スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

20、20、20・・・ 。EUの新しい温暖化対策

2008-01-26 22:26:21 | スウェーデン・その他の環境政策
EU委員会は新しい温暖化対策を発表した。今後、細かい部分における協議が続けられ、最終的にEUの決定となるのは2009年春になるらしいが、大枠に変更はないと見られている。

この政策目標は、EU全体として2020年までに温暖化ガスの排出量を1990年比で20%削減すると同時に、使用エネルギー全体に対する再生可能なエネルギー(水力・太陽・風力・バイオ)の割合を20%にまで引き上げる、というもの。(運輸部門は燃料の少なくとも10%をバイオ燃料にするという目標も含まれている)

2009年の気候変動国際会議(COP15?)で排出抑制のために世界的な合意が結ばれれば、EUはこの目標を30%減にまで引き上げる用意があるという。


EU委員会の議長José Manuel Barrosoは「ここまで意欲的(アンビシャス)な温暖化対策を掲げることができる国は他にない」と誇らしげに語る。
写真の出典:SVT

そして、EU全体としての目標のもと、各国が達成していくべき排出削減目標と再生可能エネルギーの目標割合が、それぞれの加盟国に対して課せられている。

写真の出典:SVT

スウェーデンに課せられた目標は、EU加盟各国の中でもかなり厳しいものになった。温暖化ガス排出量を17%減すとともに、再生可能なエネルギーの割合を49%にまで引き上げるというものだ。(後者の目標には、電力源だけでなく、運輸・交通の燃料や暖房の熱源も含む)

再生可能なエネルギーの割合の目標が49%と聞くと、何とも高い目標だ!と驚くかもしれないが、スウェーデンは既に40%程を達成しているのだ。この割合は既にEUで一番だ。電力源の43.7%が水力発電であるというのが理由の一つだ(ただ、これは地理的にスウェーデンが恵まれているだけであって、積極的な努力とはあまり関係がないかも)。もう一つの理由は、地域暖房の熱源に木材の廃材などのバイオマスが活用されているためである。

再生可能なエネルギー49%、という目標を達成するためには、スウェーデンも社会全体でさらなる努力をしなければならない。まず、電力源に関してだが、現在のところ電力源の43.7%は水力発電、46.4%は原子力発電、そして9.1%を火力発電に頼っており、風力やバイオマスなどは1%にも満たない。新規のダム建設はほとんど無理だと考えられている。だから、風力、太陽光、バイオマスなどの活用を伸ばすことが鍵となる。また、運輸・交通の燃料にしても、バイオ燃料などのさらなる普及が求められている。(ただ、バイオ燃料に関しては問題も多い)


2006年の発電総量:140.1TWh

また、温暖化ガス排出量を17%削減するという目標についてだが、スウェーデンは2006年までに8.75%の削減を達成している。ということは、これから2020年までにこれまでの削減量とほぼ同じ量を減らす必要がある。そのためには、運輸・交通部門における削減が不可欠とみられるため、今後、燃料にかかる二酸化炭素税のさらなる引き上げが検討されている。

このように高い目標が課せられたスウェーデンだが、首相や環境大臣は「達成可能で、現実的な目標だ」とのコメントを発表した。実は、昨年末の時点では「再生可能エネルギー55%」というさらに厳しい目標が課せられる懸念があったので、むしろホッとしているようだ。

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10 コメント

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Unknown (Ma)
2008-01-28 08:39:45
いつも、為になる記事を、ありがとうございます!

