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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

変わり始めた!? 車の所有に対する考え方(3)

2008-09-05 05:17:41 | スウェーデン・その他の環境政策
カー・コーポラティブカー・シェアリング、そしてレンタカーに対する需要が伸びている。それは、車の所有をやめ、普段は公共交通を利用しながら、週末など車が必要なときだけ、車を借りて利用する人が少しずつ増えているためのようだ。

とはいっても、そう簡単には車を手放せるものではない。カー・シェアリングなんていっても、その使い勝手がいまいち分からない。車が必要なときに自由に使いたいから、やはり自分の車を手元に置いておきたい。そして、一度乗用車を手にしてしまえば、たとえ公共交通を使えば普段は通勤が可能だと分かっていても、自分の手元にある車を遊ばせておくのはもったいないので、やはり通勤に使ってしまう。

もしくは、カー・シェアリングの使い勝手が良さそうだとは分かっていても、車を取りに行かなければならない。公共交通を使えるとしても、時間がかかるし、運賃もかかるから、やっぱりやめよう、という人もいるかもしれない。

だから、カー・シェアリングやレンタカーなどの利用者を今後も増やして行くためには、公共交通との連携も必要ではないかと思う。

なんて私が考えるよりも、もっと早くそのことに気付いて、積極的に取り組んでいる人たちがいる。例えば、ヨーテボリを中心とする西ヨータランド県の公共交通公社Västtrafikは、<定期券で普段、通勤や通学をしている人を対象に、カー・コーポラティブやカー・シェアリングの無料お試しキャンペーンを今年の3月から実施している。


このキャンペーンは西ヨータランド県の公共交通が、民間のカー・シェアリング会社Sunfleetや協同組合Majornas bilkooperativ(マイヨナ・カー・コーポラティブ)と提携することで実現することになった。カー・シェアリングなどを利用するためには、通常は年会費や拠出金の支払いが必要なのだけれど、お試し期間である3ヶ月間はそういった手続きなしで利用可能で、その使い勝手の良さを公共交通の利用客に実感してもらおう、というものなのだ。

それから私なら、公共交通の利用者であれば、カー・シェアリングの利用料を減額するとか、その逆とか、さらには、カー・シェアリングの車を取りに行くのに公共交通を使えば、運賃がタダになる、なんて制度もいいと思うけど、まだ実際に行われてはいないようだ。


このキャンペーンを推進している担当者の言葉。

「もし、自家用車を持っていれば、どこに出かけるのにも車に乗ることが習慣になってしまうけれど、実際には歩くこともできるし、自転車で行くこともできるし、公共交通を使うことだってできる。自家用車を持つのではなく、カー・シェアリングを利用するようにすれば、出かけようとするたびに、どの交通手段が一番適しているか、積極的な選択を心がけるようになる。」

変わり始めた!? 車の所有に対する考え方(2)

2008-08-30 05:51:20 | スウェーデン・その他の環境政策
少し前に、レンタカー市場がここ数年、急成長している、という話題を取り上げた。そして、一つの理由として、車の所有や利用にかかるコストが高くなったために、車を所有せず、必要なときだけ借りるという人が増えているからだ、と説明した。

この傾向は、レンタカー市場だけでなく、カー・コーポラティブ(共同所有)とかカー・シェアリング(共同利用)にも見られる。

これは、言ってみれば「生活協同組合」の乗用車版だ。または、会員制のレンタカーとも呼べるかもしれない。企業が経営しているものもあれば、拠出金(預け金)を募って運営している自主管理の協同組合もある。まず、年会費または月会費を払って会員になる(月に150~350クローナ(2700~6300円))。そして、車を利用したいときにはあらかじめネット上で予約を入れ、利用した時間と距離に応じて料金を払う(1時間あたり16~32クローナ(290~580円)、さらに10kmにつき20~34クローナ(360~610円))。ここにはガソリン代も含まれることが多い。予約一件につき10~20クローナの予約料を取るところもある。

スウェーデン全国で見ると40ほどのカー・コーポラティブやカー・シェアリングの組織がある。一番大きなものは企業として運営している「Sunfleet Carsharing」だ。Volvo(!)とレンタカー大手のHertzが共同出資してできた企業だ。12の町に230台の車を所有している。現在5000ほどの会員がいるが、そのうち3000がヨーテボリ地方に集中しているのだとか。ちなみに230台の乗用車すべてがVolvoの「環境車」だ。

また、ストックホルム周辺だとCityCarClubという企業が急速に成長しているらしい。


協同組合タイプのものとしては、ヨーテボリのMajorna(マイヨナ)地区にあるMajornas bilkooperativ(マイヨナ・カー・コーポラティブ)が比較的規模が大きく、また一番古いという。今年20周年を迎えた。所有している車は30台から40台で、会員の数は400。会員になる際の拠出金(預け金)は3500クローナ(63000円)。それに加え、年会費と利用に応じた料金がかかる。また、さすが協同組合タイプとあって、会員には年に5時間から10時間ほどの作業を一緒に手伝ってもらうのだという。


会員には一般個人だけでなく、企業自治体も多数いるという。従来は業務に必要な車を自ら所有して管理していたのだが、使う頻度がそこまで高くないと、費用が高くつくことになる。そのため、SunfleetやCityCarClubのようなカー・シェアリング企業に外部委託して、必要なときに車を手配してもらう企業や自治体が増えているという。

そういえば、以前このブログでも紹介したが、公用車として所有している「環境車」を、勤務時間以外に一般市民に貸し出している自治体もあることを紹介した。つまり、こちらは自治体が自らカー・シェアリングを運営しているというタイプだ。なかなか斬新なアイデア!
2007-10-07:環境に優しい車の共同利用


それにしても、借りたい時にちゃんと借りられるのだろうか?

多くのカー・コーポラティブやカー・シェアリングでは、会員として企業・自治体一般個人の両者を登録している。企業や自治体は、平日の日中に利用することがほとんどだが、一方、一般の個人会員が利用するのは夕方から夜にかけてや、週末・休日が多い。そのため、利用する時間帯がうまくずれており、貸し出す側としても、車を遊ばせておくことが少なくなるのである。何とも賢い!

(続く。)

変わり始めた!? 車の所有に対する考え方(レンタカーと共同所有)

2008-08-14 06:32:30 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンでは個人の引越しは、業者に頼まず、基本的に自分たちで行う。引越しのために必要な小型・中型トラックや乗用車で牽引する貨車などは、レンタカー会社だけでなく、一般のガソリンスタンドの多くで簡単に借りることができる。それだけ、レンタカーはかなり身近な存在なのである。

もちろんそのような場所では、一般の乗用車タイプも用意してありレンタルすることができるのだが、さて外国人の旅行者以外に、どのくらいの人が借りるのかな? と疑問に思っていた。


しかし、最近の統計を見てみると、乗用車タイプのレンタカー市場はここ数年で急成長を遂げているという。レンタルの量はここ3年で20%伸び、レンタカー業者もそれに合わせて車の台数を12%増やしてきたという。一般のスウェーデン人が借りているのである。

