第13場 野獣の邸
虎; ベル様とご主人様は日に日に打ち解けられ、穏やかに過ごしておられます。
♪ 私達は心から望みました ♪
獣達; ♪ ベル様がご主人様を どうか愛して下さるよう ♪
虎; だけど、ご主人様は。
獣達、野獣のいるほうをみやる。
虎; お気持ちを確かめない。
獣達、ため息。
虎; あんなに仲の良いお二人なのに。
獣達、鳴き声。ドレス姿のベルが出る。
ベルの声; あなた・・・あなた・・・どうしたの?みんな集まって。
ライオン; いえ、日向ぼっこです。
虎; ベル様、我々のご主人様が贈ったドレスですね。
ベル; そう、初めて着てみたの。どこなの?あなた・・というか・・
ジャガー; ご主人様はバラに水をやっておいでですよ。
チーター; 茂みごとに、名前を呼びながら世話をなさるのです。
ベル; バラにだって名前があるのに、あの人には・・みんなは?
虎; 我々ですか?
ベル; やっぱり名前がないの?
ミスターモンキー; ミスターモンキーです。
鹿; 鹿です。
ヒツジ; ヒツジです。
山猫; 山猫です。
ビーバー; ビーバーです。
ベル; ううん。種類じゃなくて、名前よ。
野兎; ♪ 昔は ♪
リス; ♪ ありました ♪
キツネ; ♪ 私達にも ♪
3人; ♪ 名前が ♪
虎、歌を止める。
ベル; どうして止めるの。
虎; いえ。
ベル; さみしいわ。みんな何か隠してる。
虎; いつか必ずお話できるときが。
ベル; いつかって?
獣達; ♪ それはベル様が ♪
虎、再び歌を止める。
ベル; 私?私がどうしたらいいの?虎さん、お願い、教えて。
野獣の声; ベル!
野獣が来る。
野獣; ベル、美しい人。そのドレス、着て下さったのですね。よくお似合いです。
何かあったのか?
獣達; ♪ いいえ何も ♪
獣達、去っていく。
ベル; みんな、気を遣ってくれる。でも昔の話になると黙り込んでしまう。あなたも。
野獣; 許してください。きっと私のせいです。
ベル; あなたのせい?
野獣; 私に勇気がないからです。
ベル; 勇気なら私だってない。
野獣; あなたはここへ来てくれました。これ以上の美しさ、気高さ。勇気がある
でしょうか。
ベル; 夢中だったの。それだけ・・ねえ、こうしましょう。私達、一緒に勇気を出しあうの。
野獣; 一緒に。
ベル; 一人では足りない勇気も、二人なら大丈夫かも。
勇気を出すため・・・まず、あなたから答えて。すきなものは?
野獣; ♪ 私はバラを愛しています ♪
ベル; どうして・
野獣; ♪ バラを育てる事は命を愛することです ♪
ベル; 命・・・
野獣; ♪ バラを愛する心を育てる事です ♪
ベル; 心・・・
野獣; ♪ 生まれたての赤ん坊のように バラは言葉を話しません
その言葉にならない声を聞き 花咲く日を信じて 育てるのです ♪
ベル; 言葉にならない声・・すごい、あなたには聞こえるのね。
野獣; ベル、あなたは何が好きですか?
ベル; ♪ 私は本を愛しています ♪
野獣; あなたらしい
ベル; 地味でしょ。
野獣; 少しも。
ベル; ♪ 本を読んでいると 想像がふくらんでゆくの 自分の知らない世界に
はばたいてゆける ♪
野獣; ♪ はばたきたい・・ ♪
ベル; ♪ はばたきたい ♪
二人; ♪ 見たことのない世界へ はばたこう はばたこう
勇気を出して 一人では 恐ろしくて 踏み出せない一歩も
二人なら 二人なら 歩いてゆける ♪
ベル; そう・・こんな風に。
二人、手をつないで踊る。獣達、遠くから見守る。
ベル;他に好きなものは・
野獣; 私はあなたを・・・
ベル; え
ベル、手を引っ込める。獣達、祈りのコーラス。
野獣; 気高いあなたに捧げる・・これが私の精一杯の勇気です。
♪ 私はあなたを愛しています あなたは私を・・・♪
ベル; 愛してはいません。聞いてください。バラを愛するあなたは優しく
立派な心を持っています。あなたが野獣でなかったと思うと、可哀相で
なりまぜん。でも愛する事と、可哀相に思う事はどうしても、どうしても
違うのです。怒ってしまいましたか?
