子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「レ・ミゼラブル」:みんな歌上手。でもなぁ…

2013年03月16日 13時29分12秒 | 映画(新作レヴュー)
ミュージカル史上の金字塔と言われた演劇の映画化で,監督は「英国王のスピーチ」でアカデミー賞監督賞を受賞したトム・フーパー。ヒュー・ジャックマンとラッセル・クロウを始めとする(こう書くのも気恥ずかしい単語ではあるが)オールスターキャストが集結し,今年のアカデミー賞では,身体を張って我が子を守り抜く母親役を熱演したアン・ハサウェイが最優秀助演女優賞を受賞,と来ると,否が応でも「巨人,大鵬,卵焼き」的な王道感が濃厚に漂ってくる。
そんな鑑賞前の予感は,ものの見事に的中する。「堂々たる」作品にありがちな「みなのもの,ひれ伏すように」という威圧感はさほど感じさせないものの,こちらの琴線をつついてくるような切り込みは皆無。私とトム・フーパーとの相性は,輝くような瞳のアマンダ・セイフライドの勢いを借りてもなお改善されなかったようだ。

出てくる俳優の歌唱は,みな驚くほどレヴェルが高い。冒頭のヒュー・ジャックマンの歌声は,CGで構築されたと思しき精緻で巨大な造船所のセットをも揺るがすような迫力がある。ラッセル・クロウの低音,哀感たっぷりに母親を演じるアン・ハサウェイの涙声は,アフレコではないということがにわかには信じられないほどの安定感を誇っている。
キャスティング時にある程度の歌唱力が条件とされていたとしても,キャラクターと新鮮度のバランスが最優先されたであろう出演者全員の歌唱が,ここまで本格的なミュージカルとなることは想像できなかった。

にも拘わらず,作品自体はその柄の大きさに反比例して,極めて退屈な出来上がりだ。
薄幸の少女を育てる元囚人ジャン・バルジャン(ジャックマン)とジャベール(クロウ)の追跡アクション劇として割り切って描くならまだしも,途中から若者の革命ドラマが乱入してくるに至って,物語は芯を外れて迷走する。
特に終盤は,コゼット(セイフライド)と恋に落ちるマリウス(エディ・レッドメイン)ら若者たちが,命を賭して体制と闘うロマンティックな政治劇の様相を呈していく。しかし一方で物語の重心はふたりの恋愛劇に移ってしまい,闘争に到った背景の描写がおざなりになっているため,若者たちの死体が画面から溢れるという怒濤の展開が,如何にも取って付けたものにしか映らないという結果を招いてしまっている。

本来ならコメディ・パートを担うはずのヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエンという,長い名前コンビの夫婦は,アドリブを禁じられたのが徒となったのか,一本調子の作品を救う天使にはなれず,画面の隅で燻ったままだ。
19世紀のパリを再現した街角のセットのみ,リアルな迫力で記憶に残る,というのが端的な印象だ。多分,メイキングの方が(あればだが)数倍面白いはず。
★★
(★★★★★が最高)


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