自動車税やパーキング料金など車の所有にかかる費用は高くなってきている。また、利用しようにも、ガソリン税(二酸化炭素税)の引き上げや原油価格の高騰のために、ガソリン価格が高い。その上、首都ストックホルムでは中心部に乗り入れる度に渋滞税(乗り入れ税)を支払わなければならない。そのため、車の頻繁な利用は控え、普段は公共交通や自転車をなるべく利用しようとする人が増えている。そういう人にとっては、使用頻度が低いのに車をわざわざ自分で所有すると、活用時間あたりの固定費用がさらに高つくことになる。

その結果、車は週末の買い物や休日の遠出の時だけに使う、という人たちは、車の所有をやめ、レンタカーを盛んに活用するようになっているようなのだ。

ここには意識の変化も見られる。第二次世界大戦以降の高度成長の中で、マイカーが次第に普及していく時代に育った世代にとっては、車はステータスのシンボルであり、また自由のシンボルでもあった。しかし、今の20代や30代の人たちにとって、車は誰もが持つ当たり前のもので、その所有から得られる満足感も小さくなり、その結果、車にお金を掛けるのなら他の事に使いたい、と考える人が増えているのだろう。また、上に書いたように、車の所有・使用にかかる費用が上昇したことだけでなく、環境に対する懸念を特に若い世代が持つようになったことも、車所有に対する関心が低下している大きな理由だという声もある。

そう、環境に対する配慮という面でも、レンタカー市場の拡大は好ましい効果をもたらしているようだ。というのも、レンタカー会社やそれと同様にレンタカーを貸し出しているガソリンスタンド会社は、少しでも顧客を勝ち取ろうと、こぞってハイブリッド車やエタノール車、低燃費車などに力を入れているためだ。また、レンタカー会社の業界団体は、加盟各社に対して「2010年までにハイブリッド車やエタノール車などの比率を60%にまで引き上げるように」という目標を示している。そして現在、既に50%前後だという。

つまり、レンタカーの活用が増すにつれ、人々がいわゆる環境に配慮した車に乗る機会も自然と増えるようになっているのだ。


同様の急成長は、実は乗用車コーポラティブ(共同所有)にも見られる。次回はそれについて。

「温暖化問題って『ワナ』なんですか?」に思うところ

2008-08-02 21:40:13 | スウェーデン・その他の環境政策
たまたま月刊チャージャー「温暖化問題って『ワナ』なんですか?」という記事が目に止まった。



これだけを読んでしまうと、地球温暖化論は汚い金にまみれており、本来の科学的議論とは関係ないところで原発・バイオ燃料の利権集団の金儲けに突き動かされた“イカサマ論”もしくは“陰謀論”という印象を受けかねない。これが本当だとすれば、今の世界はそんなしょうもない動機のために温暖化対策を進めていることになるが、果たしてそうか? 現在の世界的な問題を、ここまで単純に「こけおどし」だと割り切って書いてしまうこの雑誌自体にも問題があると思う。温暖化の議論の中における、一つの論調として紹介するのならいいが、あたかも、この見方が正しい、というような書き方を記者自身が地の文で用いるべきではない。ジャーナリズムの基本をもっと学ぶべきだろう。


内容の細かいところについては後に回すとして、まずは総論から。

このようなトピックを取り上げるときに、なぜ相対する意見も取り上げないのか? 現在主流である意見に異議を唱える主張だからこそ、では、その主張に対して温暖化の問題を主張する人はどう対抗しているのかを伝えることにはなおさら意味がある。その上で、読者が自分の頭でどちらの主張に説得力があるのか判断できるような書き方にすべきではないか? 片方の主張ばかりを一方的に垂れ流し、しかも、学術界全体における彼らの主張がどのような位置づけにあるのか、大多数なのか、それともごく一部の少数に過ぎないのか、といったイメージを伝えることなく、このような記事を書いてしまうと、読者の中には今回取り上げられた主張がまるで学術界の中で多数を構成しているかのように思う人もいるかもしれない。

ジャーナリズムの基本は、ある事柄に対して様々な角度から光を当てること。ある主張をしている人がいれば、別の主張をしている人がいる。そういった物事の複雑性多角的に、そして客観的にあぶりだし、読者に伝えることだと思う。人の目を惹きそうな主張を行っている人だけを取り上げて、一方的にその主張だけを伝えることではない。

そもそも、一つの物事に対する意見というのは多事争論であることが多い。科学の世界でもそうだろう。100%確実なことは誰にもいえない。我々にできることは、今の段階で手にできる情報と知恵を総動員して、その雑多な意見の中でどれが他の意見よりも高い信憑性を持っているのかを判断することだけだ。国際パネルIPCCの取り組みもその一つであろう。多数の意見が必ずしも正しいわけではない(そもそも“正しい”という言葉が今の時点で使えるかどうかも定かではない)が、様々な根拠を照らし合わせて科学的に判断した結果としてまとめられた意見であるならば、他の意見よりも信憑性が高い、とは少なくとも言えるのではないだろうか。このようなことを考え合わせれば、ある意見に真っ向から対立する意見が一つでもあるからといって、その意見の信憑性が直ちに崩れるわけではない、という当たり前のことを肝に銘じておく必要がある。


記事の内容についてだが、

・「原因が曖昧で削減による効果もよくわからない」

確かに100%確実ではないが、IPCCなどの学術的パネルによると、二酸化炭素などの温暖化ガスが原因である可能性が高いと言われている。また、歴史的に見ても大気中のCO2濃度と気温には相関があることや、現在の二酸化炭素濃度の上昇の勢いがこれまでの自然なサイクルでは説明できないほど凄まじいものであること、なども明らかになっている。

・「CO2排出を減らせば確実に致命的な地球温暖化は防げる。世界のCO2排出量はちゃんと減らせるというのはすべて過大評価であり、はっきり言えば間違い」

既に書いたように「確実に」と言えることはない。それでも、CO2の削減は温暖化を抑制する為の一つのカギだと考えられているのである。「はっきり言えば間違い」などという言い切った表現を使うのであれば、その根拠を示して欲しい。

・「氷山が崩れ落ちるセンセーショナルな映像をメディアが流して恐怖を煽り、CO2削減を大義名分とすることで、新たな「利益」が生まれつつある。」

誰かの主張としてではなく、あたかも事実を記述するかのように、記者自身の地の文として書いている。

・「国際的な排出権取引は、もともと排出が少ない国の丸儲け。各国の削減努力に対するインセンティブにはならない。」

確かに現在はそうかもしれない。ただし、問題なのは排出枠の現在の割り当て方であって、排出権取引によって各経済主体のインセンティブに働きかけるという原理・理念自体が間違っているわけではない。よって「各国の削減努力に対するインセンティブにはならない」とは言えない。インセンティブにならない、と言うのであれば、根拠を示して欲しい。

・「CO2が悪者にされる本当の理由とは?」「そもそも、IPCCは国内の原子力発電を推進しようとする英国などのイニシアチブで生まれた経緯があると指摘されています。かつて、大気汚染を理由に推進しようという世界的な動きがありました。今度はCO2削減を理由にして、原子力発電を推し進めようとする“力”が存在しているのではないでしょうか」

これはどこまで本当なのか、根拠を示す必要がある。IPCCが当初、原発業界と何らかの関係を持っていた、という話は実際にあるようだが、これがどこまで本当なのか? 本当だとしても、現在のIPCCの活動に影響を与えているのかどうか、慎重に吟味する必要がある。スウェーデンにおける議論の中で、そのような主張によってIPCCの信頼性を根本から突き崩そうとする議論は聞いたことがない。スウェーデン人が盲目であるだけなのか?

