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映画「人生はビギナーズ」:祝!クリストファー・プラマー,オスカー最高齢受賞!

2012年03月04日 12時30分52秒 | 映画(新作レヴュー)
妻を亡くしたのち75歳にして初めて,息子に自分がゲイであることを打ち明け,若い恋人を作りながらも病に倒れる父親。そんな父に対する複雑な思い,そしてゲイであることを知りながら父と結婚した母親への思いを,父の死後も引きずりながら,出会った女性との関係を上手く結べない息子。
チラシには淡々と『本作の監督のプライヴェート・ストーリーを映画化』と書かれていたが,マイク・ミルズの監督作品である「人生はビギナーズ」は,3人の芸達者の素晴らしいパフォーマンスとミルズの卓越した構成力によって,屈折した思いを映画という形にすることで昇華させる,というプライヴェートな行為以上のものになっている。

人間はその人生で起こることすべてに対して常に「Biginners」である,という原題通り,主要キャストの3人は表情の何処かに暗い不安の影を宿している。
主人公(ユアン・マクレガー)は,恋人となった女性(メラニー・ロラン)に対して,どこまで深くコンタクト「すべき」なのか,否「したい」と思っているのか自分でもよく分からずに揺れ動き,金縛り状態に陥る。そんな主人公は,内なる自分の「自然」に向き合おうと決心して開き直ったように見えた父親(クリストファー・プラマー)ですら,オープンにした自分が果たして新しいコミュニティーに入っていけるのかどうなのか思い悩んでいたことを,父の遺品の中にあった恋人募集のためのシートから知る。
そんな設定だけを書き連ねれば,重くウェットな作品を想像するが,ミルズは現在と父親がカミングアウトをしてから死ぬまでの期間,そして主人公の子供時代という3つの時制を巧みに操ることで,一人称の私小説(映画)に軽やかなリズムを付与することに成功している。

素晴らしい仕事をしている俳優陣の中でも,必死に手探りで本来の人生を取り戻そうとする姿勢と経験に裏打ちされた貫禄という,相反する二つの要素を自然に同居させて見せたクリストファー・プラマーの演技には,特筆すべき輝きがあった。今年のオスカーで助演男優賞を獲得した時に贈られた拍手は,すべての受賞の中でも最も敬意が込められたものと感じられた。

父の恋人となるゴラン・ヴィシュニック(「ER」シリーズのコバチュ先生!)のキャラクターがやや曖昧で,適切な上映時間より10分くらい長いかもしれないとも感じたが,優しく物語に寄り添うシンプルな音楽と共に,3人の控えめな笑顔が忘れられない佳作だ。
★★★★
(★★★★★が最高)


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