再生可能エネルギーの割合が最高値の国がEUではスウェーデンと聞いて、あれぇ、アイスランドは?と思いましたが、アイスランドはEUに加盟していなかったことに気づきました。そうですか。スウェーデンがEUでは一番ですか。ヨーロッパ全体で言えば、そしておそらく世界全体で言えば、アイスランドなのでしょうけれど。化石燃料をほとんど使っていない先進国は世界中で多分アイスランドだけですよね。なんだか、確認したくなって、出てきました。
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Unknown (ayako)
2008-01-29 01:55:15
スウェーデンて、水力発電が4割以上を占めていたんですね。大きいのは何となく知っていましたが、想像以上の数値でした。こうした地形的なアドバンテージなどもあるのでしょうが、それを差し引いてもスウェーデンの温暖化対策への努力、見習うべきところは多いと思います。

よく思うんですけど、日本人て個人レベルでは「エコ」に関心高い人って結構多いんですよね(一部ファッションと化してるきらいもありますが)。なのに、企業~行政など規模が大きくなると、せっかくの意識が反映されてず、最近では製紙会社が古紙配合率を偽っていた(古紙を実際より多く配合しているような表示をしていた。再生紙の方が高くつくので)、なんて事件もありました。消費者の環境意識を逆手に取ったひどい話ですよね。もちろんこれは極端な例で(そうであって欲しい)、少しずつ変わってはきてるのでしょうけど。

スウェーデン人がeco-concsiousじゃない、というわけではないですが、何となく両国で正反対の構造だなぁという印象があるのですが、そちらに生活していていかがですか?
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Unknown (Yoshi)
2008-01-30 08:18:46
Maさん

そうです、アイスランドはEUには入っていないのですね。アイスランドの再生可能エネルギーの話はあまり知りませんでしたが、そんなに高いのですね。

国の規模が規模ですが、それは地熱などの利用が進んでいるからなのでしょうか?
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Unknown (Yoshi)
2008-01-30 08:31:00
ayakoさん

>スウェーデン人がeco-concsious
>じゃない、というわけではないで
>すが、何となく両国で正反対の
>構造だなぁという印象があるの
>ですが、そちらに生活していて
>いかがですか?

面白い指摘です。

日本でよく、「環境大国にすむスウェーデン人はみんな環境に対して大きな意識を持って、省エネやリサイクルに積極的に取り組んでいるんですよね」という質問を受けるのですが、実際には果たしてそうなのか? 実はいつも首をかしげてしまうのです。

これはあくまでも私の意見であり、別の人は違った見解を持っているかも知れませんが、ayakoさんの指摘するように、個人のレベルでの意識を比較したら、日本でも意識の程度はかなり高いと思いますよ。逆の言い方をすれば、スウェーデンでも一部の熱心な人を除けば、普段そんなことに構っていられないし、関心もない、という人はたくさんいると思います。私のアパートのお隣さんの単身中年男性(10代の息子と同居)は、ゴミを分別せずに何でもかんでも家庭焼却ゴミの捨て場に放り込んでいます。

日本にいるときに、日本の環境団体が環境政策に先進的なスウェーデンある町の市長や市の役員などを京都に招いてシンポジウムを行ったことがあったのですが、市長の講演の第一声目が「せっかくの休日なのに、一般市民の参加者が非常に多くてビックリした。スウェーデンでこのようなシンポジウムを休日に開いても、あまり来ないと思うよ」でした。人口規模の違いをある程度差し引かないと行けないとは思うのですが、市民レベルでの意識の違いを少しは象徴する出来事かな、と思いました。

(続きは、次へ)
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Unknown (Yoshi)
2008-01-30 08:38:23
ただ、だからといって、スウェーデンが「環境大国」と呼ばれるに値しない、ということではないのです。

スウェーデンが面白いのは、政策サイドからの取り組みが積極的であり、リサイクルのための制度や、経済的なインセンティブ(動機)付けのシステムを作り上げて、それによって各市民に行動の転換の奨励しているところだと思うのです。

また、それが単に、上からのトップダウンで決められるのではなく、いろいろな利害関係者や専門家の意見や、メディアを通じた意見形成、ディスカッションを通して、なるべく皆が納得する形で政治的意志決定を行っている点だと思うのです。
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Unknown (Ma)
2008-01-30 12:11:34
以下など、英語で申し訳ありませんがわかりやすいですね。地熱のほか、あそこは非常に急流が多いので水力発電が多いです。

http://www.cnn.com/2007/TECH/science/09/18/driving.iceland/index.html

確かに人口30万ちょっとしかありませんが、これに習って地熱を日本でも利用できるところは、多そうだなあと思うのですが。。。
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Unknown (ryo)
2008-01-30 13:51:13
日本ですが、マスコミが医者叩きして医療全体を
ぶっ壊して回ってますよ。マスコミが個人の
感情を煽って全方位破壊中です。「報道ステーション」おすすめです。
マスコミが、公共の福祉を無視して暴走
している状況で、意見形成出来るんでしょうか?
スェーデンのマスコミはどうなんでしょう。
どういう仕組みにしているのでしょう?