・「日本の行動は『自殺』に近い?」「CO2削減という大義名分に先走り、巨額の金を投じようとする日本の行動は「『緑の切腹(Green Harakiri)』と皮肉った外国人記者がある」

日本の現在の取り組みを「自殺」と呼ぶとすれば、EUやスウェーデンの取り組みは何と呼ぶことになるのか? 日本だけが温暖化対策に取り組んでいるわけではなく、それと同じくらい、もしくはそれ以上の意欲で取り組もうとしているヨーロッパに目を向けるべき。温暖化論が間違いだったと後で分かれば、その時点で『自殺』をしているのは日本だけでなくヨーロッパも、ということになるが、ヨーロッパではそれなりの科学的根拠をベースに議論が展開されて、具体的な取り組みにつながっている。「緑の切腹」という言葉を使った記者が何者なのかはよく分からないが、あまり見識を持った記者だとは思えない。果たして引用するに値する言葉なのか?どうやらこの文脈では「外国人」記者という部分を強調することで、自分の主張を裏付けようとする意図なのだと思う。

・「CO2の削減だけを突出した指標として政治が動き、金が動いて、そこに群がる利権が生まれつつある」

少なくともスウェーデンを見ていて言えることは、利権のために温暖化対策が主導されているわけではなく、温暖化に対する懸念がまず第一にあり、そのために政策的目標が形成されているということ。もちろん、ある政策的目標が決定されれば、そのおかげで有利になる産業も出てくるわけであり、それらの産業が新しい技術を売り込むために盛んに活動を行うのはどこでも同じ。その政策のために金儲けをしている産業・企業があるから、といって、その政策自体がおかしい、とは言えない。一方、やはり利権に動かされた政策決定もあることは確かであろう。たとえば、アメリカのエタノール重点政策などはそう言えるのだろう。大切なことは、政治がそれらの利権に左右されることなく、正当な議論を通じて政策を決めて行くことである。


ここまで“衝撃的な”記事を書いたからには、次号ではそれとは異なる主張をする人々の声を取り上げてみてはどうか?

Bjorn Lomborg - "Cool it"

2008-07-29 07:39:03 | スウェーデン・その他の環境政策
デンマーク人の経済学者Bjørn Lomborg『Cool It - The Skeptical Environmentalist's Guide to Global Warming』という本を2007年に出版した。その後、スウェーデン語にも日本語にも訳され出版されており、邦訳版では『地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す』というタイトルになっている。


スウェーデン語版の表紙

この本が出版された直後は、今や世界を席巻している「温暖化への警鐘」や「温暖化対策の議論」に異議を唱える本として、スウェーデンでも少し注目を受けたが、実際には、彼の主張は二酸化炭素などの温暖化ガスによって地球温暖化が進んでいるという考え方自体に疑問を投げかけるものではなく、それよりも、経済学的な「費用対効果分析」の考え方から、どうすれば、なるべく少ない費用でなるべく大きな対策措置をすることができるのか、冷静に考え直してみよう、というものであった。


スウェーデンでは、彼の本にどのような反応がなされたのか?

簡単に言えば、それほど特別な注目を受けることはなく、温暖化に関する様々な論調の一つとして扱われたに過ぎない。その上で、彼の主張についてメディア上でしばらく議論が続いたものの、スウェーデンの専門家やジャーナリストの全体的な感想としては「彼の指摘の中には頷ける部分も一部あるが、目新しい批判はあまりなく、また問題の認識や論点がずれている所もあり、彼の主張は人々に対策を取らないことの言い訳として使われかねない」というようなものだったと私は記憶している。

それに彼の指摘する問題点の一部は、スウェーデンにおける政策議論の中でもちゃんと扱われているし、また、問題の認識の仕方が根本的に違っている部分があるため、スウェーデンにおける議論にはそこまで影響を与えていないようである。

スウェーデンでの温暖化対策の議論における、現在の主流な論調を端的に表現すれば「様々な観点から今後も議論を続ける必要はあるが、地球温暖化は対策を急ぐ問題であるため、今後もできる部分から手をつけて行くべき」というものである。

――――――
既に書いたように、彼は温暖化自体を否定しているのではない。IPCCの報告書のいう「近年の地球上の気温上昇の一番の原因は人間活動である可能性が高い」という部分は認めている。だから、この点の認識に関しては、議論を呼ぶことはなかった。

また、彼は「現在の温暖化議論は、パニックを煽る扇動的なニュースやあまりに感情的な偏った意見に導かれており、冷静さが失われた結果、極端な温暖化対策が取られようとしている」と指摘している。これに対しては、“パニックを煽る扇動的な”という部分にかなりの疑問が上がったようである。テレビやラジオで議論をした研究者やジャーナリストなどは「様々な観点から考えてみても、地球温暖化問題は深刻な問題であると言えるので、その真相について世論に訴えるのは悪いことではない。パニックを煽ること自体が目的ではない。」と反論していた。

評価できる点としては、「木にばかり着目するあまり、森が見えていない」という問題を指摘したことであろう。スウェーデン語に「symbolpolitik」という表現がある。和訳すれば「象徴的な政策」ということになるが、実はあまり響きの良い言葉ではない。例えば、自然界にはプラスチックやビニール袋が溢れており、何百年経っても分解されず、深刻な環境問題である。その対策の一つとして、仮にある国が「ビニール袋の使用禁止」を法で決めたとする。この政策は、人々の生活に大きな変化をもたらすだろうから、国内外の人々の注目を集めるに違いない。マスコミに対するウケも良さそうだ。だから、その国が環境問題に力を入れていることをアピールする道具になる。まさに、象徴的な政策である。しかし、「ビニール袋の使用禁止」にばかり注目が集まりすぎて、他の対策方法が十分に検討されていない恐れがある。例えば「ゴミのポイ捨て」対策に力を入れたほうが、もっと簡単で効果的かもしれない。だから、一つの問題は様々な側面を抱えているため、一つの象徴的な政策にばかりこだわるのではなく、それを総合的に判断した上で対策を行う必要がある。このことを忘れるな!と指摘した点は評価されていたと思う。

ただこの指摘自体は珍しいことではなく、スウェーデンでも、効果的な温暖化対策が何か? 一つの対策手段にこだわるあまり、重要なことが忘れられていないか?がよく議論されている、と私は思う。例えば、スウェーデンは国の政策として2020年までに温暖化ガスを90年比で40%減らすことを決めたが、さて、国内の取り組みだけで40%減を達成するのか、それとも、国外での技術協力活動も含めるのか、が盛んに議論された。対策の積極派としては、スウェーデンの確固たる取り組み姿勢を国内外にアピールしたいから、国内だけで40%減をすべき、と主張していた。一方、(限界)費用を考えたら、国外での取り組みによって削減したほうが、はるかに安く削減できる、と反対派は主張する。また、原発の是非を巡る議論もある。再生可能なエネルギーにこだわって多額のお金をかけるより、原発の増設をしたほうが経済的にも温暖化対策としても良いのではないか?というような議論である。だから、Lomborgの本の影響かどうかは定かではないけれど、費用対効果の考え方は、スウェーデンにおける議論でも織り交ぜられていると思う。

