「プラダを着た悪魔」が一つの転換点になったのだろうか。「マンマ・ミーア」における怪演としか言いようのない弾け振りと,従来型の重厚な演技を披露した「ダウト」を挟んで届けられた本作における,実在の人物へのなりきり振りを越えた演技の「大きさ」は尋常ではない。仕事を楽しみ,かつ観るものをリラックスさせながら作品の核心へと誘う技は,若い頃に得た「演技派」の勲章を,ひと味違う輝きで彩っている。30歳代前半でオスカーの両演技賞を獲得したメリル・ストリープは60代を迎えた今,第二のピークを迎えているようだ。
第2次世界大戦終了後に,アメリカの料理本の歴史を変えたと言われる本を執筆した料理家ジュリア・チャイルドの半生と,彼女が紹介した料理を1年で全て作ると宣言してブログと格闘する現代の女性ジュリー(エイミー・アダムス)を,約50年の歳月を隔てて交叉させながら描いたノーラ・エフロン監督作。
メグ・ライアンとトム・ハンクスを主演に据えたロマンティック・コメディで知られたエフロン監督は,赤狩りと9.11テロという米国社会にとって忘れることの出来ない事件を遠景に置きながら,女性が自分の人生を生きること,そしてパートナーと共に家庭を続けていくことの意味と重さを,軽やかに綴っている。
ただ,二つのエピソードの間にある時間軸のずれは,単に両者を交互に描くだけでは,うまく埋めることが出来なかったのも事実だ。ジュリアが料理の素人から達人に変わっていく過程の描写が意外にあっさりとしているため,料理を通じて思いがけず自己実現を成し遂げていくという二人の共通点には,あまり焦点が当てられない。結果的に,それぞれの人生が併行して進んでいく様を,淡々と綴っただけ,という印象が強い。
更にこの内容で2時間を越えるのも感心しない。特に出版を巡って,ジュリアを含む3人の著者グループが右往左往する件は,やや冗長だ。ここは大幅に削って100分台にまとめていれば,随分と印象は変わったはずだ。
また,「プラダ~」に続いてストリープの捕手役を華麗にこなしているスタンリー・トゥッチに比べると,ジュリーの夫役のクリス・メッシーナに陰影が足りないことに加えて,現代パートの書き込みが浅いことも残念だ。
しかしそれでもストリープの演技は,それらの点を補っても余りある。調理の途中で,フライパンからこぼれ出た料理を,「言い訳する必要はないのよ」と言いながらフライパンに戻すジュリアの大らかさは,今の彼女でなければ出せなかったであろう。
存命中のジュリアが,ジュリーのことを耳にして不快感を示したというエピソードが解決されないまま,それでもジュリアを慕うジュリーの姿で終わるラストを含めて,メグ・ライアンのお伽噺のようなラブ・コメよりもぐっと現実に寄り添った作品であるということも保証できる。エイミー・アダムスもメリルに倣って「25年後に成熟する」という目標を据えて,ゆっくりと精進して欲しい。ちょっとファンなので。
★★★★
(★★★★★が最高)
第2次世界大戦終了後に,アメリカの料理本の歴史を変えたと言われる本を執筆した料理家ジュリア・チャイルドの半生と,彼女が紹介した料理を1年で全て作ると宣言してブログと格闘する現代の女性ジュリー(エイミー・アダムス)を,約50年の歳月を隔てて交叉させながら描いたノーラ・エフロン監督作。
メグ・ライアンとトム・ハンクスを主演に据えたロマンティック・コメディで知られたエフロン監督は,赤狩りと9.11テロという米国社会にとって忘れることの出来ない事件を遠景に置きながら,女性が自分の人生を生きること,そしてパートナーと共に家庭を続けていくことの意味と重さを,軽やかに綴っている。
ただ,二つのエピソードの間にある時間軸のずれは,単に両者を交互に描くだけでは,うまく埋めることが出来なかったのも事実だ。ジュリアが料理の素人から達人に変わっていく過程の描写が意外にあっさりとしているため,料理を通じて思いがけず自己実現を成し遂げていくという二人の共通点には,あまり焦点が当てられない。結果的に,それぞれの人生が併行して進んでいく様を,淡々と綴っただけ,という印象が強い。
更にこの内容で2時間を越えるのも感心しない。特に出版を巡って,ジュリアを含む3人の著者グループが右往左往する件は,やや冗長だ。ここは大幅に削って100分台にまとめていれば,随分と印象は変わったはずだ。
また,「プラダ~」に続いてストリープの捕手役を華麗にこなしているスタンリー・トゥッチに比べると,ジュリーの夫役のクリス・メッシーナに陰影が足りないことに加えて,現代パートの書き込みが浅いことも残念だ。
しかしそれでもストリープの演技は,それらの点を補っても余りある。調理の途中で,フライパンからこぼれ出た料理を,「言い訳する必要はないのよ」と言いながらフライパンに戻すジュリアの大らかさは,今の彼女でなければ出せなかったであろう。
存命中のジュリアが,ジュリーのことを耳にして不快感を示したというエピソードが解決されないまま,それでもジュリアを慕うジュリーの姿で終わるラストを含めて,メグ・ライアンのお伽噺のようなラブ・コメよりもぐっと現実に寄り添った作品であるということも保証できる。エイミー・アダムスもメリルに倣って「25年後に成熟する」という目標を据えて,ゆっくりと精進して欲しい。ちょっとファンなので。
★★★★
(★★★★★が最高)