マスコミと過激な労働組合や党に
日本は林業めちゃくちゃにされて
ますし。
http://www.kikori.org/ken-betu/mori-japan.htm

再生紙の偽装ですけど、持続的な森林の維持を
考えると、再生しないほうが環境に良いという
意見もありますね。
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Unknown (Yoshi)
2008-02-02 07:16:51
Maさん。

アイスランドのことがよく分かりました。
頂いたリンクからの抜粋です。

Virtually all of the country's electricity and heating comes from domestic renewable energy sources -- hydroelectric power and geothermal springs.

それから、水の電気分解を利用してすることによって、水力・地熱のエネルギーを水素ガスの形で取り出して交通・運輸に使うという試みも面白いですね。国内需要をまかなう以上の発電キャパシティーがあるなら、余った電力を水素ガスに変えて、輸出することもできるかも知れません。

そうすれば、スウェーデンやアイスランドのように地理的に恵まれておらず、再生可能エネルギーに乏しい国でも、クリーンなエネルギーを活用できるようになるでしょう。

ただ、水素は発火の危険が高く、取り扱いが難しいようですが、最近の技術はどこまでそれを安全にできるのか、気になるところです。
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Unknown (Yoshi)
2008-02-02 07:35:38
日本のマスコミについてですが、ご指摘の点については事情を知らないので何ともいえませんが、日本では例えば「ジャーナリズム」=「スクープを掘り起こすこと、社会の中で悪者を作り上げて叩くこと」と勘違いしている人が多いのではないか、という気がしています。

マスコミの大きな役割の一つは「力を持つ者をしっかりと監視し、権力の乱用がないかを監視すること」だと、ジャーナリストの経験のあるスウェーデン人の友人が話してくれたことがあります。

それから、ある一つの事件や論争が起こったときに、ある一方の側の主張だけを垂れ流しにするのではなく、必ず対立する側の主張も聞いて、記事に取り込み、問題の全体像が伝わるような書き方をすることを、ジャーナリスト養成課程では「基本中の基本」事項として、しっかり学ぶのだそうです。

日本との比較は単純にはできませんが、ジャーナリストや報道機関側の倫理は少なくともスウェーデンではまだマシかなという印象を受けます。

それから、ジャーナリズムを監視するジャーナリズムがあり、報道にまつわる不可解な出来事を掘り下げて、テレビやラジオで伝える番組もあります。これなんか、スウェーデンの面白いところかもしれません。(ただ、ジャーナリズムの本来の役割、つまり「社会の中で力を持つ者をしっかりと監視すること」を考えれば、ジャーナリズムによるジャーナリズムの監視も当然のことだとは思うのですが)

そのような多面的なメディアがあることによって、社会の中で健全な議論が生まれるのだと思います。

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Unknown (Yoshi)
2008-02-02 07:54:43
今さっき、上に

>そうすれば、スウェーデンやアイスランドのように地理的に恵まれておらず、再生可能エネルギーに乏しい国でも、クリーンなエネルギーを活用できるようになるでしょう。

と書いたのですが、PEUGEOT 307 HDiさんのブログによると、「製造・輸送・貯蔵のあらゆる段階で燃料効率が低下」し、経済的ではないとのことです。

それから、水素エネルギーを利用した自動車技術には、燃料電池型と燃焼型があり、製造コストの面で大きく異なることなど、勉強になりました。

http://blog.goo.ne.jp/peugeot307hdi/e/c0a4e8aa5be4104938a5e9638d4f23a2
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