ゴットランド島の「政治ウィーク」 (4)- 米エネルギー省副長官

2008-07-23 06:45:43 | スウェーデン・その他の環境政策
中央党が開催した「環境セミナー」に講演者として招待されたのは、アメリカ・エネルギー省の副長官Alexander Karsnerと駐スウェーデン・アメリカ大使のMichael Woodだった。Alexander Karsnerは米エネルギー省の中ではエネルギー効率化と再生可能エネルギー促進の担当者であり、アメリカが力を入れているエタノール燃料への投資を誇らしげに語った。


エタノールといえば、ガソリンに代わる新しい自動車燃料として近年注目が集まってきたが、菜種やトウモロコシ、麦などの食糧から生産される場合は、これらの食糧価格の高騰につながり、大きな問題が指摘されている。アメリカが力を入れているエタノール生産はまさに食糧を原料としたものが主だ。

先日ニュースを聞いていたら、世界銀行が2002年から今までの食糧価格の変化についての報告書を発表し、その中で「食糧価格高騰の75%にあたる部分は、エタノール生産に食糧が用いられるようになったことが原因である」と結論付けていたという。これに対しては、スウェーデンの研究者からは、原油高や需要増などの他の要因があまり考慮に入れられていない、と推計手法に疑問が上がっていたが、75%とまでとはいかないにしろ、価格高騰の主要な原因の一つはエタノール生産だとは少なくとも言えそうだ。

エタノールの問題についてはスウェーデンでも一般的に知られている。(ただし、スウェーデンで流通している自動車燃料用のエタノールは、ブラジルからのサトウキビが原料になっており、食糧とは競合していない、と言われている。ただ、サトウキビのほうも労働者の肉体を酷使した苛酷な労働環境が問題となっているようだが。)

だから、米エネルギー省の副長官がエタノールの良い面ばかりを誇らしげに話すと、その後、会場からは問題点を指摘する声が質問として上がる。これに対し、副長官は「エタノールに対する批判は一面的で、誤解に基づいているものが多い。いや、むしろ意図的な誤情報に基づいていると言ってもいいかもしれない。」と答えた。すると、司会者であるスウェーデン人が横から突っ込みを入れる。「では、誰が意図的な誤情報を流して、エタノールに批判の矛先を向けようとしているのか? 何か隠れた団体でも背後にあるのか?」 副長官はうまく答えを返せず黙ってしまった。

また副長官は、温暖化対策へのブッシュ政権の意気込み(アンビション)についても(かなり曖昧に“大きな”言葉を多用して)説明したが、司会者は再び突っ込みを入れた。「ヨーロッパはアメリカの環境政策が時代遅れで消極的だと、これまで再三批判してきたが、それにも一理あるとは思わないか?」 すると、副長官は「いや」と答えた上で、こう続けた。

『世界はもはや二極ではない。皆が同じテーブルにすわり、共同して決定を行わなければならない。気候変動に対する闘いにアメリカが貢献できるものとは、他国にインスピレーションを与え、リーダーシップを示すことである。人類が始めて月に足を着けたときと同じように、私たち皆が共通の信念に基づいて行動すれば何でも可能だということを、アメリカは世界に示しているのだ。』

会場は、シーーーーン。観客は皆、心の中で苦笑いしていたに違いない。アメリカのブッシュ政権がこれまで批判を受けていたのは、まさに環境政策における他国との協調性のなさと、リーダーシップの欠如だったのに・・・。インスピレーションもむしろ逆方向に働くべきではないのか? 政策担当のトップにいる人間が、このようなことを恥ずることなく平気で言うのは、甚だ可笑しい。重い腰をやっと持ち上げ始めた俺たちを評価してくれ、と言いたいのであれば、“大きな”言葉を使うのではなく、素直にそう言えばいいのに・・・。(私は中身を伴わない“大きな”言葉が嫌い!!!)

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ともあれ、このセミナーは何もアメリカの環境政策をこき下ろすためにアレンジされたのではない。スウェーデン政府が、アメリカのエネルギー省と連携して、充電式自動車の実用化に重点投資を行うことをアピールするのが主な目的だった(中央党の党首が、経済産業大臣を務めている)。電気補充用のスタンドはアメリカ側が技術供与し、電気自動車(ハイブリッド)の技術のほうは、スウェーデン政府の重点投資を受けたVolvoが開発を進めていく、というものらしい。

ゴットランド島の「政治ウィーク」 (3)- 風力発電は必要か?

2008-07-18 07:37:14 | スウェーデン・その他の環境政策
「政治ウィーク」の期間中に、政党や労働組合、業界団体、NPOなど様々な団体が開催した500~600にわたるセミナーは、現在のスウェーデン社会一般における人々の関心を反映して「環境問題・政策」「外交問題」「スウェーデン型社会保障システム」「税制システム」といったトピックを扱ったものが多かった。それから国会で今、もめにもめている「通信傍受法」に関するものもあった。

私が非常に面白いと思ったのは、開催されたセミナーの多くでは、主催する団体が自分たちの主張や意見を一方的に(プロパガンダのように)観客に垂れ流すのではなく反対意見を表明している専門家や政治家も呼んで講演してもらったり、パネルディスカッションに参加して議論を戦わせるなどして、問題の多面性を観客に示した上で、彼らに最終的に判断してもらおうというタイプのものが多かった。もちろん全部のセミナーが、ということはないと思うけれど、そういうセミナーが非常に多かったと私は感じる。

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面白かったセミナーの一つは、スウェーデンの風力発電の業界団体Svensk Vindkraftが開催した「風力発電は必要か?」というタイトルのセミナーだった。

ここではまず、この団体の代表がスウェーデンにおける風力発電拡大の希望を語った上で、行政機関であるエネルギー庁の職員に、スウェーデン政府としての意気込みと長期計画を説明してもらう。その後、連立与党の一翼を担う自由党の中で「風力発電なんかよりも原発の増設を!」と叫んでいる国会議員と、野党である社会民主党の環境政策立案委員会の議長であるヨーテボリ市議会議員(風力発電の推進を主張)を交えて、ディスカッションが行われた。

業界団体とエネルギー庁の思惑は大体一致しており「スウェーデンにおける風力発電の発電量を今後10年間で劇的に増やしていこう!」というものだった。2006年における風力発電の発電量は0.9TWhと、全体のわずか0.7%に過ぎない。風力発電に早くから力を入れて、今では国内電力需要の20%を風力発電が賄うまでになった、デンマークには大きく遅れを取っている(スペインは8%、ドイツは6%)。しかし、2007年には1.4TWhに増え、現在の計画によると2010年までに4.0TWh、2016年までに7.5TWh、そして2020~2025年には25-30TWhと、ものすごい勢いで発電量を増やしていくつもりらしい。(デンマークの目標は50%の電力需要)

風力発電の建設には、多くの場合、騒音や景観の問題で地元の反対を受けることが多い。あるニュースが以前に、「環境のため」という観点に立つ二つの意見が真っ向から対立している、という表現を使っていたがまさにそうだ。しかし、スウェーデン政府は法改正によってこの新規建設の手続きを容易にしてきたようだし、実際、多くの新規計画がすでに環境影響評価を終え、建設の段階に入っているという。だから、25TWhという目標は別としても、2016年には7.5TWhくらいには達しそうな気が私はする。

ただし、風力発電に関して、ある大きな疑問を私は抱いてきた。風が吹かないときはどうやって電力を賄うのか?ということだ。原子力発電の特徴は、風力発電のまさに正反対で、安定した電力供給ができることだ。しかし、その反面、発電量を急に増やしたり減らしたりができない。(だからこそ、日本でも夜間の原発の発電電力を値下げしてうまく活用しようと努力している)

とすれば、今後、原子力発電から風力発電への転換を進めて行った時に、風が吹かない時間帯の「バックアップ」はどうするのか?という疑問が持ち上がる。休止させた原発をいきなり稼動して電力を賄うわけには行かない。とすると、その時間帯だけ火力発電を稼動させて電力を補うことになるのではないか?(火力発電なら、発電量の増減が短期間でできる) バイオマスなどの燃料を用いることができればいいが、全国規模の電力需要を賄えないとすれば、石油や石炭を使用することになる。すると、結果として、温暖化ガスの発生量が風力発電のために増えてしまうのではないか?

