。

だから場合によっては、電力会社にとって原発新設のほうが高くつくこともありうるわけで、そうなってくると、原発更新とは別の道を電力会社が自ら選ぶ、という可能性もあるということだ。

野党である社会民主党・環境党・左党は、共同で記者会見を行い「中央党の裏切り」と非難した。その上で、次の総選挙(2010年9月)で政権を獲得すれば、原子炉をさらに1基閉鎖できるかどうか検討したい、という。

「これまで通り、エネルギー源とエネルギー使用の転換を全力で行っていけば、雇用と豊かさを犠牲にすることなく、原子力依存を減らしていくことは十分可能だと思う。」と、社会民主党党首モナ・サリーンは述べる。


真ん中の女性が社会民主党党首

スウェーデンで最大の環境保護団体であるスウェーデン環境保護協会(Svenska naturskyddsföreningen:会員数約18万人)は、「スウェーデン社会が現在掲げている環境目標・温暖化対策目標をクリアするために必要なのは、原発依存の維持などではなく、これまで以上に省エネ努力と再生可能エネルギーの発展と普及に支援を行っていくことだ。」

今回の合意に「省エネと、再生可能エネルギーへのさらなる公的支援」が含まれていることに対しては、「もし、今の政府に本当にその気があるのなら、原発依存の維持は必要ないはずだ。2009年後半にスウェーデンはEU議長国を担当するが、それに先駆けてスウェーデン政府がこのような合意をしたということは、世界に向けておかしな信号を発したことになる。」とコメントを発表している。

影に隠れてしまった環境政策

2008-10-17 09:14:25 | スウェーデン・その他の環境政策
世界的な金融危機の影響がこんな所にも出てきた。

今年春に、EU温暖化対策として2020年までに達成すべき目標と行動計画を打ち出していた。EU全体として2020年までに温暖化ガスの排出量を1990年比で20%削減すると同時に、使用エネルギー全体に対する再生可能なエネルギー(水力・太陽・風力・バイオ)の割合を20%にまで引き上げる、といった目標が盛り込まれていた。そして、今年12月のEU首脳会議で正式に採択されることになっていた。

<以前の書き込み>
20、20、20・・・ 。EUの新しい温暖化対策(2008-01-26)


しかし、金融危機のために、これを見直すべきではないか?という声がEUの一部の加盟国から上がっているのだ。金融危機に対しては協調した緊急対策を打ち出すことができたEU諸国だったのに、温暖化対策の話になると、途端に足並みが崩れ始めている。

見直すべきだという主張をしているのは、イタリアや、ポーランド、そしてその他の東欧諸国など7カ国。EUの目標を達成するために自国に課せられた義務を達成しようとすれば、様々な形でコストがかかるため、産業の競争力に悪影響を与える。金融危機のおかげで景気が落ち込んでいる今は、景気対策を優先させたい、というのである。また、東欧は石炭による火力発電の割合が西欧よりも高い。だから、その転換にお金をつぎ込むよりも、景気対策に・・・、という思いも強いようだ。

ただ、これは見方を変えれば、金融危機を利用して、自国に課せられた義務をここぞとばかりに緩和させようとする動き、と見ることもできそうだ。今年の春に、上に挙げた20、20、20の新しい政策目標がEU全体として決定された際にも、削減負担を加盟国間でどう配分するか、かなりもめた。だから、一部の不満がいま隙を突いて、動き始めたのかもしれない。上に挙げた7カ国は、EU内で非公式なグループを形成し、温暖化対策目標の緩和に向けて既に動き出したという。


あのー、この意味不明のポーズは何を意味しているの?

写真の出典:Dagens Nyheter

スウェーデンの立場はもちろん、これまでの予定通り12月に正式決定を行う、というもの。ラインフェルト首相は「政治的な大決定をせっかく成し遂げたのに、今また手を加えようとすれば、他の国も一斉に自分たちの都合のよい方向に動き出すだろうから、『パンドラの箱』を開けることになりかねない。」と、他国の動きに釘を刺している。

スウェーデンのある新聞のEU政治の解説者も「イタリア首相のベルルスコーニは、首相を務めてきたこの5年間に、自国産業の競争力強化に繋がるような政策をほとんど行ってこなかったのに、ここぞとばかりEUの温暖化対策目標を槍玉に挙げて、このおかげでイタリアの産業や経済が苦しむことになる、などと不満ばかり言っているのは可笑しい」と皮肉っている。

(イタリアは、ますますEUの中で「困った人」になりつつある気がする・・・)

ともあれ、金融危機のおかげで、これからしばらくは温暖化対策や環境政策が少なからず影に隠れてしまうことは間違いないだろう。2009年の下半期スウェーデンがEUの議長国となり、2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催される気候変動国際会議(COP15)での国際合意の形成に向けて、積極的に動いて行くことが期待されているが、その道もさらに険しいものになりそうだ。