子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

講演会「映画監督 濱口竜介」(映画へと導く映画)

2021年11月27日 15時03分41秒 | Weblog
札幌文化芸術劇場hitaruの企画「映画へと導く映画」のVol.5が,「ドライブ・マイ・カー」と「偶然と想像」で話題の濱口竜介監督を招いて,創世スクエア3階のScartsで開かれた。このひとつ前の回は「私をくいとめて」で「のん。」の本格復帰を飾った大九(おおく)明子監督をゲストに開催されていたようだが(結果的に翌年に延期),今や世界的にも話題の濱口監督を口説いた企画の妙とそれに応えて忙しい中来札された濱口監督には心からの拍手を送りたい。

講演会に先だってハワード・ホークスの「赤い河」とジャック・ベッケルの「エストラパード街」の上映が行われた。
監督の講演では「赤い河」に関して,キャトルドライブ(牛の移動)が常に上手(観客席から見て画面の右側)から下手へ,という方向でほぼ統一されている中で,クライマックスとなる牛の暴走=スタンピードが逆方向で撮られていることの妙が強調されていた。そんな「動きの方向性」については,「ドライブ・マイ・カー」でも強く意識していた,と語っていた監督は,これまでDVDでしか観てこなかったこの「赤い河」を,渋谷のシネマヴェーラで観た時に「これこそ大画面で観るべき映画だ,と思った」とのこと。そんな作品を今回同劇場が提供してくれた,ということで,今回の企画が成立した裏に存在した,貴重な映像文化を後世に残していかなくてはならない,という映画を愛する関係者同志の,執念のネットワークのようなものもまた会場全体で共有されていたように感じた。

更に「穴」しか観たことがなかったジャック・ベッケルが,まさかヌーヴェルヴァーグ前夜にこんな歪な恋愛喜劇を撮っているとは思わなかった「エストラパード街」も実に新鮮な映像体験だった。主人公の女性が引っ越した先の怪しい住民コンビが何処からどう見てもガブリエル・バーンとジョン・タトゥーロにしか見えなくて困っているうちに,ヒロインであるフランソワーズ役のアンヌ・ヴェルノンの開放的な艶っぽさにノックアウトされるという嬉しい驚きは,監督が強調していた「ハリウッド,とりわけD.W.グリフィスが確立した自然な映像のつなぎ」に魅了されたフランス特有の技術継承故だったに違いない。

貴重なスクリーンでの上映2本と講演。しめて2,500円というのは,勤労感謝の日に相応しいプレゼントだった。好企画の継続を,強く望む。


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