この点はまさに風力発電反対派や原発推進派が指摘している点なのだ。私もこの点をうまく克服できなければ、両手を挙げて風力発電を賞賛するのは難しいのではないか、と思っていた。

しかし、風力発電の推進派は「水力発電で調節する」と答えていた。なるほど、水力発電なら、発電量の増減が簡単にできる。風が吹いて風力発電が好調な間は水を貯めておいて、風が吹かなくなればダムの水を流して電力供給を補う。これに対しては、反対派の議員から「いきなり多量の水を流せば、流域の生態系に悪影響を与えてしまう」との批判があった。この点は、私は専門家ではないので、詳しいことは分からないのだけれど「なるほど、水力発電を補完的に使えば、風力発電をどんどん増やしていったとしても、火力発電に頼らずに済むのではないか」と納得した。

ちなみに、業界団体側の説明では、風力発電がスウェーデンの電力需要の30%を賄うようになっても「バックアップ」のほうは問題ない、という。

それから、ディスカッションで争点になったのはコストの問題。風力発電は高コストだという。現在の電気の流通価格はKWあたり0.65クローナだが、風力発電の場合、陸上だと0.75クローナ、岸辺に近い海上風力発電だと1.00クローナ、沖合いの海上風力発電だと1.30クローナの値段でなければ採算が取れないという。この差額分は現在は、電気代に上乗せした一種の課徴金を一般消費者から徴収して、補助金として風力発電に回している。果たして、これは望ましいあり方なのか?、という点を巡って激しい議論もあった。

原発推進の国会議員は「補助金によって市場が歪められている。低コストで、しかも温暖化ガスを出さずに発電をしたかったら原発が一番!」と繰り返すのに対し、社会民主党の議員は「補助金自体が問題なのではない。環境をしっかりと考慮に入れた上で、一国として、エネルギー政策をどの方向に持っていくのか? スウェーデンとしてはその答えの一つとして風力発電を選んだ。現在のシステムはうまく機能している。むしろ、国からの支援が不十分なために、例えばVolvoのヨーテボリ工場の風力発電計画がなかなか進まないのが問題。さらに、EUはスウェーデンに持続可能なエネルギーの使用割合を2020年までに49%に引き上げるという目標を課しているが、国の積極的な支援がなければ間に合わない。」と反論していた。

以下は、業界側の頒布した資料より。参考までに。

・風力発電タービンは平均すると70-85%の時間、稼動している。風力が秒速2.5-4.5mになった段階で動き始め、25mを超えると停止する。
・風力発電タービンは、一年を通してみると、その理論的最大発電量の30%の電力を生産する。風の強い沿岸部の場合は、これを若干上回る。30%というと少ないように聞こえるが、通常の発電方法(火力・原発・水力etc)でもせいぜい50%。

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二日酔いの友人。毎晩、かなり飲んだので、写真を撮っている私も同じような顔をしていたと思う。実は、我々の前では、公共テレビSVTが生中継でインタビューをしており、二日酔い顔の冴えない3人組がもろに映っていた、という話を別の人から聞いた。

ガソリン価格の内訳

2008-04-03 23:03:01 | スウェーデン・その他の環境政策
以前に「スウェーデンのガソリン価格のうち、二酸化炭素税などの税金分はどのくらいですか?」とのご質問を受けていたので、お答えしたいと思います。

スウェーデンのガソリン価格の内訳(オクタン95の場合)

1クローナ=17円で計算

上の表から分かるとおり、ガソリンに対しては (1)エネルギー税(2)二酸化炭素税 そして(3)消費税 の3つの税が掛けられている。
(1)のエネルギー税は、税収確保を主な目的とした税。(2)の二酸化炭素税は、この課税により価格を政策的に吊り上げることで需要を抑制することを主たる目的とした税。つまり「税収が上がらないほうが望ましい税」と言えるだろう。(3)の消費税25%は、税抜き価格にエネルギー税と二酸化炭素税を足したものに対して課せられる。

スウェーデンでは、消費税だけでなく、エネルギー税も二酸化炭素税も使途を特定しない一般財源として扱われている。

こうしてみてみると、ガソリン価格の実に60%は税金ということになる。そしてガソリン価格は215円を超える。(オクタン98は221円)

ちなみに日本のガソリン価格の内訳も紹介しておく。左は3月末までの価格、右は暫定税率が期限切れになった以降の価格。

日本のガソリン価格の内訳

日本とスウェーデンのガソリン価格を比較して「日本もスウェーデン並みにガソリン価格を引き上げるべき」とは安易に言うつもりはない。一方で、ここまでガソリン価格が高くなれば、エコ・ドライビングの奨励や公共交通の整備にも本腰を入れるようになるとも思う。

EUの新しい温暖化対策目標 - 訂正と追加

2008-03-09 19:24:23 | スウェーデン・その他の環境政策
EUが今年1月に新しい温暖化対策プログラムを発表したことを、このブログでもお伝えしたけれど、どうやら間違いがあった。
20、20、20・・・ 。EUの新しい温暖化対策 (2008-01-26)

2020年までにEU全体で温暖化ガスの排出量を20%減、というのは、1990年比ではなく2005年比のようだ。(この点は、メディアでも情報が錯綜していたようだ)

さらに、この大枠の中でスウェーデンに課せられた2020年までに17%減、という目標も1990年比ではなく2005年比になる。そのため、1990年比での削減目標はこの数字よりもさらに大きくなる。

つまり、スウェーデンは2005年段階で1990年と比べて7.1%の削減を達成してきた。EUの課した新たな目標は、2005年レベルから17%減なので、1990年比では22.9%減になる。(計算が間違っていたら指摘してください。スウェーデンの新聞の中には、7.1%+17%=24.1%という単純計算をしているものもあったけど、これは明らかに誤りですよね)


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スウェーデンの「温暖化対策準備委員会」では、2020年までに1990年比で38%の削減を行っていくことが国独自の目標として定められることになった。(うち8%分は国外における削減)

EUが課している22.9%減よりもさらに厳しい目標をなぜ自らに課そうとするのか?

