阪口直人の「心にかける橋」

衆議院議員としての政治活動や、専門分野の平和構築活動、また、趣味や日常生活についてもメッセージを発信します。

自分の頭で考え行動することの大切さ-メルケル首相とドイツの姪っ子から学ぶ

2020年05月20日 22時14分15秒 | 政治
 検察に対する内閣の不当な力の行使を可能にする検察庁法の改正を断念させたことは、日本の政治、そして市民社会にとって大きな転換点になると思う。法治国家としての日本をさらに危うくするこの法案に対し、700万人がツイッターを通して異議申し立てをすることで実際に政治が変わった。政治は自分たちの手で変えられるとの手応えを得たことは健全な民主主義を取り戻すための大きな一歩だ。

 「国民のみなさまのご理解なくして、前に進めていくことはできないと考える」と安倍総理は会見で述べた。本当にそう思っているのであれば、これまで数の力で強引に法案通してきたことや、様々な疑惑に対して改ざんや隠ぺいを行ってきたことと矛盾する。このまま法案を通したら支持率が大変になると考え、通さないことで失うことと天秤にかけて先延ばしをした」だけだと私は思う。

 これまで、支持率が高い時も低い時も、不支持の理由を見ていると、『安倍総理の人柄が信用できない』がいつもダントツのトップであり、支持の理由としては『他に適当な人がいない』が圧倒的に多い。消極的に選択している人が極めて多いにもかかわらず長期政権が続いているのだ。もちろん、その大きな理由は国民の選択肢として十分な信頼を得ていない我々野党にあることは言うまでもない。

 コロナ危機に際して、安倍総理は何度か記者会見を行った。時に自分の言葉に酔っているようにも見えたが、それは私たちの心に響く言葉だっただろうか?こんな時でさえも自分の言葉で語ることができず、プロンプター、つまりカンニングペーパーを見ながら官僚の作文を自分の言葉のように見せかけていることは多くの人がお見通しだったと思う。

 検察庁法の改正への抗議の輪が広がった大きな理由は、これまで、生活者のリアリティーと乖離した安倍総理の言葉、誠意のない上っ面の説明に対して、同調圧力を感じ異議申し立てを躊躇していた人々の変化だ。コロナ対策で安倍政権の本質がハッキリ見えた一方で、なお、自分たちの都合のいいように物事を進めようとしていることへの不信感が一気に高まった。これ以上、保身のために法律、そして政治をねじ曲げることは許さないという怒り。これまで、様々な局面で国民の疑惑をはぐらかしたり、騙してきたことの記憶と相まって不信感がいわば臨界点に達したのが今の状況だと思う。

 リーダーの言葉として、メルケル首相が新型コロナウイルスの緊急事態制限を出した時の言葉には別格の重みを感じる。

「旅行や移動の自由が苦労して勝ち取った権利である私のようなものにとって、このような制限は絶対的に必要な場合のみ正当化される。民主主義社会において軽々しく決められるべきではないが、命を救うために不可欠なのです」

 東ドイツで育ったメルケル首相だからこその重みのある言葉だと思う。

 私は2012年11月、国際会議でドイツに行った際、連邦首相府でメルケル首相に会って、EUのリーダーとしてのドイツの役割について話を聞いたことがある。その時も明快に、自分の言葉で説明する姿に感銘を受けた。

 私の妹はドイツで環境工学の研究者をしていて、ドイツ人パイロットとの間に生まれた姪っ子たちは現地で教育を受けている。「直人おじさん、政治の話しよ!」と、よく政治的議論を吹っ掛けられる。

 姪っ子は12歳だった2015年、メルケル首相がシリアなどからの難民を受け入れる決断をしたことには前向きな考えだった。バスケットボールを楽しんでいる体育館が使えなくなったり、治安の悪化など様々な懸念もある中で、この問題とどう向き合うのか、みんなで議論して答えを出そうと先生が提案して、全員で考えたそうだ。

 「ドイツはナチスの時に周辺の国に迷惑をかけたし、ドイツの経済や社会も、移民の人たちの力で支えられている。そんな人たちが困った時に助けるのは私たちの使命だと思う」姪っ子はこのような考えを述べてみんなを説得したそうだ。

 私の考えをみんなも理解してくれたよ!と輝いた顔で報告してくれた姪っ子を見て、『自分の頭で考えること』こそ、教育の最大の目的のひとつだと強く思った。

 自分の頭で考え行動できる国民と、自分の言葉で説明できるリーダーの存在は民主主義社会においては不可欠だと思う。そして、今回、検察庁法の改正を今国会での成立断念に追い込んだことで少し光が見えてきたとも思う。普通の人々が自分の頭で考え、同調圧力に屈せず行動につなげることで見えた光。これをもっと大きなものにする上で、私たちの役割は大きいと身が引き締まる思いだ。