子供はかまってくれない

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映画「アバター」:「ナウシカ」から四半世紀かかって到達した高み

2010年01月09日 13時33分03秒 | 映画(新作レヴュー)
先日,史上最速で全世界の興行収入が10億ドル(約920億円)に達したことが報道された,ジェームズ・キャメロン12年振りの監督作品。有名な俳優は殆ど出ておらず,人間対異星人の闘いをCGを駆使して描く,という情報以外,内容に関してはベールに包まれた状態での公開となったが,正直驚いた。おそらくはチャレンジしながらステップを上がっていったと思われる映像技術と,自然と異星人が共存しているユートピアに関する想像力を,シンプルかつ力強い物語に束ねていったキャメロン監督の手腕は,明らかに「タイタニック」のレヴェルを越えている。映像に関する溢れるような情熱は,いくつかのTVシリーズにおいて蕩尽されただけではなかったようだ。

自然に生かされている事を知っている異星人(現地人)と,そこに侵略し略奪しようとする人間の対立,という物語のベースは,宮崎駿の「風の谷のナウシカ」であり「もののけ姫」そのものとも言える。特に森とそこに住む生き物を知る(クラゲのような)妖精の存在や,目を瞠るような終盤の戦闘シーンにおける決着の付け方などは,両作品のエッセンスをそのまま持ち込んだのでは,と感じるほどだ。

だが肝心の映像の方は,正に作家の執念の結晶と呼ぶべき強い訴求力を獲得している。
ほぼ全編がモーション・キャプチャーを駆使したCG映像であり,本来ならば「アニメーション」にカテゴライズされてもおかしくない作品なのだが,始まってすぐにそういった些末な情報は意識から飛んでしまう。
登場人物も含めて,映像のフォーマットをほぼ全てCGに統一した理由についてキャメロン監督は「(実写映像との)合成が難しかったから」と語っていたが,その豊かな色彩と触感は,SF映画というジャンルを超えて,真に新しい映像体験と言えるようなところに到達していると感じた。

不死身のヒロイン,シガニー・ウィーヴァーを起用しながら途中であっさりと退場させたかと思えば,ラストの対決シーンを敵味方を逆にして再現させてみたりと,自身が監督した「エイリアン2」を使い倒しているが,もっと巧みに援用したのは前作「タイタニック」のクライマックス・シーンの方だろう。
人類が作った巨大な営造物タイタニック号が,最初の航海で脆くも海中に没する姿を,リアルに再現したシーン。それをキャメロンは,今作の生態系の中心に位置する巨木を,その根元に眠る鉱物を狙った人間が打ち倒すシーンにぴたりと重ね合わせることによって,凄まじい迫力と悲壮感を産み出した。既に巨万の富を手にしている筈のキャメロンだが,金持ちほどものを無駄にせずに使い切る,と言う教訓が透けて見えるようで,ただただ降参。
3D版も観ておくべきか,という気にさせる2時間42分。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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