それは、おそらく温暖化問題が急を要するという認識が、政策決定者や一般市民の間で幅広く共有されているためであろうし、経済と温暖化対策が両立できうることを先進各国に示したいという、よい意味での「メンツ」があるのだろう。それから、環境技術を国内でさらに発展させて、この部門での国際競争力を高めたいという狙いもあるだろう。

先日、スウェーデンの環境省で政策秘書をやっている昔の同級生とストックホルムで食事をしたけれど、彼が言うには

「2009年のコペンハーゲン会議において排出抑制に向けた合意が世界レベルで達せられるなら、EUは20%減という目標を30%減へとさらに厳しくする用意があるが、そうなった場合に、EU加盟国各国にどう分担させるかはまだ決まっていない。スウェーデンとしては、今よりもさらに厳しい削減目標がEUから課せられてもいいように、独自の取り組みをしておきたいと考えている」

という狙いもあるようだ。

公共交通の重点投資

2008-03-05 17:08:37 | スウェーデン・その他の環境政策
(今週はずっと忙しくしており、頂いたコメントへの返事が滞っていますが、ちゃんと目を通させてもらっています! ありがとうございます)

月曜日の新聞に面白いルポが載っていた。

利用客を大幅に増やすことに成功したスコーネ地方の公共交通の話。(スコーネ地方とは、ヘルシンボリ、マルメ、ルンド、イースタドなどがあるスウェーデン南部の地域)

この地方の公共交通は、人口に対しての利用客の数が全国平均よりもはるかに低かった。ストックホルム地域やヨーテボリ地域などの都市に比べると、4分の1ほどでしかなかった。

しかし、90年代にこの地域の2つの県が1つに統合されるに伴い、この地域全体を統括する新しい地域交通公社(Skånetrafiken)が1999年に誕生。ここから大きな改革が始まった。それまでは県が二つに分かれていたため、県を跨いだ地域全体の公共交通のビジョンが立てにくかった。しかし、この新しい地域交通公社のもとで、その障壁がなくなった。

その結果、地域の各都市を結ぶ電車の利便性の改善に力が注がれ、利用者が大きく増えることになった。さらに、マルメとコペンハーゲン(デンマーク)との間に橋が架かったことによって、電車でそのままコペンハーゲンまで通勤できるようになった。そのため、鉄道の利用客は1999年時点と比べ3倍も増えたという。

上の地図は、2003年からこれまでの利用者の増加を示している。赤は25%以上の増加、青は15-25%の増加、黄色は0-15%までの増加


さらに、町の中における公共交通の利用者増にも力が入れられた。例えば、ヘルシンボリ市などは2本の市内幹線バスを日中は10分おきにし、晩から夜にかけても30分おきに走らせるようにした。それから、バス車両も一新させ、バイオガスによって動くバスを56台新規に購入し、市バスの交通システムが新しくなったことが市民に一目で分かるようにした。その結果、利用客が1年で30%も増えたという。目標は10年で利用者を倍増させることらしい。

公共交通の利用者増のカギは、まず、地域交通公社の努力だ。地域内のそれぞれの市の公共交通をうまくコーディネートし、市を跨ぐ公共交通の利用を容易にする。そして、ゾーン制の料金システムも簡潔にする。さらに、鉄道-バスやバス-バスなどの乗り換えを同じ料金システムによって行う。(それ加えて、お得な定期券制度なども)

しかしそれだけでなく、市の都市計画課が明確なビジョンを持って、その目標を達成しようとしたことも重要なようだ。つまり、市内の道路にバス専用レーンを作って、自家用車よりも公共バスが優先されるようにしたり、市内の密集地域の乗用車の最高速度を大幅に制限したり、駐車料金を高くしたりすることで、自家用車を使うよりも公共交通を使ったほうが利便性が良くなるようにした。

「市内の密集地から自家用車をなるべく外に押しやるような街づくり計画を考えた」とヘルシンボリ市の都市計画課の課長は言っている。また「市民が市内のどこかへ行こうとするときには、“公共交通を使おう”、とまず考えてもらい、それが難しい時に限って、自家用車を使ってもらえるようにしたい。自家用車よりも、歩行者、サイクリスト、公共交通を優先させたい」と説明する。

新しいしバスに乗車する、ヘルシンボリ市都市計画課の公共交通プランナー

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このルポを読んで思ったのは、日本の地方の町でも、地域の政策決定者がしっかりと長期的なビジョンを持って公共交通の促進に取り組めば、マイカーから鉄道・バスへの利用転換を進めていけるのではないか、ということ。

日本での環境税を巡る議論では、「地方ではマイカーが絶対必要だから、ガソリンは安くあるべき」との声も多いけれど、ビジョンのない、場当たり的な街づくり計画の繰り返しで現状を容認してしまうのではなく、到達したい目標をまず決めて、それを達成するためにはどうすべきかを具体的に考えていくやり方が必要ではないかと思う。そのためには、政策決定者のリーダーシップと、市民を巻き込む建設的な議論が欠かせないと思う。

温暖化対策に「原発」をどう位置づけるか?

2008-02-20 08:57:28 | スウェーデン・その他の環境政策
これまで「温暖化対策準備委員会」について書いて来た。スウェーデンでは温暖化対策のために厳しい抑制目標を自らに課し、税・補助金制度や排出権取引制度などを活用してこの目標を達成していく合意が、与野党を問わずすべての政党の間で出来上がって来たことを説明した。

とはいえ、すべての点で合意に至っているわけではない。前回書いたように、2020年までの削減目標にしても30%減40%減の間で折衝が続き、そして、スウェーデン国外での抑制分をカウントするのかどうか、という点についても議論が続いている。

一方で、面白いことに、2050年までの削減目標に関しては、既に75-90%減で合意に至っているというではないか!
Göteborgs Posten
(つまり、遠い先のことは皆「どうにかなる」と思っているのかもしれない。一方で、10数年先のことは、これから毎年毎年の取り組みの仕方によって成果が大きく異なってくるので、合意が難しいのだろう)

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意見が割れているのは目標だけではない。果たしてどのような手段でその目標をクリアするのか、についても異論も多い。特に与党である中道右派政党の間で意見が分裂している。

例えば、原子力発電について。スウェーデンは1970年代から80年代にかけて原発を12基建設し、現在では電力の半分を賄うまでに至っている(グラフはここをクリック)が、1970年代は同時に反原発運動が盛んだった時代であり、1980年の国民投票では「段階的廃止」が選択された。1999年と2005年に1基ずつ閉鎖され、現在は10基が稼働中である。

しかし、温暖化の議論の中で再び原子力発電が注目されるようになった。二酸化炭素を排出せず、安価な電力を供給可能であると考えられるためだ。現在議論されている厳しい排出抑制目標をスウェーデンがクリアすると同時に、スウェーデン産業の国際競争力の維持を図るためには、原発の意義を再検討する必要がある、との声も挙がっている。


原発新設を主張している自由党のCarl B. Hamilton

そんな声を挙げているのは産業界自由党だ。彼らは、高コストといわれる風力発電やバイオマス発電、さらには二酸化炭素税などによって電力価格が上昇すればスウェーデンの基幹産業、特に電力消費の多いパルプ・製紙や鉄鋼に大きな影響を与えることを懸念しているのだ。それに、高価な電力のために国内の事業所が閉鎖され、これらが温暖化規制の緩い国に移り、その国において発電効率が悪く、二酸化炭素の大量排出を伴う電力で生産活動を続けるのなら、元もこうもない、と考えている。