野獣; 怒ってなんかいません。ベル、感謝します。あなたは私に勇気を
与えてくれた。そして正直に答えてくれた。ありがとう。
↓
第12場 野獣の邸
邸の階段の所でベルが野獣に本を読んでやっている。それをそっと覗き見る
獣達。
ミスターモンキー; いいぞいいぞ。あの二人。
虎; うまく行けばいいが。
ベル; (本を閉じて)はい、おしまい。面白かった?
野獣; ああ。
ベル; 私は毎日本さえあれば生きていけるけど、あなたにとってはバラなのね。
野獣; そうだ。毎日水をやり話しかけて育てている。
ベル; だからこんなに美しく咲くのね。どうしてバラがすきなの?
野獣; 母上が・・・残してくれたただ一つのものだから。見ていると思い出す気がする。
ベル; まあ、それなら本当に大切にしないと・・見て、赤や白や黄色。私はあそこの
ピンクが好きよ。
野獣; そんなに好きならここのバラ園をお前にあげよう。好きな色のバラで一杯に
すればいい。
ベル; そんな・・もらえないわ。だってこれはあなたにとって大切な・・
野獣; いいのだ。その・・・貰って・・欲しい。本を読んでくれたお礼だ。
ベル; ありがとう。あなたって優しいのね?
野獣; 優しい?私が?
小鳥達が美しいドレスを持ってくる。他の獣達も出てくる。
小鳥1; ♪ ベル様 これを着て 一生懸命つくりました ♪
ベル; なんて綺麗なドレス。これを私に?
虎; ご主人様からのプレゼントです。
ベル; どうしましょう。さっき、バラ園を貰ったばかりなのに。
野獣; 着てみるがいい。
ミスターモンキー; あーそのーご主様のいわんとしている事はですね。これを着た
ベル様とぜひダンスがしたいと・・そういうことなのでございます。
野獣; だ・・ダンスだと?
鹿; ご主人様。ここはいい所を見せなくては。
野獣; いや・・・しかし・・・・・
小鳥達; ♪ さあさあ早く 着替えてください ♪
ベル; そうね・・じゃあ、お言葉に甘えて。
ベル、小鳥達と下手に退場。
虎; ご主人様。ダンスをしたらベル様に告白を。
野獣; 告白?そんな事出来るか。
ミスターモンキー; ご主人様はオクテでいらっしゃるから・・・言わ猿です・・・
虎; ベル様のこと、お好きなんでしょう?
野獣; それはまあ・・好き・・・でも私はこんな姿だ。誰にも愛されるわけがない。
虎; ベル様ならきっとご主人様の本質を愛してくださいます。
野獣; 自信がないのだ。
野獣、銀橋に。
♪ 言葉では表せない 何もいえない
だから私はもの言えぬ動物のように 瞳で訴えるだけ
言葉などいらない 心さえあれば
だから私はもの言えぬ動物に なりたい
彼女を見上げ 愛と信頼のまなざしを向け合い
安らかにその膝の上で眠りたい 永遠に
失った幸せを思い出すような 彼女の笑顔
それだけでいい 言葉などいらない
もの言わぬ動物になって その膝の上で眠らせて 永遠に ♪
ベル、ドレスを着て登場。
ベル; どう?綺麗?
獣達、はやしたてる。野獣、本舞台に戻りベルを見つめる。目配せする虎たち。
野獣; 綺麗だ。すごく。
ベル; 嬉しい。
野獣; 私はダンスが・・苦手で・・・・
ベル; 私が教えるわ。さあ。一緒に踊りましょう。(獣達に)あなた達も。私に
ついてきて。
ベル、踊りだす。一緒に踊りだす野獣と獣達。やがてベルと野獣のデュエットになる。
暗転。