ブルゴーニュで2泊した翌日、午前中ムッシュはボーヌのマスタード工場の見学に連れて行ってくれた。
マスタードと言えばディジョンを思い浮かべるくらいブルゴーニュの名産の一つである。
これで着いてから3日目だが、とにかく連日ムッシュは計画的にベストコースを調べておいてくれたのだった。
マスタードの工場見学は、着いてからすぐに予約し、定刻になって再び受付に行き、私達の外20人くらいはいたと思うが、その人たちと一緒中に入った。
中に入ると説明があり、その後自分ですり鉢で「からし」をすりつぶし、作ってみる体験があり、その後製造用の古い機械などの展示を見た。
最後には小さなびん詰をいくつかいただいたが、売店でもそこの工場で出来た物が売られており、沢山の種類の風味を試したく、少し買って見た。
見学を終り、そのあとランチのため、これまたムッシュが調べておいてくれたレストランに行った。
昨日のレストランより少し格は落ちるようだったが、ご当地料理の「カエル」や「エスカルゴ」を食べた。
しかし参ったのは「鶏の赤ワイン煮」だった。これはもう小さいバケツみたいな鍋(実はル・クルーゼなのだが)にドカンと来た。だが残念ながら鶏は味が出てしまい「スカスカ」だった。
これだけは、はっきり言って美味しくなかった。
しかしこのレストランは、価格はそんなに高くないのに「もう堪忍して」と言うほど料理が出てきた。要するに「田舎料理」で「田舎価格」だった。
ここでムッシュがある芝居をした。
彼は最初ブルゴーニュの赤ワインを頼んだ。少し飲んでいたころギャルソンがワインはどうですか?と聞きに来た。その時ムッシュは「これはちょっと?」と言ったのだ。
しばらくするとオーナーがやってきて「美味しくないのかい?」と聞きに来た。
ムッシュは「美味しくないことはないけど・・・うーん」と言うとオーナーは「それなら代わりを持ってくる!!」と急いで中に入って行った。
オーナーが消えると、ムッシュは机の下でこぶしを作り、「やったー」と言うポーズをした。
やがてオーナーは、新しいワインを持ってきた。
持ってきたのはハーフボトルだったけれど、今度はオーナーの自信あるワインである。ムッシュはこれを美味しく喜んで飲んだことは言うまでもない。
実は最初のワインが良くなかったわけではないのだが、ムッシュは一芝居打って、上等のワインにありついたというわけだった。
田舎のレストランのオーナーの自尊心をうまく利用したとも言える芝居に、少しばかりオーナーに申し訳ない気もしたが、まあこれもフランス流コミュニケーションとしよう。