(注:但し、スウェーデンにしろ、EUにしろこの点はある程度、考慮されており、二酸化炭素税の課税も産業部門に関しては民生や運輸部門よりも軽減されている)

これに対し、左派の政党や中道右派の中でも中央党などは「原発ありきで議論をするのではなく、再生可能なエネルギーの開発や省エネ技術、道路輸送の抑制、二酸化炭素税などの税制を大いに活用することをまず考えるべき」と、原発に関する議論は拒否してきたのであった。(ちなみに、反原発の嵐が吹いた1970年代にこの運動を主導していたのは中央党(農業従事者を支持母体)だった。環境党はまだ存在していなかった。)

左派3党のうち、原発の即時閉鎖を主張している環境党を除く2党は、新設は認めないものの現在稼動中の原発は寿命が来るまで使い続けることを主張している。また、中道右派4党も連立政権を築くにあたって、次の選挙まではこの現状維持という立場を貫く、という合意をしていたのであった。

だから、前回の記事に書いたように、“この期に及んで”自由党が「原発を最終報告に盛り込め」と要求してきたのに対して、他の与党3党が苛立ったのも無理もない。
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原発に関しては、私自身はどうにも判断がつかない。温暖化対策だけを考えて、その即効性に着目すれば、原発の活用も仕方がない気がする。ただ、これはどう努力したところでエネルギーの消費量が爆発的に増えるであろう中国やインドなどでは妥当するかもしれない。一方で、高度な技術開発が今後さらに進むであろう先進国では、原発なしでもやっていける可能性もあるかもしれないと思う。

2020年の削減目標が40%減に...!

2008-02-18 07:24:50 | スウェーデン・その他の環境政策
3月に最終報告を国会に提出することになっている「温暖化対策準備委員会」だが、先週も新たな展開が見られた。


まず、2020年までの削減目標について。それまでの報道では30%減に落ち着くと見られていたのだが、何が起こったのか、40%減という数字が浮上し、この水準を軸に議論が進んでいるというではないか!

30%減から40%減へと削減目標が飛躍的に進んだ背景にあるのは、スウェーデンが外国で取り組んだ排出抑制努力を、スウェーデンの抑制達成量にカウントするかどうか、という議論のようだ。外国での努力とは、おそらく産業・民生部門における技術移転や植林などによる吸収源の拡大などであろう。現在の予想によると7%減に相当する温暖化ガス抑制が2020年までにこれらの取り組みで達成できると考えられている。

与党である保守党・自由党・中央党・キリスト教民主党は、外国での取り組みによる削減分もカウントすれば40%減を達成可能、と考えている。一方、野党である社会民主党・環境党・左党は、あくまで国内だけで40%減を達成すべき、と主張している。ただし、彼らは議論がここまで深まっただけでも十分、と与党側に歩み寄る構えのようだ。

いずれにしろ、各党が30%減から40%減の付近で落とし所を模索しているのはスゴイことだと思う。

もう一つの展開は、原子力発電の位置づけ。先週の会合では、自由党が原発を持ち出し、「委員会の最終報告書の中に、温暖化ガス排出抑制における原発の意義を盛り込むべき」と主張し、議論が紛糾したそうだ。与党の他の3党は「なんでまた今になってそんなことを持ち出すのか!」と苛立ったという。そして、自由党をなだめようと努力し、しまいには環境大臣(中央党)も議論に加わって妥協点を見出そうとしたものの、無理だった。

議論は今週もさらに続く。

なんだか、最終報告書を読むのが今から楽しみになってきた!

<注記>
写真は本文とは直接は関係ありませんが、4年程前にヨンショーピンで撮った写真です。

「温暖化対策準備委員会」(4)- 各政党の認識

2008-02-12 09:17:56 | スウェーデン・その他の環境政策
さて、温暖化対策に対する各政党の考え方はどのように変化してきたのか?(長くなりますが、一気に書き切ってしまいます!)

まず、2006年秋の総選挙で敗北するまで政権を担当してきた社会民主党と、これに閣外協力してきた環境党左党は、温暖化対策を含めた環境政策全般に積極的に取り組んでいくことを従来から主張してきた。名前からも想像がつくように、環境党がもっとも急進的な主張を繰り返し、予算編成にあたっての左派3党間の協議では、常に社会民主党をせかして、環境税制の拡張や環境対策予算の増額を強いてきたのだった。

一方、中道右派の4政党はどうだったのか? 2006年までの各党の主張を簡単にまとめてみるとこういう風になる。(以下ではディーゼル税は省いたが、ガソリン税と同様に考えられている)

保守党(穏健党):EU全体との協働で温暖化対策を行うことには賛成。ただ、あくまでホドホドに。ガソリン税は引き下げるべき
自由党ガソリン税は引き上げるべき。原発の増設。「ガソリン税の引き下げを主張するような党は、温暖化対策を真剣に考えているとは到底思えない」との発言
中央党ガソリン税は引き上げるべき。新しい燃料の技術開発にも力を入れるべき。
キリスト教民主党ガソリン税は引き下げるべき。それに加え、燃料にかかる一般消費税(25%)も12%に下げるべき。

と、このようにガソリン税や二酸化炭素税に関しては意見が二分していたのであった。2006年9月の総選挙が近づくにつれ、この4党で共同の「政策マニフェスト」を作成し、連立による政権の奪取を目論むことになるのだが、温暖化対策に関しては意見がまとまることはなかった。

保守党は経済界とつながりがあるものの、党としては環境政策にもある程度は力を入れることを公約に掲げていたため、ガソリン税の減税までを公約に明記してしまうと、党の環境政策の信憑性に傷がついてしまう。そのことを恐れたのか、自党の公約ではガソリン税減税をトーンダウンさせた。

一方、キリスト教民主党は、弱小政党であり、存続が危ぶまれていた。スウェーデンでは「4%ハードル」があり、全国での得票率がこれを超えなければ1議席も獲得できないことになっている。支持率が常に4%-6%を浮き沈みしていたこの党は、従来の「保守的家族観」の主張に加え、「ガソリン税減税」と「住宅資産税撤廃」を盛んに主張することで、新たな支持層の獲得を試みたのだった。

選挙前の討論番組でガソリン税減税を主張するキリスト教民主党の党首Göran Hägglund

時は折りしも原油価格の高騰が深刻になってきた頃。上記のように保守党がガソリン税減税のトーンを下げた今、このキリスト教民主党が唯一の「ガソリン税減税」政党になったのだ。「我々は燃料費の高騰に苦しむ一般家庭のことを考えている真剣な党だ!」 このことを大々的に売り込んで、支持率の巻き返しを図ったのだった。

キリスト教民主党のキャンペーン「ガソリン税を今すぐにでも下げよう!」

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さて、2006年総選挙の結果は、中道右派4党左派3党を打倒した。中道右派の第一党である保守党が中心となって、4党による連立政権が発足することになった。環境大臣中央党から選ばれることになった。


環境大臣 Andreas Carlgren(アンドレアス・カールグレーン)中央党。後ろに見えるのはストックホルム市庁舎

ただし、キリスト教民主党は「4%ハードル」こそ超えたものの得票率は6.5%と、前回の選挙での得票率(9.1%)よりも落ち込んでしまった。「ガソリン税減税」の公約は期待したほど支持を集めなかったようだ。(安い油に惹かれて票を入れるほど有権者も単純ではなかったのだ!
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前回のブログに書いたように、この総選挙の後から、温暖化問題が盛んにメディアで取り上げられるようになり、人々の関心も高まっていく。そのため、新政権としても活発な政策を打ち出していく必要が出てきた。(様々な要因が重なり、選挙直後から新政権の支持率は低下の一途をたどる。そのため、環境政策分野でポイントを稼ぐ必要も出てきたのだった。)

