子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「WAVES/ウェイヴス」:あらゆる技巧を尽くして描かれる「今」

2020年07月25日 11時09分46秒 | 映画(新作レヴュー)
NETFLIXの配信で観たスパイク・リーの新作「Da 5 Bloods」は,ヴェトナム戦争で多くの黒人兵士が亡くなった歴史と,今の黒人が置かれている状況を,「宝探し」というフォーマットとマーヴィン・ゲイで繋ぐ,怒りに満ちた見事な作品だった。「ブラック・クランズマン」で華麗に復活したリーのテンションは,「BLACK LIVES MATTER」運動の大きなうねりの中で,今もまだ高く保たれているようだ。
トレイ・エドワード=シュルツの「WAVES/ウェイヴス」もまた,今のアメリカ社会における黒人の姿に迫った力作だが,リーよりも30歳以上離れた世代が取ったアプローチは,先達とはまたひと味違う結果を生み出した。

高校レスリングの有力選手であるタイラーは,大学入学のための大事な時期に選手生命を絶たれる怪我を負っていることを医師から告げられる。同じ時,恋人から妊娠を告げられたタイラーは,自暴自棄になった挙げ句に,誤って恋人を死なせてしまう。その事件の1年後,殺人者の妹というレッテルを貼られ,心を閉ざした妹のエミリーの前に白人のルークが現れる。二人はやがて愛し合うようになるが,ルークもまた生い立ちに暗い過去を背負っていた。

兄テイラーが主役の前半と,妹エミリーがフィーチャーされる後半と,物語は完全に二部構成を取っているが,話題のプロダクションA24の作品らしく,どの映像もエッジが効いていて,あらゆるショットが「フォトジェニック」だ。途中で何度も画面の大きさを変えるだけでなく,役者の台詞を極力少なくして,チャットの言葉をそのまま見せたり,随所でかかる様々な曲の歌詞に人物の気持ちを代弁させたりといった工夫が,作品のフレーム自体をも柔軟なものに仕立てている。

そんな文体上の工夫はあるものの,脚本が決定的に弱い。テイラーとエミリーの葛藤の物語に加えて描かれる,強権的な父と息子の関係や,継母の家族に対する想い,更にはルークの幼少期におけるトラウマの解決といったサブ・プロットが深みを欠き,取って付けたような感じを免れない。いずれのエピソードも作品の厚みを増す役割を果たせず,兄妹の苦難の物語を強化する方向に作用していないのだ。

とは言え,大先輩リーの諸作品と違って,黒人アーティストの作品に拘らない楽曲の選定に関しては,所謂「ブラック・ムービー」のくびきを逃れて,新しい可能性を示している。
「これ,ブラッド・オレンジ?」「いや,アニマル・コレクティヴさ」というやり取りに滲み出る,肌の色にとらわれない感覚には,これから新しい「ブラック・ムービー」が産み出されていくであろう胎動の音が間違いなく宿っている。A24ブランド,やはりただ者ではないようだ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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