シーズンものの連続ドラマが二桁の視聴率を叩き出せば「大ヒット」と言われるこの時代にあって,平均視聴率が20%をキープし続ける,というのはやはりとてつもないことだ。
フジテレビ月9の制作陣からすると信じられないくらい高いそんなハードルを,NHK朝の連続ドラマ平成28年度後期の「べっぴんさん」は,いとも簡単にクリアしているように見える。
視聴率という数字だけを見ると,服飾メーカー「ファミリア」の成功物語を下敷きにして,創業者4名の女性の頭文字を冠したブランド「キアリス」の起業と,それに関わった家族の物語は,毎朝観続けたいと視聴者に思わせる水準を保ち続けているということになるのだろう。
しかし,テレビに直接繋いだHDに録画できるようになってから朝ドラを観始めた「朝ドラ初心者」の私が言うのも憚られるが,今の「べっぴんさん」はまるで「普通のドラマ」の面白さを追求することを諦め,「メタ・ドラマ」とも呼ぶべき境地を目指しているようにしか見えない。
つまり渡辺千穗と3人の演出陣は,普通のドラマをちゃんと語るということに,まるで関心がなかったのだ。
だから,臨終間際で昏睡を続ける病人の廻りに大勢でお膳を持ち込み,飲み食いする,というシュールな場面が現出しても,少しもおかしくはないのかもしれない。
デパートへの出展が成功し,そこそこ儲かっているはずなのに,経理を手伝う創業者の夫たち(平岡祐太,田中要次)が,いつまでも自前の机をあてがわれないままに,社長の机の端っこを使って帳簿をつけ続ける,というチマチマした労働環境が描出されても,驚くにはあたらない。
五月(久保田紗友)を励まそうと,自宅出産のための陣痛室に,出産の先輩たちが4人も5人も入り込んで,大声で応援するのも自然。
どう見ても中学生にしか見えないさくら(井頭愛海)が,終始ニュアンスというものをまったく感じさせない表情のまま,男を追って「東京に行く」と家出を宣言するのも普通。
天下の大デパート大急の社長(伊武雅刀)の前で,新興アパレルの社長がズボンのポケットに手を突っ込むのも,アイビーの流儀なので許してね。
主人公すみれ(芳根京子)の夫(永山絢斗)が,妻に相談もせず働いていた会社を辞め,いきなり「キアリスの経理を見ることにする!」と宣言するのも自然の成り行き。
ドラマの進行に沿ってあちこちに蒔いたタネの回収にも興味がないのか,大急でのビジネス展開は完全に忘れ去られてしまったようだ。
更には足立部長の明美ちゃんへのプロポーズ,五十八と兄の長太郎の確執(五十八さん,死んじゃいましたけど),新入社員の採用ミスに関する紀夫さんの責任,君枝ちゃんの健康問題,更には義母いしのようことの嫁姑問題。将来的な火種になりそうに見せかけておいたエピソードが,ことごとく宙に浮いたまま,紀夫さんがヨーソローでの自分の登場場面で発した「お母さんだけじゃないぞ,お父さんも来たんだぞ!」と自己紹介するという,ドラマ史上最高の破壊力を持った台詞によって粉々にされるのを,私は呆然と見送るだけだった。
もともとスタート時点からの,暗く,のろく,べったりとしたテンポが,お仕事ドラマに求められるスピーディーさや軽快さとは正反対のベクトルだな,と感じてはいた。
しかし,そもそもベースとなるブランド成功譚があったからと言って,「お仕事ドラマ」とは限らなかったのだ。そこにもっと早く気付くべきだったのだ。私は浅かった。
このシュールな世界観,最後まで笑って観続けられるかどうか,もはや私にその自信はない。
「表参道高校合唱部!」で見せた芳根京子の豊かな感受性が踏みつぶされないことを願って,☆ひとつ追加。
★☆
(★★★★★が最高)
フジテレビ月9の制作陣からすると信じられないくらい高いそんなハードルを,NHK朝の連続ドラマ平成28年度後期の「べっぴんさん」は,いとも簡単にクリアしているように見える。
視聴率という数字だけを見ると,服飾メーカー「ファミリア」の成功物語を下敷きにして,創業者4名の女性の頭文字を冠したブランド「キアリス」の起業と,それに関わった家族の物語は,毎朝観続けたいと視聴者に思わせる水準を保ち続けているということになるのだろう。
しかし,テレビに直接繋いだHDに録画できるようになってから朝ドラを観始めた「朝ドラ初心者」の私が言うのも憚られるが,今の「べっぴんさん」はまるで「普通のドラマ」の面白さを追求することを諦め,「メタ・ドラマ」とも呼ぶべき境地を目指しているようにしか見えない。
つまり渡辺千穗と3人の演出陣は,普通のドラマをちゃんと語るということに,まるで関心がなかったのだ。
だから,臨終間際で昏睡を続ける病人の廻りに大勢でお膳を持ち込み,飲み食いする,というシュールな場面が現出しても,少しもおかしくはないのかもしれない。
デパートへの出展が成功し,そこそこ儲かっているはずなのに,経理を手伝う創業者の夫たち(平岡祐太,田中要次)が,いつまでも自前の机をあてがわれないままに,社長の机の端っこを使って帳簿をつけ続ける,というチマチマした労働環境が描出されても,驚くにはあたらない。
五月(久保田紗友)を励まそうと,自宅出産のための陣痛室に,出産の先輩たちが4人も5人も入り込んで,大声で応援するのも自然。
どう見ても中学生にしか見えないさくら(井頭愛海)が,終始ニュアンスというものをまったく感じさせない表情のまま,男を追って「東京に行く」と家出を宣言するのも普通。
天下の大デパート大急の社長(伊武雅刀)の前で,新興アパレルの社長がズボンのポケットに手を突っ込むのも,アイビーの流儀なので許してね。
主人公すみれ(芳根京子)の夫(永山絢斗)が,妻に相談もせず働いていた会社を辞め,いきなり「キアリスの経理を見ることにする!」と宣言するのも自然の成り行き。
ドラマの進行に沿ってあちこちに蒔いたタネの回収にも興味がないのか,大急でのビジネス展開は完全に忘れ去られてしまったようだ。
更には足立部長の明美ちゃんへのプロポーズ,五十八と兄の長太郎の確執(五十八さん,死んじゃいましたけど),新入社員の採用ミスに関する紀夫さんの責任,君枝ちゃんの健康問題,更には義母いしのようことの嫁姑問題。将来的な火種になりそうに見せかけておいたエピソードが,ことごとく宙に浮いたまま,紀夫さんがヨーソローでの自分の登場場面で発した「お母さんだけじゃないぞ,お父さんも来たんだぞ!」と自己紹介するという,ドラマ史上最高の破壊力を持った台詞によって粉々にされるのを,私は呆然と見送るだけだった。
もともとスタート時点からの,暗く,のろく,べったりとしたテンポが,お仕事ドラマに求められるスピーディーさや軽快さとは正反対のベクトルだな,と感じてはいた。
しかし,そもそもベースとなるブランド成功譚があったからと言って,「お仕事ドラマ」とは限らなかったのだ。そこにもっと早く気付くべきだったのだ。私は浅かった。
このシュールな世界観,最後まで笑って観続けられるかどうか,もはや私にその自信はない。
「表参道高校合唱部!」で見せた芳根京子の豊かな感受性が踏みつぶされないことを願って,☆ひとつ追加。
★☆
(★★★★★が最高)