子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「大阪物語」:市川準 SELECTION IN 蠍座

2009年09月16日 23時33分14秒 | 映画(旧作・DVD)
札幌市北区にある名画座「蠍座」で,昨年新作「buy a suit スーツを買う」の編集作業終了後に急逝した,映画監督市川準の回顧上映祭が行われている。おかげで未見だった「大阪物語」を,(私も含めて)中高年でほぼ満席の熱気の中で観ることが出来た。

CMディレクター出身の市川準だが,21本(沢山撮ってたんだ!)の監督作品のうち半数弱を観た限りにおいては,短時間で鮮明なメッセージを伝えるCMとはまるで正反対の,喉に小骨が刺さった感触のまま劇場を放り出されるような気分を味わわされることが多かった,という印象がある。
定年を迎えた会社員,死期が迫った病人,ゲームの世界に入っていく小学生。ストレートに対象と向き合うだけで,それなりに映画的な着地点を見つけられそうな場合でも,何故か物語は一直線には進まない。
しかも時折スクリーンに現れる鮮烈なワンカットが,本筋よりも記憶に残るケースが多いものだから困る。
自分の子供がまだ小さかった頃は,「病院で死ぬということ」の中の,父親が入院してしまったため母親に「スーパー・ファミコン」を買って貰って道路に佇む子供を捉えたフル・ショットを思い出すだけで,胸が詰まってしまって困ったものだった。

ようやく観ることが出来た「大阪物語」もやはり,数多の市川作品と同様に,「浪速の漫才夫婦の物語」という通り一遍の説明では,その骨柄を全く語れない作品だった。
時に夫婦の愛の物語であり,時に自堕落な芸人の人生の物語であるのだが,結局終始スクリーンを支配しているのは,人生の「つかみ」の時期にいきなり振られた親の「オチ」を,どっしりと受け止める思春期の女の子の生理だったりするのだ。

じっくり観ると,市川作品はキャメラが動かないバスト・ショットという印象があったのに,この作品ではクロースアップは連続するわ,ズームは多いわ,ラスト近くの追跡劇では全力で駆け出すわと,せわしないことこの上ないこともまた驚きだった。
エンドクレジットに被さる尾崎豊のメイン・テーマはともかく,真心ブラザースの曲に乗っかって大阪を疾走するカットの爽快感も格別だったし。案外こういう絵や,自然と「ぶれる」お話を撮りたくて,CMから映画に移ってきたのか,と妙に納得してしまった。

「BU・SU」の富田靖子,「つぐみ」の牧瀬里穂,「トニー滝谷」の宮沢りえと,幾人もの女優を輝かせてきた市川だったが,原石の輝きの強度という点では,本作の池脇千鶴が最高だろう。その彼女が,本作の脚本を書いた犬童一心の「ジョゼと虎と魚たち」において,ここでのぞかせた萌芽を見事に咲かせたのを観た時,市川は本作の沢田研二の台詞宜しく「期待なんかしてなかったのに」と言っただろうか?


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