新政権が感じた圧力は世論だけからではなかった。温暖化の専門家を始め、国の機関である環境保護庁(Naturvårdsverket)エネルギー庁(Energimyndigheten)などが「スウェーデンの民生・運輸部門の排出量を抑制するためにはガソリン税をはじめとする経済インセンティブのさらなる活用が必要」と、独自の提言をし、それをメディアに発表したりしたのである。(スウェーデンで面白いのは「省」と「庁」が分離しているため、「庁」が比較的自由に活動できるところ)

そんなこともあり、2007年秋予算の策定にあたっては、ガソリンに対する二酸化炭素税の引き上げと、ディーゼルに対するエネルギー税の引き上げに踏み切ることが、連立与党4党の党首の合意で決まったのだ。保守党は与党第一党という責任ある立場にあるため、方針の転換を余儀なくされたようだ。一方、キリスト教民主党のほうは「しぶしぶ」という態度を見せ、あくまでも「ガソリン税減税」に向けてこれからも努力する姿勢を続けた。

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しかし、そんなキリスト教民主党も昨年12月についに音を上げた。従来の公約はもはや追求できない。温暖化対策への取り組みに党として責任ある立場で参加するためには、ガソリン税減税ではなく、むしろ増税を行う必要がある、との結論に達し、これまでの方針を180度転換したのだった。

党の政策転換の鍵となったは、伸び悩む支持率という外的要因の他に、党内部の要因も大きかった。EU議会の議員をしておりEUの環境政策に詳しく、さらにはこれまで私が連載してきた「温暖化対策準備委員会」にキリスト教民主党の代表として加わっていたAnders Wijkmanという党員がいた。「委員会」で他党と足並みを揃えた活動を行っていくうえで、自党の環境プロフィールの弱さが大きな障害だと感じたようだ。それまでも温暖化対策に積極的だった彼は、ついに党首や党執行部を動かして、党全体の路線転換に成功したのだった。

そして、この結果、国政政党7党のすべてが、温暖化対策に積極的に取り組んでいく姿勢を見せることになったのである。「温暖化対策準備委員会」での合意達成が比較的容易である背景には、このような長~い経緯があったのです。

(終わり)

「温暖化対策準備委員会」(3)- 世論とメディア

2008-02-10 08:16:56 | スウェーデン・その他の環境政策
さて、日本であれば環境対策について国政政党すべての間で合意形成などしようとすれば、それぞれが自分たちの立場を主張し、議論が紛糾してまとまらないだろうに、スウェーデンでは、どうしてこうもラディカルな取り組みに関する合意が幅広くなされるのか?

日本と比べると驚くべきことに「環境問題、特に温暖化問題への対策は急を要する」という認識は与党(中道右派)にも野党(社民・環境・左党)にも広く共有されている。また、国民一般の側にも、メディア(テレビ・ラジオ・新聞など)における議論や専門家の意見などを通じて、温暖化問題が深刻な帰結をもたらしかねない、ということが広く認識されているようだ。

今回は、この世論について書き、次回、各政党の認識について書きたいと思う。

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温暖化問題を取り扱ったドキュメンタリー番組「Planeten」(スウェーデン・テレビ(SVT)の作成)が2006年終わりにテレビで放送されたり、また、アル・ゴア氏の映画上映もあったことにより、それまでは関心を持っていなかった人も何かしらの興味を持ち始めた。その後、メディアもニュースやさまざまな特集を組んで、このトピックを盛んに扱うようになった。

温暖化説に懐疑的な意見も、声が上がるたびに取り上げられ、ニュースや社会ディベート番組などで温暖化を懸念する人たちとの活発な議論が展開されたりはしたものの、様々な議論に耐えうる、強い説得力を持つ意見は稀なようだ。やはり科学的な根拠に基けば、人間の産業活動によって温暖化が引き起こされている可能性が非常に高く、積極的な対策が必要だ、という認識が現在では広く共有されているようだ。

日本では、この問題認識の段階ですら、少なからずの人が温暖化の進行や海面上昇、気候変動に対していまだに疑問を投げかけているようだ。新しい見方や、他の人とは違う斬新的な考えがメディアに取り上げられたり、本として発売されるのはいいことだと思うが、その説がきちんと吟味されないままに一人歩きし、それが鵜呑みされてしまうのは問題ではないかと思う。

まず、一人ひとりがいろいろな「説」を見聞きする段階で、ある程度、自分の頭の中で、論のつじつまや信憑性を考えて判断すべきだと思う。

ただ、もちろんほとんどの市民・国民は科学の専門家ではないので、それぞれの説の細部をしっかり吟味して、信憑性を判断できるわけではない。ならば、専門家の主張をある程度は鵜呑みしたり、受け売りしたりするのは、どこの国でも一緒ではないのか? スウェーデンにしたって、人々は温暖化問題を叫ぶ専門家の声を鵜呑みにしているだけではないか? と思われるかもしれない。

いや、そんな単純なことではない、と私は思う。

私はここでメディアの役割が重要になってくるのではないかと思う。つまり、ある新しい説が提唱されたり、新しい本が発売されたりして、話題になったときに、そのニュースだけを伝えたり、その新しい主張だけをタレ流すだけでなく、従来の定説を唱えている専門家とスタジオで議論させたり、一般の人からの疑問に答えさせたり、メディアが独自にその説の信憑性を検証したりすることで、意見の対立構造や、それぞれの意見の強さや弱さが多角的に分かる形で伝えるのだ。根拠に欠ける弱い意見であれば、そのような議論に耐えることはできず、次第に淘汰されていく。

スウェーデンでは、このようにメディアがある種の「フィルター」の役割を果たしながら、世論形成の土台を築いているように思う。「メディアにおける活発な議論が”det goda samhället”(良心的・良識的な社会)を築いていく」とある人が新聞のコラムに書いていたが、まさにこのことだと思う。

ともあれ、このようなプロセスを通じて、「温暖化対策は急を要する」という認識がスウェーデンでは広く共有されているようだ。(一方で、どのような方策を用いて温暖化対策を行うか、については意見が大きく食い違っている。)
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以上の結果、各政党も積極的な対策を打ち出さなければ、支持率を維持できない状況になっている。2006年秋に誕生した中道右派の現政権も、それまではあまり「環境政策」には熱心ではない、とは言われたものの、これを重要政策分野の一つに位置づけざるを得なくなっている(むしろ、他の政策分野で不評なので、環境政策分野でポイント稼ぎをしなければならない、という本音もあるのかもしれない)。

スウェーデンでも2006年の総選挙にキリスト教民主党「ガソリン税の切り下げ」を公約に掲げた。この公約で支持率が伸ばせる、という思惑があったようだが、選挙の結果は惨めなものだった。この政党の問題は他にもあったのだが、ガソリン税減税という「人気取り公約」に人々が見向きもしない、一つの象徴的な出来事だったと思う。(続く・・・)