後藤和弘のブログ

写真付きで趣味の話や国際関係や日本の社会時評を毎日書いています。
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外国体験のいろいろ(44)アメリカの中小企業とベンチャー

2008年05月26日 | インポート

○独自の特許・技術

オハイオ州コロンバス市郊外にジーゲルコーンを世界中へ出荷している小さな会社があった。この商品は陶器やセラミックなどを高温で焼き固める時に炉内の温度を推定する角錐形の材料。その成分の配合によって先端が軟化し曲がるので炉内温度が計れる。コロンバス郊外のトウモロコシ畑の中に赤レンガの美しい平屋建て工場がゆったりと広がっている。社長のアメリカ人を何度か訪問し、共同研究の相談をした。

雑談の中で小生が聞く、「日本の中小企業は大会社傘下が多いが、この会社はどこの系列なのですか?」彼が答える、「アメリカの中小企業は大会社が持っていない独自技術や特許に基づいて、世界中で売れる商品を製造している。大会社とは一切関係ありません」「中小企業へは銀行が融資してくれないのが普通だと思うが、経営が難しくありませんか?」「アメリカでは独自の特許や技術を持って出荷している場合、特に担保物件が無くても投融資してくれます。独自性があれば企業は安泰なのです」

       ○発明者を敬う社会

アメリカの大学で働いていると、同僚のアメリカ人はよく特許の話をする。特許を取った研究者のうわさ話もよくする。日本の大学で特許の話をすると、金もうけ主義の誘惑に負けた学者として軽蔑されるのが普通であった。本物の学者は特許に関心を持ってはいけない。産学連携の重要性が叫ばれる昨今ではそうでもないが、十数年前までは大学内での特許の話は禁句であった。

以下、1990年ごろ、オハイオ州立大学でのアメリカ人教授とのやりとり。

「日本の大会社の技術者はやたらとアメリカ特許の申請書を出すが、中身が非常に薄い」「薄いとはどんな意味ですか?」「新製品を作るための新しい原理の発見ではなく、既にある技術の組み合わせで新製品を作るという、改良技術特許の性質のものが多い。これでは尊敬されない。従って特許が成立しないことが多い」「毎年、日本人の特許申請総数は世界でトップクラスだが、それでも尊敬されないのですか?」「内容が貧弱な特許は人騒がせに過ぎない。それが証拠に、日本が外国特許へ支払う額は外国から受け取る特許使用料の十倍ぐらいあるではないか」

       ○教育の改革が必要

アメリカのベンチャー企業の活躍は第二次大戦以前から普通であり、資本主義の根幹を成している。一方、日本のベンチャー企業は1990年ごろのバブル経済の崩壊を機に盛んになった。特にIT分野では、新しいビジネスモデルで情報サービスのベンチャーが急成長を続けている。日本にも担保なしで投資するベンチャーキャピタルが多くあり、起業資金を支援している。

最近は起業し、新しい技術シーズを実用化し、それを他の企業へ売るという達成目標の明快なベンチャーも増加している。このように、日本でも大会社と関係のない新しい形の中小企業が隆盛を極めつつあり、日本の資本主義もアメリカ型へと変化しつつある。しかし、製造業分野のベンチャーは相変わらず特許の国際競争力が貧弱な場合が多く、苦戦を強いられている。

独創的な基本特許を数多く取得するには、やはり小学校から大学までの教育内容を改革しなければならないと主張する人々も居る。しかし、それは東洋文化へ深く根を下ろしている側面もあり、一朝一夕に変革できるものではない。ベンチャー企業の隆盛を見て、日米の技術格差も小さくなったと思うのは早計も甚だしいのではないか。

(続く)


7 コメント

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本当にそうです! (高山)
2008-05-26 13:36:52
本当にそうです!
日本の教育が均質な分業式の労働力・戦闘力ロボットと良妻賢母を
生む装置である付けがまわってきています。

会社で、小さな改善を提案しても、前例が無いから、とか、素人の思いつきなんて、とか、職務時間中にこんな提案書書いているんじゃない、と言われました。

金属屋サンは道具に金属を使いたがるし、樹脂屋さん、ガラス屋サンもそうです。(当然ですが)

工場で使うトレイやカートが鉄製で重く、梱包の女子パートさんがつらいので、プラ製のに替えたら、と提案したら、現場にいない役職者たちは、予算がかかる、まだ使えるのに廃棄することは無い、とのことでした。

私怨に走ったコメント失礼致しました。
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ジーゲルコーンの材質は何でしょうか? (eri)
2008-05-26 17:37:27
ジーゲルコーンの材質は何でしょうか?
ドイツ語っぽいですね。

世の中にはいろいろな治具や工具がありますね

中国・漢学では辞書類を「工具書」とよぶのを学生のとき知りました。
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eri様 (藤山杜人)
2008-05-26 19:45:28
eri様
コメント有難うございます。
Siegel Korn というドイツ語です。Siegelという人が発明しました。
焼き物と同じような材質なので、焼き物が軟化して熔け出す温度になる前に
Siegel Korn の先端が軟化して曲がるので、温度管理に便利なものですね。
草々、藤山
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高山さん、 (藤山杜人)
2008-05-26 19:50:18
高山さん、
コメント有難う御座います。
日本の会社の体質は小生が現職の頃とさっぱり変わっていないのですね。
でもIT関連の中小企業はアメリカ流に合理的になっていますよ。
役職に関係なく談論風発、自由ですね。
高山さんの会社は大会社で保守的なのでしょうか?
ご賛成して頂いて、有難う御座いました。
敬具、藤山
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ご同情ありがとうございます。 (高山)
2008-05-27 15:12:40
ご同情ありがとうございます。
転職いたしました。Hahhaha
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高山さん、 (藤山杜人)
2008-05-28 10:32:22
高山さん、
ご転職は、気分一新、人生の新しい局面を開きますね。
小生も定年後に小さな会社を転職して、それぞれの経験が
面白かったです。
会社も色々で人生勉強になりました。
コメント有難う御座いました。
敬具、藤山
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ジーゲルコーンのご説明どうも有り難うございました。 (eri)
2008-05-29 00:27:08
ジーゲルコーンのご説明どうも有り難うございました。

素朴でラブリーな治具ですね。成分は秘法があるのでしょうが。
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