子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「かぐや姫の物語」:クリエイターの野望とビジネスのバランス

2014年01月05日 22時45分08秒 | 映画(新作レヴュー)
制作費50億円という宣伝文句をどこかで目にした。制作にあたって特に新しい技術を開発するということがなければ,アニメーションの場合の制作費は,限りなく≒人件費なのではないかと思料される。
声優のギャラもかなりの額に昇るのかもしれないが,一旦人件費≒アニメーターの給料と考えてみると,大雑把に年収500万円の技術者が延べ1,000人動員された勘定になる。
仮に実質的な制作期間を3年としても,1年あたり300人以上の人が,たった一人のクリエイター,しかも実際には絵を描かずに言葉でイメージを伝えようとする監督の意図に沿って,ひたすら絵を描き続ける。一般的な組織の仕事のやり方を考えてみても,やはりこれは凄いことだ,と唸らざるを得ない。

月から来たひとりの女性が,老夫婦に愛情を込めて育てられ,美しく成長するのだが,地球のリアルな社会生活の過酷さに音を上げてしまう。皮肉なことに,故郷に向かって助けを呼んだその瞬間に,自分に与えられた本当のミッションに気付く。
実にシンプルな筋を持つ古典なのだが,制作に関わったスタッフにとって,高畑勲監督のヴィジョンを具体的に形にしていく作業とかぐや姫が経験した厳しい現実とが,次第に重なっていったであろうことは,想像に難くない。

だがその苦労は報われた。声優の声を先に録音して,絵を後から付けていくという制作方法(高畑作品では過去にもあったのかもしれないが)は,作品のクオリティに大きく寄与している。
ヒロインを演じた朝倉あきの清々しさは,「風立ちぬ」の主人公の声に最後までまとわりついた違和感の対極に位置していた。
ターゲットの絞り込みが難しかったであろう本作の興行収入が,「風立ちぬ」に遠く及ばないことは致し方ないが,例えば陽気な音楽と相まって,小さな子供にとってはトラウマと化すに違いない,月からかぐやを奪還しに飛来する小隊の,得体の知れない佇まい一つ取っても,充分に攻撃的なチャレンジだと断言できる出来映えだ。これを観て,宮崎駿がどう思ったのか,是非とも聞いてみたい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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