子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」:こじらせ中学生のサバイバル日記

2019年12月14日 11時30分33秒 | 映画(新作レヴュー)
毎週金曜日の朝日新聞夕刊に掲載されている朝井リョウの小説「スター」は,大学時代に映研でつるんでいた二人のクリエイターが,片やオーセンティックな映画監督を目指す道へ,もう一人はYouTubeに代表されるネット動画の世界へ,という対照的な道を歩いて行く姿を描いた青春小説だが,YouTube系動画にまったくもって接点を持たない身としては,どうしても「ザ・監督」を目指す方を応援したくなってしまう。登場人物の心理描写に最も相応しいカメラのフレームワークはどれか?ということについて,現場で熱い議論が交わされる。そんなこじれた人々の面倒くさい仕事にこそ,神は微笑むはず,という神話を信じたい私だけに,ユーチューバー出身の映画監督が撮ったと聞いて,一瞬「エイス・グレイド 世界でいちばんクールな私へ」を観ることを躊躇ってしまった。けれども,ここで描かれているケイラの恥ずかしい日々は,そんなこじれた人々でなくては炙り出せなかったであろう,リアルなどんくさい青春,そのものだった。出自ですべてを決めつけてしまうことは,世界を狭めることに改めて気付かされて反省しきりの初冬なり。

中学の最上級生になって,全校一の「無口賞」を受賞してしまったケイラは,シングルファーザーに育てられ,イケてる同級生に「グッジョブ」と小声で祝福の声を贈る内気な少女。けれども彼女は,ネットに人生を指南する金言を披露する姿をネットにアップし続ける,という「裏の顔」も持っていた。そんな彼女が,イケてる同級生の母から自宅のプール開き(なんともアメリカ)に招待される羽目に陥る。果たして彼女はどう振る舞うのか?

言ってしまえば,クラスのウォールフラワー的な地味系女子が,自尊心を失わずにどうやって生き延びていくか,というどこにでもある青春映画の定番プロットをなぞった作品なのだが,主演のエルシー(ぽっちゃり)フィッシャーの佇まいが素晴らしい。煌めきグループへの憧れはあるものの,一方で自分はネットに生きるベースを持っている,という自尊心も覗かせながら,足をもつらせつつ一歩一歩前へ進んでいこうとする姿には,観客を皆サポーターにつけてしまう魅力が宿っている。
一歩間違えば危うい領域に踏み込んでしまいそうな父親に,魅力的な高校生メンターなど,脇も充実している。無理して大嫌いなバナナを飲み込んで思わず吐き出す場面では,私も吹き出した。
嫌なものは嫌。すべての地味系若者の背中を押す応援団の仲間に,私も入れてほしい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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