ある日、知らない名前のフランス人から突然のメールが来ることは、何度か経験済みである。
このカップルもそうであった。
この一年前に、パッケージツアーでご主人がお母さんと初来日したときに、興福寺近くで出会ったらしい。”らしい”というのは、私の記憶からまったく消えていたからだ。
そのグループの何人かとアドレスを交換し、その彼等の帰国直後からメール交換が始まった人がほとんどだが、彼らは何と一年後にコンタクトを取ってきたものだから忘れていてもこれは仕方がないというものだ。
奥さんと二人の写真が添付されていたが、もちろん覚えていない。
彼によると、すっかり日本が好きになり、今度は奥さんと個人旅行をするということで、出来れば私に会いたいということだった。
そのパッケージツアーで一緒だった、迷い子になったクリスチャンとずっと連絡を取っていることを聞いたのだろう。
「喜んで会いましょう」とメールをしたら、「やっぱり思った通りいい人だ」と返事が来た。
彼らは、奈良では、老舗旅館・観鹿荘に予約を入れていた。
倹約家のフランス人が多いので、レアケースだ。
二週間余りの日程には、富士登山も含まれていて、成田到着以降、何度かメールや電話があり、レンタカーも予約していたので、うまくJRとレンタカーを組み合わせ、順調に旅を楽しんでいるようであることが伺えた。
そして、JR奈良駅で会うことにした。夕刻の到着であった。とてもラフな、いでたちの二人である。スポーツウェアのような生地でできているもので、何と言うのかわからない。
しかもフランス人らしからぬ?ペアルックである。
そしてまずは、旅館へ向かった。
さすがに老舗旅館、もと東大寺の塔頭と言うこともあり、古いけれどとても趣がある。
夕刻到着の彼らは、「一緒に食事をしたい」と言ったが、とにかく旅館は料理旅館としても有名である。
突然、一緒に食べられるはずもない。しかも値段も一流のはずだ。
ではお茶でもと外に行こうとしたら、女将さんが「お茶を飲むなら、どうぞここで」と、何と別の部屋を用意してくださり、普通のお茶かと思いきや、お抹茶とお菓子を用意して下さったのだ。
もちろん私の分もである。